第4話 リマの血戦 ― 聖堂の影に潜む銃声
南米ペルーの首都リマ。
カテドラルの鐘が低く鳴り響く中、旧市街の石畳にMI6チームの靴音が急ぎ足で響いた。
街灯が落とす影の中に、赤いレーザーサイトが走る。
「……囲まれたな」
アイゼンハワードがマントを翻し、銃を抜く。
次の瞬間。空を裂くように無数の黒いドローンが飛来した。
レオ・キムが遠隔操作する群れは、蜂のように赤い光を瞬かせ、旧市街の建物を照らす。
「ゲーム開始だ、諸君。」
モニター越しのキムが冷笑を浮かべる。
マシンガンを搭載したドローンから雨のように弾丸が降り注ぐ。
セリーヌは石柱の影に身を滑り込ませ、狙撃銃を構えた。
「動きが速い……でも、外すわけにはいかない!」
乾いた銃声が鳴り、1機、2機と火を吹き墜落する。
しかし、瓦礫の隙間から姿を現したのはカリナ・ヴォルフ。
銀の瞳が闇夜を裂き、念動力が周囲の車を浮かせては路地へ叩きつける。
「フフフ……逃げ場は無いわ。」
瓦解する石畳、崩れる歴史的建築。
群衆は悲鳴を上げて散り、リマの夜は恐怖と混乱に包まれた。
ジャスパーが工具バッグを叩きつけるように開き、即席EMP装置を展開。
「ハッキングはキムの土俵だが、遊んでばかりはいられねぇ!」
EMPが炸裂し、一部のドローンが制御不能で壁に激突する。
その隙を突き、ルーカスが笑みを浮かべながら飛び出した。
「これが南米流だ!」
二丁拳銃を抜き、舞うように撃ち抜きながらドローンを次々と撃墜する。
その姿は陽気でありながら、死線を潜り抜けた戦士そのものだった。
だが、カリナは手をかざし、瓦礫の塊をMI6チームに向けて一斉に投げ飛ばした。
「フハハハハッ!」
高笑いが夜空を震わせる。
石の弾幕を、アイゼンハワードは魔力を込めた銃撃で粉砕。
爆ぜる光と影の中、彼の低い声が響いた。
「悪趣味な遊びはここまでだ……!」
聖堂の鐘楼が崩れ落ち、瓦礫と煙に包まれながら、リマの激戦はさらに苛烈さを増していった。
崩れ落ちた鐘楼の瓦礫が地響きを立て、夜のリマを揺るがした。
煙が立ちこめ、視界が奪われる――その一瞬の隙を狙うように、レッドウルフの異能部隊が現れた。
黒装束の兵士たちが無言で包囲を狭め、最新鋭の小火器が一斉に火を噴く。
セリーヌが身を伏せ、銃弾を避けながら叫んだ。
「数が多すぎる! これじゃ持たない!」
カリナ・ヴォルフが銀の瞳を輝かせると、兵士たちの動きがまるで一つの意志に統制される。
精神感応による戦術操作――まるで一つの巨大な生き物のように、隊列は正確に動いた。
「やれやれ……舞踏会どころじゃないな」
アイゼンハワードは皮肉を口にしながらも、冷徹な眼差しで銃を構える。
魔族の力を込めた弾丸が放たれ、兵士の防壁を次々と砕いた。
その瞬間、電子ノイズがチームの通信をかき乱す。
レオ・キムの声が、冷たく響いた。
「MI6の諸君、君たちは駒だ。チェックメイトは俺の手で決まる。」
ジャスパーがタブレットを叩き、歯ぎしりしながら応戦する。
「チッ……こっちの通信網が乗っ取られてる! 罠にはまったぞ!」
EMPの効果は一時的だった。
再びドローン群が復帰し、夜空を覆う光の網が彼らを閉じ込める。
ルーカスが二丁拳銃を撃ち続け、必死に突破口を開こうとする。
「Vamos, amigos! 撃ち抜いて道を開け!」
しかし、その声をかき消すように――カリナが両手を掲げた。
彼女の念動力が炸裂し、セリーヌの体が宙に持ち上げられる。
「うっ……!? くそっ……動けない!」
「フフフ……若き兵士は、まず心を折るに限る。」
カリナの高笑いが響き、セリーヌは無情に瓦礫の上へと叩きつけられた。
「セリーヌッ!」
アイゼンハワードが叫び、ジャスパーとルーカスが必死に援護射撃を行う。
だが敵の数は膨大で、火力も圧倒的。
状況を瞬時に見極め、アイゼンは低く呟いた。
「……撤退だ。今は生き延びることが最優先。」
煙幕弾が投げられ、灰色の霧が戦場を覆う。
MI6チームは瓦礫の路地裏へと後退し、夜のリマの闇に紛れて消えた。
だがその背後で、カリナの冷たい声が響く。
「次に出会う時は……彼女の命で遊ばせてもらうわ。」
闇夜に響く笑い声と、ドローンの羽音。
MI6の任務は失敗し、セリーヌが敵の手に落ちたまま、リマの夜は血と煙に包まれていった。




