第8話 深海基地アルゴス ― 実験区画
潜水艦から進入した異能特務チームがたどり着いたのは、深海基地アルゴスの奥深くに広がる実験区画だった。
そこは研究施設というより「生体の墓場」に近い。
天井から吊るされた無数の巨大水槽。
赤く発光する液体に浸された異能実験体が、まるで眠る巨人のように揺れている。筋肉繊維が脈動し、触手のような器官がかすかに蠢く。
ある個体は閉じた瞼の隙間から鋭い光を漏らし、まるで「見ている」とでも言わんばかりに、アイゼンたちを射抜いた。
格納槽からは機械の駆動音に混じり、低いうなり声のようなノイズが断続的に響く。その異様な音は金属の壁を震わせ、隊員たちの鼓動にシンクロするかのように胸を圧迫した。
管を走る異能エネルギーは青白い稲妻となり、冷たく濡れた金属床に映えて脈動する。
この区画全体が、一つの生命体の鼓動を刻んでいるかのようだった。
制御卓。
ゼフィルが無表情でホログラムに手をかざす。
「次の試作体、オペレーション・レッドを開始。アイゼン……お前に相応しい贈り物だ。」
その瞬間、警告アラームが鳴り響いた。
水槽の一つが泡立ち、液体が赤黒く濁っていく。
内部で巨大な影が目を覚まし、ガラスを叩き割る。
轟音とともに赤い液体が床へと流れ込み、化け物のような実験体が姿を現した。鋼鉄の外殻と脈打つ肉体を融合させ、片腕は巨大な刃に変形している。
触手が床を叩き、火花を散らす。
「……クソッ、こいつを出してきやがったか!」
アイゼンが銃を構える。
次の瞬間、怪物が咆哮し、鉄骨をへし折る勢いで突進してきた。
セリーヌが即座に狙撃。
閃光弾を撃ち込み、実験体の動きを一瞬止める。
その間にアイゼンは鉄骨を駆け上がり、宙返りしながら銃弾を浴びせた。
火花と血しぶきが混じり合い、廃工場じみた区画全体に散る。
しかし実験体は倒れない。
ゼフィルの冷たい声が響く。
「いいぞ……暴れろ。“贈り物”を受け取れ、アイゼン。」
怪物の触手が天井の管を絡め取り、青白いエネルギーを吸収。
体表が赤く光り、異能の力を帯びて膨張していく。
「やばい、暴走する!」
ドレイクが叫び、水流操作で壁の冷却水を放出。
高圧の水流が怪物を吹き飛ばし、ガラス壁に叩きつけた。
だが、怪物は笑うかのように咆哮し、さらに凶暴化していく。
アイゼンは歯を食いしばり、ゼフィルを睨み据えた。
「お前の“贈り物”なんざ受け取らん。ここで終わらせてやる!」
拳銃を捨て、ブレードを抜く。
冷たい金属音が響き、戦場が一気に火花と水飛沫で満たされる。
深海の実験区画が、異能と血と鋼鉄の衝突で燃え上がった。




