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【一二三書房Web小説大賞の一時選考突破】 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『仁風、町に吹く3 ― さっちゃん先生 マフィア編』

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第4話 違和感の正体

優しさってやつはね、時々見ないふりって顔をしてやって来るもんでございます。


ミヤザキ・油津の朝は早い。


カモメが鳴き、港には魚の匂いと、

少しだけ――“昨日の続き”みたいな空気が漂っている。


だがね、旅人の旦那。

どんなに穏やかな町でも、“風の向き”が変わる瞬間ってのがあるんですよ。


それに気づくのは、だいたいよそ者だ。




「……今日は、ちと空気が重いな」


理髪店の前で煙草をくゆらせながら、アルがぼそりと呟く。


なつこは、店の戸を開けながら振り返る。


「そうですか? いつも通りですよ、この町は」


「“いつも通り”ほど、怪しい言葉はないぞ」


「もう、またそういうこと言って」


笑っている。

だがその笑顔、どこか一瞬だけ、引っかかった。


その日、アルはひとりで町を歩いた。


魚屋のヨネの前を通る。


「おう、アルさん! 今日もいいの入ってるよ――」


威勢よく声をかけたヨネだったが、

店の奥に誰かの影が見えた瞬間、声が一段落ちた。


「……今日は、もう店じまいでさ」


「ほう? まだ昼前だが」


「……そういう日もあるんだよ」


無理やり笑う。

魚よりも、その目の方がよっぽど“生気がない”。


焼き鳥屋の大吾も同じだった。


「アルさん! 昼から一杯どうです?」


「よかろう」


席に座る。


だが、焼き台の火が妙に弱い。


「どうした、火が元気ないぞ」


「……あんまり煙出すと、怒られるんすよ」


「誰にだ?」


「……いや、まぁ、その……風向きっすよ、風向き」


苦笑い。


――風向きねぇ。


その頃。


理髪店では、なつこがひとり、鏡を拭いていた。


手は動いている。

だが、心はどこか別の場所にある。


カラン♪


ドアの鈴が鳴る。


ビクッと、肩が跳ねた。


「……いらっしゃいませ」


入ってきたのは、黒いシャツの男。


首元に光るネックレス。

笑っているが、目が笑っていない。


「よぉ、なつこさん。今日も綺麗だねぇ」


「……ご用件は」


「つれないねぇ。俺たち、仲間だろ?」


その言葉に、なつこの指先が止まる。


夕方。


アルが店に戻ると、

なつこはいつも通りの顔で迎えた。


「おかえりなさい。どうでした? お散歩」


「……いい町だな」


「でしょう?」


「ただし、“いい町すぎる”」


「……どういう意味ですか?」


アルは椅子に腰かける。


「人はな、隠し事があると、急に優しくなる」


「……」


「そして、その優しさは、だいたい長続きせん」


なつこは、タオルを握る手に力を込めた。


「……アルさんは、考えすぎです」


「そうかもしれんな」


あっさり引く。


踏み込まない。


それがこの男のやり方だ。


少しの沈黙。


やがて、なつこがぽつりと呟く。


「……この町、好きなんです」


「知っておる」


「でも……」


言いかけて、やめる。


「……なんでもありません」


「そうか」


それ以上は、聞かない。

聞けば、この“日常”が壊れると知っているからだ。



夜。


理髪店の灯りが落ちる。


外では、誰かの車が止まり、

低い声が、路地に滲む。


「……今月の分、忘れてねぇだろうな」


「……はい」


その声は、風に混ざって消えていく。


二階の窓辺。


アルは煙草をくわえ、静かに呟いた。


「……優しさってやつはな」


煙が、夜に溶ける。


「見て見ぬふりをする時に、一番試されるもんだ」


遠くで、また鈴が鳴る。


カラン……


それは、風か。


それとも。



さて皆さん。

この町、どうやら“ただのいい町”じゃなさそうでございます。


優しい人ほど、嘘をつく。

守りたいものがある人ほど、黙り込む。


それがね、人間ってもんなんですよ。


さあ、この先どうなることやら。

旅の魔族のおっさん、もう引き返せないところまで来ちまったみたいで。


次回、ちょいと波風が立ちますよ。



つづく

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