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【一二三書房Web小説大賞の一時選考突破】 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『仁風、町に吹く3 ― さっちゃん先生 マフィア編』

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第6話 花火大会の帰りの夜、交錯する想い

さあさ皆さん、お立ち会い。


恋ってやつぁ、花火みたいなもんでしてね。

上がるときゃド派手に上がるが、落ちるときゃ一瞬。

残るのは煙か、思い出か……それは当人次第ってわけで。




「……似合ってるじゃん」


「……は? 聞こえない」


「いや、だから。似合ってる、髪型と浴衣」


由比ヶ浜の海辺で、カズヤは照れ隠しにそっぽを向いていた。

目の前には、先輩の妹。長瀬智子。

紫陽花模様の浴衣に、髪は緩やかにまとめられ、普段のキツさが少し和らいで見えた。


「……あんた、昨日は“キャンキャン吠える犬”とか言ってたくせに」


「ちょ、ちょっとはフォローさせてよ!」


「ふふっ、しょうがないなあ。じゃあ、かき氷、半分こしてあげる」


「……マジで? …え、ブルーハワイかよ!」


「何? 文句あんの?」


「いや……ないです……(あるけど)」


カズヤの心はすでに、冷たいかき氷よりもずっと、ぐらぐらに煮えていた。



若いねぇ。

たかが氷一杯で心がこんなに揺れるんだから、安上がりで羨ましい。


夜。


ドンッ――!!


花火が上がる。

腹に響く音と、空に広がる色の洪水。


紅、藍、金、紫。

一瞬で咲いて、一瞬で消える。


挿絵(By みてみん)



「……あんた、ほんとに大企業の営業マンやってんの?」


「一応……やってます。上司には怒られてばっかですけど」


「ふーん。案外、ちゃんとしてんのね。ちょっと見直した」


「それ、素直に言ってくれない?」


「やだ、照れるから」


「こっちが照れてんだよ!!」


――やれやれ。

喧嘩して、笑って、また喧嘩して。

これが恋の前座ってやつでさぁ。


「……カズヤ」


「ん?」


「また、どっか遊びにこうよ。あんたと一緒に」


「……うん」


ドンッ、と大玉が上がる。

その音に背中を押されるように、

カズヤの胸の中で、何かが決まった。


(……言うか)


花火が終わり、

人波が引いていく。


静かな神社の裏手。

波の音と、虫の声だけが残る。




神社の裏手。

人の気配も消えた、静かな夜。


石段の脇、古い木の根元に腰を下ろして――

アイゼンハワードは煙草に火をつけていた。


チッ……ボッ。


赤い火が、闇の中で小さく灯る。


「……ふぅ」


ゆっくり吐き出した煙が、夜気に溶けていく。


(……若い連中は、そろそろ来る頃か)


足音。


砂利を踏む、ぎこちないリズム。


(来たな)


アルは振り向かない。

あえて、気づかないふりをする。


「……あんた、こんなとこでなにしてんの?」


智子の声。


「……待ってたわけじゃねえからな」


カズヤの声。


(へっ、来やがった)


アルは煙草をくわえたまま、ほんの少しだけ目を細める。


二人はすぐ近くのベンチに座る。


距離は、近いようで遠い。


「今日の花火、綺麗だったな。お前も…ちょっと、綺麗だった」


(お、言うじゃねえか)


煙を吐きながら、ニヤリとする。


「“ちょっと”が余計。ほんっと下手ね、そういうの」


(そりゃそうだ)


アルは小さく肩を揺らす。


「……なあ、今日さ」


「……なに?」


(来るぞ)


煙草の火が、わずかに強く光る。


「言えなかったこと、もう一回だけ言っていい?」


「……どうぞ?」


沈黙。


夜の音だけが流れる。


「俺、お前のこと――」


その瞬間。


アルの指が、ぴたりと止まる。


煙草の灰が、ぽとりと落ちた。


(行け……)


だが。


「……無理、やっぱ無理!」


「……チッ」


小さく、舌打ち。


二人には聞こえないくらいの、ほんのわずかな音。


「ご、ごめん!あんたが悪いんじゃない! でも……!」


(ああ……そっちの無理か)


アルは、煙を深く吐いた。


「……わかった。こっちこそ焦った」


(強がりやがって)


少しだけ、目を細める。


その横顔は、どこか昔を思い出しているようだった。


「……バカ」


智子が立ち上がる。


足音が遠ざかる。


カズヤは、追わない。


追えない。


(行けよ……)


心の中でだけ、呟く。


でも、声にはしない。


それが、この距離だ。


「……でも、いつかリベンジさせてくれ」


その一言に、


アルは、ふっと笑った。


「……悪くねぇ」


小さな声。


煙に紛れて消える。


「……しらない」


智子の背中が、わずかに揺れる。


(完全に終わりじゃねぇな)


煙草を指で弾き、火を落とす。


ジッ、と音を立てて、地面で消える。


「……帰るか」


カズヤが立ち上がる。


その背中を、暗がりの中から見送る。


アルはようやく立ち上がり、軽く腰を叩いた。


「やれやれ……」


ポケットに手を突っ込みながら、ぼやく。


「若いってのは、面倒くせぇな」


少し間を置いて、


「……だから、いいんだが」


誰もいない夜に、ぽつり。




そして、二人とは逆の方向へ歩き出す。


近すぎず、遠すぎず。

見守るってのは、そういうもんでしてね。


煙の残り香だけが、

神社の裏に、静かに漂っていた。

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