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【一二三書房Web小説大賞の一時選考突破】 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『仁風、町に吹く3 ― さっちゃん先生 マフィア編』

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第5話 盆踊りの夜

恋ってやつはね。

言葉で始まるもんじゃないんですよ。


むしろ逆で、言葉にできなくなったとき

それが、本物になっていく。


言えない、でも、離れたくない。

そんな夜が、一度くらいあってもいいじゃないですか。




夏の夜。

地元の広場。

やぐらの上で太鼓が鳴る。


ドン、ドン――


提灯が円を描くように吊るされ、

その下で人々がゆっくりと踊っている。


浴衣、下駄、団扇。

どこか懐かしい、昭和の匂い。


人混みの端

カズヤは、ぼんやりと立っていた。


(……気まずいな)


昨日のケンカ。

言いすぎた言葉。


頭の中で何度も繰り返している。


そのとき――


「……来てたんだ」


後ろから声。


振り向くと、智子。


昨日と同じ浴衣。

でも、少しだけ表情が違う。


「……まぁな」


「……ふーん」


沈黙。


太鼓の音だけが響く。


ドン、ドン。


二人、並ぶ。


何も言わない。


でも離れない。


◆盆踊り


「ほら、行くよ」


智子が、ぽつりと言う。


「え?」


「盆踊り」


「いや俺、ああいうの……」


「いいから」


手首を、軽く引かれる。


輪の中へ。


周りに合わせて、ぎこちなく動くカズヤ。


「それ、逆」


「うるさい」


「ほんと不器用ね」


「そっちこそ」


小さなやりとり。


でも、ケンカじゃない。

少しだけ、やわらかい。




踊りが終わる。

人の流れがゆるやかにほどけていく。


屋台の灯り。

遠くの笑い声。


二人は、少し離れたベンチに座った。


「……昨日は」


カズヤが口を開く。


でも――


「……いいよ」


智子が先に言う。


「どっちも悪いし」


「……」


「……」


また沈黙。


でも、不思議と苦しくない。


ただ、隣にいる。


それだけで、いい気がした。


ふと手が、触れた。


ほんの少し。


偶然みたいに。


でも

どちらも、引っ込めない。


そのまま。


少しずつ。


指先が、重なる。


カズヤが、そっと握る。


智子、抵抗しない。


むしろ


少しだけ、握り返す。


ドン、ドン。


太鼓の音が、遠くで響く。


提灯の灯りが、揺れる。


「……なあ」


カズヤが小さく言う。


「ん?」


「……なんでもない」


言えない。


言葉にしたら、壊れそうで。


でも、手は、離さない。

智子も、何も言わない。


ただ、隣にいる。

その温もりだけが、

確かに伝わってくる。




風が、少しだけ涼しくなる。


夏の終わりの気配。


「……あんたさ」


智子がぽつりと言う。


「なに」


「……ずるいよね」


「は?」


「そうやって、何も言わないくせに」


「……」


「でも、離さないし」


少し笑う。


でも、どこか切ない顔。


カズヤは答えない。


ただ、手を少し強く握る。

智子も、同じように握り返す。


挿絵(By みてみん)


言葉がなくても、伝わるものがある。


むしろ、言葉がないからこそ、はっきりわかることもある。



好きだとか、恋だとか、そんな名前をつける前の

ただ、そばにいたいっていう気持ち。


それが、ゆっくりと積もっていく夜。

それが、恋でございます。



つづく

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