72:『笹の葉さーらさらー♪』
滅鬼の刃 エッセーラノベ
72:『笹の葉さーらさらー♪』
笹の葉さーらさらー♪ 軒端にゆーれるー♬
この一節で7月7日を連想して七夕を偲べる人は50歳以上……かと思って、保育所・幼稚園・七夕で検索したら、今でも保育所や幼稚園ではちゃんとやっているようです。
そう、今年も七夕の日がやってきました。
栞を引き取ったのは、小学校も高学年でしたので「笹の葉さーらさらー♪」というのはやりませんでした。
いちど、仕事帰りに布施の商店街で七夕ケーキというのを買って帰ったことがありました。ベースはレアチーズケーキで、表面は青いゼリー、ミルクっぽいものと微小なスパンコールみたいなので天の川を表現していて雰囲気があったのと——二割引き——の札に魅せられて買ってしまいました。
「宇宙戦艦ヤマト?」
ちょうど宇宙戦艦ヤマトの新シリーズが評判でしたので、栞の第一声は期待を裏切りました。あのころは、まだ布施に映画館があって、ちょうど映画がかかっているのを知っていたんですね。たしかに、ケーキの上に古代進と森雪のアクリルフィギュアを載せたら宇宙戦艦ヤマトです。
それでも、その時は機嫌が良くて「あ、そういえば……」と気を取り直し、天の川を切り分けていっしょに食べてくれました。
夕べ、その話をすると「そんなこともあったかな……」と微妙なテンションで返ってきて、こんな質問をします。
「ねえ、かぐや姫って、月でどんな悪いことをしてきたの?」
あ、混同してる……と思いましたが、せっかくの質問。孫娘が振ってきた素朴な疑問に答えてやります。
「ああ、不思議だよな。竹取物語とかかぐや姫読んでも、そこのとこ書いてるのは無いもんなあ」
「うん、ゼミの友達とジブリのかぐや姫を話したことがあるんだけど、けっきょく分からないんだよね」
ジブリ版かぐや姫は、高畑勲監督の遺作で、人によってはジブリの最高傑作だと言います。
ゲド戦記以降のジブリ作品はあまり見ていないのですが、せっかくの質問なので、答えてやりました。
「かぐやというのは仮の名前なんだ」
「え?」
「小さいとき、無心に遊んでいる姫を見て、都の陰陽師みたいなオッサンが『なよたけのかぐや姫』と名付けたのが最初だ」
「え、そうなんだ。おじいさんおばあさんが付けたのかと思ってた」
「おとぎ話とか子供向きの本には、そうしてるのもあるけどな」
実は、若いころ芝居をやっていて、その時のレパートリーに『なよたけ』というのがありました。加藤道夫氏の作品で、僕らの世代では『夕鶴』と並んで憧れの作品でしたが、五幕九場の大作で手が出ませんでした。
「かぐやは月の女神だけどな、ちょくちょく地上に降りてきて狩りをしとった」
「え、かぐやって狩りとかやるの?」
「もちろん。ナヨっとした十二単なんかじゃないぞ。華奢な体にミニのチュニックワンピを身にまとい、キューピットが持っていそうな短い弓を携えてな、兎や雉はもちろんのこと、熊や狼でも一発で急所を射抜いて仕留めておった!」
「ほお」
「細身で身軽なかぐやは、森の中でも器用に走り回り、枝から茂み、茂みから枝、器用に素早く飛び移っては獲物を狩っておった。そんなある日、狩りに熱中して汗をかいたかぐやは、森の泉で水浴びをしておったんじゃ」
「なんか、物語のお爺さん風だよ(^^;)」
「え、あ、雰囲気雰囲気(^⋄^;)。その水浴び姿を狩人の男が見てしまいおった。小柄で、メリハリの少ない体形をしておったが、狩人は、そういうスレンダーな女が好みでな。ガン見というかマジマジというか熱がこもっていたんで気づかれてしまいおってな。かぐやは眉を逆立てると、一瞬で男を鹿に変えてしまい、男は自分が連れていた猟犬に追いかけられ、かみ殺されよったんじゃ」
「太宰治の『カチカチ山』に似てるね、『惚れたが悪いか!』ってタヌキは沈められちゃったんだよね」
「兎は、惚れられてからブチ殺すまで時間をかけよったがな。柴に火を点けたり、やけどに辛子を塗りたくってやったり」
「そうそう、タヌキも、いいかげん気づけよなって感じ」
「ああ、あれがかぐやだったら、カチカチ山は三行で終わっとる。惚れられた! 気持ち悪い! ぶち殺した!」
「アハハハ」
「そうだろ。両方とも処女神は怖いちゅう話なんだが、さすがに一瞬で殺すのはやり過ぎだというので、かぐやは月に呼び戻され、罰として赤ん坊に戻され、全ての記憶を消され、改めて日本に送られた!」
「ええと、その前半、覗いた男を鹿に変えて猟犬にかみ殺されるってとこ……」
「うん?」
「アルテミスの話に似てなくない?」
「え?」
「一回生の時、比較神話学てのとって、聞いたような気がする……」
「え、そうなのか(^^;)」
……(⩌_⩌)
あ、さすがにジト目。
「あ、雨も止んだし、ちょっと買い物に行ってくるわ」
近所のスーパーで買い物をして、イチゴをベースにした七夕ケーキを見つけて帰りましたが、とうに出かけてしまった孫でした。
☆彡 主な登場人物
・わたし 大橋むつお
・栞 わたしの孫娘
・武者走 腐れ縁の友人(35回より故人)




