71:『ストレンジャー(Stranger)・3』
滅鬼の刃 エッセーラノベ
71:『ストレンジャー(Stranger)・3』
お祖父ちゃん、パソコンに向かって30分も腕組みしています。
モニターの画面には——Stranger、もう少し続きます——のところで停まっています。
前号の締めくくりです。
「フフ、なに書くか忘れたんでしょ」
「え、いや、そんなことは(^^;)」
そう言うと、自転車で散歩に行ってしまいました。
Stranger よそ者って意味ですね。
小学校の時、お祖父ちゃんに引き取られて、お互いにStrangerでした。
むろん、それまで、何度もお祖父ちゃんの家には来ていたし、いっしょに遊んだり、あちこちいったりしました。
でもね、いっしょに住む、いっしょに暮らすというのは別なんですよね。いつも、いっしょにご飯食べるし、同じ風呂に入るし。そうそう、洗濯物がいっしょだというのは馴染めなくて、中学に入ったころは別に洗ってました。お祖父ちゃんの洗濯が終わったあと、一度洗濯槽を洗って、それから自分のを洗ってました。
お祖父ちゃんはいっぱい本を持っていて、その点は好きでした。ただ、わたしとは読む本が違って、本の背中をみると、やっぱりStranger。中央公論の日本史やら世界史、司馬遼太郎やら海音寺潮五郎、吉川英治に山岡荘八とかの歴史小説。国語便覧の親玉みたいなの。武術や鎧の辞典。昔の地図の本に背表紙の焼けた岩波歴史講座。そうそう国史辞典とかいうのがあって、日本史のことだけで、十何巻もあって、もう怪物です。
お祖父ちゃんは、歴史書とかが多いのは職業柄。「歴史の学者になればよかったのに」と言ったことがあります。
「こんな歴史書やら雑学ばかり読んでるようじゃ学者にはなれない」
「えぇ、なんで?」
「学者っていうのは一次資料にあたるんだ」
「イチジシリョウ?」
「ああ、昔の人が書いたり残したりしたもの、遺跡とかから出てきたものとかな」
「うぅん?」
よくわかりませんでした。
気が付くと、テレビが高市さんの悪口を言っています。お祖父ちゃんはパソコンの他に50インチのテレビを置いています。こいつもStrangerです。
お祖父ちゃんはテレビは見ないんです。パソコンとかゲーム機のモニター代わりなんです。テレビは4Kだし、画面も大きいんですけど、フレームレートが出ません。最高で60FPS、早い動画なんてカクカクして使い物にならないんですけど、たぶん分かってないんだと思います。まあ、目も悪いし、画面の小さなモニターではおちつかないんでしょうねえ。
でも、なんでテレビ点いて……あ、自分で点けたんだ。
わたし、歳の割にはテレビを点けます。
お祖父ちゃんの家に来るまで、家ではいつもテレビが点いていたからです。お茶の間では、いつもテレビが独り言を言っていました。「どういう感覚?」と友達に言われたこともありました。
「う~~ん、リビングとか、いつも灯り点けてるでしょ、人が居なくても?」
「え、テレビが灯り?」
「まぁ、ええと、昔の人って聴いても居ないラジオとか点けてたじゃない」
「ああ、時計代わりとか?」
「え、ああ、まあ、そんなの」
「フフ、栞って、お婆ちゃんみたいだ」
「アハハ、そうかもね」
友だちとは適当なところで折り合いをつけて、世間話とか無駄話とかでも深入りはしません。人というのは基本、お互いにStrangerなんだと思ってますからね。
訳知り顔のコメンテーター、こいつは特級のStranger。表情の醜さは、もう特級呪物。
なにか、尻尾の先までコメントしたくて早口になって、ADさんが——あと3秒——とか指を立ててるんだ「だから……」と締めくくろうとしたらCMになってしまった。
今どき、どんな企業がCM出してるんだろう?
久々に『提供』がスクロールされるのを見ていたらGoogleが出てきた!
テレビにとってGoogleは完全なラスボスStrangerでしょ。いいのかい?
なんか、開き直ってるなあ……いや、これは見習った方がいいかも。逆転の発想をしかけた栞でした。
☆彡 主な登場人物
・わたし 大橋むつお
・栞 わたしの孫娘
・武者走 腐れ縁の友人(35回より故人)




