69:『ストレンジャー(Stranger)・1』
滅鬼の刃 エッセーラノベ
69:『ストレンジャー(Stranger)・1』
高校一年だったか二年だったか、英語の教科書に Strangerというのが出てきました。
小学校から大学のゼミまで予習などしたことはなかったのですが、高校の英語だけは別でした。
なぜかというと、高い確率で当てられるからです。
「セクション・1、三行目から読んで」とか「訳して」とか「単語の意味は?」とか先生が質問します。適当に指名されたり、席の前から順番に当てたり、予断を許しません。
少ない日で7人ほど、多い日だとクラスの半分が当てられるので、恥をかかないように予習します。列ごとに当てられる時もありますし、日にちで当てられたり、贔屓の野球選手の背番号であったり脈絡がありません。昔の先生は、こういうところで生徒をヒヤヒヤさせて喜んでいました。
ですので、辞書を片手に最低でも単語の意味は調べておきました。
そういう単語の一つにStrangerがありました。
隣の列の女子が当てられて「ストレンガー」と発音して訂正されました「ストレンジャーと読むんや」と先生が訂正すると、今でいう『テヘペロ(๑><๑)』をカマシて笑いを誘っていました。令和の今日と違って(๑><๑)のリアクションはテンプレではありません。新鮮なリアクションでしたので、先生もクラスのみんなも自然に「ウフフ( ´艸`)」と笑っておしまいでした。
ああ、こういうリアクションはとれないなあと羨ましく思ったものです。ちなみに、その子は中学のとき東京だったか横浜だったから越してきた子で、時々関東訛りの大阪弁だったりで人気がありました。
昔の大阪は、東京から来たというだけでアドバンテージではありました。
あ、Strangerというのは外国人またはよそ者という意味ですね。良いニュアンスではありません。彼女はStrangerでありながら、クラスの雰囲気に溶け込むことなく——郷に入っても郷に従うことなく——自分の場所を作りました。えらいもんです。
英語の授業は理不尽でした。
当てられて、きちんと答えられない、あるいは間違うと、先生は「つぎ」と無表情に別の者を指名します。答えられなかった者は、その瞬間にStrangerになってしまいます。
ある日「この和文を英訳して」と当てられました。幸い調子のいい英文でしたのでスラスラと黒板に書けました。
間違いは無いと思ったのですが、先生は腕を組んだまま「なにか抜けてないかぁ」と首をひねります。教室のみんなは「……ええ?」が七分、「あ……」が三分といったところです。
ええと…………
何度読み返してもミスは無い……と思いました。
すると先生は、黒板に大きく『be動詞!』と書きました。何人かがクスクスと笑いました。Stranger女子など「プ( ´艸`)」とアニメのキャラのように噴き出していました。
be動詞ですからisかareだったのでしょう。中学レベルのミスでもあったのでしょう。
確かにbe動詞を忘れると、能動・受動がひっくり返ったりする場合がありますが、言葉というのはニュアンスとか調子というものがあります。おおよその意味は通じます。
先生が赤チョークを横に持って特大のisだかareだかを書き足しておしまいだったのですが、そういうことがニ三回あって、英語の授業では完全なStrangerになってしまいました。
実のところ英語は好きでした。
『ウエストサイドストーリー』や『サウンドオブミュージック』を映画館で観て——かっこいい!——と感激して、レコード屋に行ってLPを買って、一年足らずでほぼほぼ歌えるようになりました。『ローマの休日』は英語で観ていましたし、『マイフェアレディ―』のヒロイン、イライザのロンドンの下町訛りも面白くて、英文をイライザの訛りで音読して喜んでおりました。以前も書きましたが『メリーポピンズ』のおまじないの言葉——ビビディバビディブー——を正確に発音して悦に入っている変な子ではありました。
しかし、現実の生活で英語を使うことはありませんので、今ではカラッキシであります。
ええと……実は、英語の授業ではなくてStrangerについて書きたかったのですが、次回にまわします。
☆彡 主な登場人物
・わたし 大橋むつお
・栞 わたしの孫娘
・武者走 腐れ縁の友人(35回より故人)




