65:『武者のメモ・5・キャベツ人間の怪』
滅鬼の刃 エッセーラノベ
65:『武者のメモ・5・キャベツ人間の怪』
武者もわたしも貸本世代です。
貸本というのは本のレンタルをやる商売で、風呂屋と同じくらいの割合で存在していました。じっさい、風呂の帰りに親父に連れられて漫画本を借りたのが最初でした。
小学生のころ、月刊漫画雑誌の最盛期で、毎月四五冊は借りて読んでいました。『少年』『少年クラブ』『冒険王』『少年画報』『日の丸』『ぼくら』などで、古希を過ぎた現在でも、妄想の原点は、この少年雑誌に根があるように思います(16:組み立て付録)。
今回のテーマは、少年雑誌ではありません。魅力的なテーマなのですが、底なし沼なので、貸本以後のことから入っていきたいと思います。
中学からは『中一コース』だったか『中一時代』だったか、漫画とは縁のない学習雑誌になりました。
これは貸本ではなくて、親父が会社出入りの本屋から買って、持って帰ってくれました。
その『中一雑誌』には付録で小説が付いていて、わたしや武者が小説、大げさに言うと文字文化に入っていく入り口になりました。
その付録の小説、タイトルは忘れましたが、こんなのがありました。
人の性格がガラッと変わってしまうところから始まる話です。
意地悪だったり因業だったり欲深だったり暴力的だったり、そういう問題のある町の人たちが、ある日、突然いい人に変わります。
実のところ、それは宇宙人か何かがすり替えた偽者という展開で、本物は消されたか連れ去られるかして居なくなってしまい、地球はそのままでは偽者ばかりになって宇宙人に支配されてしまいます。
「むちゃくちゃ怖いなあ!」
休み時間、武者と盛り上がったのが昨日の事のように思い出されます。
なんと、偽者はキャベツから生まれてくるのです!
町は、いつからかキャベツ栽培が流行し、それに気づいた主人公がキャベツ畑を見張って入れ替わりの現場を目撃! そのあと、キャベツ人間に追いかけられ殺されかけたりしながら、町中のキャベツとキャベツ人間をぶち倒し、町に平和を取り戻すというホラー小説です。
まるでキャベツ人間や!
久々の研修で出会った武者と帰り道、奴は自販機のコーラを半分飲んで、ゲップと共に吐き出しました。
「あ、ああ……」
それだけで意味が通じて、やつの話が続きます。
そのころ組合で大きな問題が論議されていました。
自分たちの組合は、大きく言うと日教組でした。実際は、その傘下にある大教組(大阪府教職員組合)のうちの高教組の所属になります。
この大教組が日教組と折り合いが悪くなって——どうしようか!?——ということになりました。
日教組は、おおよそ連合。大教組のかなりの部分は共産党系です。
平組合員の我々は、連合も共産党もありません。良く言えば生徒の教育環境と教職員の労働環境改善のために。有り体に言いますと町会や同窓会同様、成り行きや世間の付き合いのために入っています。
連合的色彩が強くなっていく中で、まあ、大教組は日教組に留まるべきではないという声が大きくなり、連日議論していました。
意見は違っても、お互いの意見に耳を傾け「まあ、それも分かるねんけど……」「ここを、もうちょっと説明してぇ」「いや、ここはやねえ」と辛抱強く話し合っていました。
いつからか、日教組を抜けようという話になりました。大教組全体で日教組を抜けるという話になってきたのです。
決まりでは大教祖が上部組織である日教組を抜ける場合は組合員全の投票で確認しなければなりません。それで「もう、全員投票で決めよう」という方向になりかけて、武者のところもうちの学校でも、その方向で決まりかけていました。
それが、ある日突然『全教(全日本教職員組合)』の傘下に入るということになりました。
「全員投票にかけならあかんでしょ!」
武者や我々は当たり前のことを言いましたが、返ってくる返事はこうです。
「上部組織を入り替えるのではなくて、自分たちで新しい組織を作るんだから、全員投票の必要はない!」
これが、答えでした。
昨日まで「全員投票しなくちゃダメかもねえ」と言っていた先輩や同僚が、クルリンと札を反すように180度変わってしまいました。
あ、民主集中制や( ゜Д゜)。
校内の問題では理解も共感もできていた仲間が、突然、電気を通さない不導体になってしまいました。
それで「まるでキャベツ人間や!」と武者がゲップとともに吐き出したわけです。
あのころは、まだ三十代。熱容量の高いゲップでしたので、そのまま空に舞い上がり、そういうのが日本中世界中から舞い上がって、地球温暖化の原因になったのではないかと、妄想したりしました。
☆彡 主な登場人物
・わたし 大橋むつお
・栞 わたしの孫娘
・武者走 腐れ縁の友人(35回より故人)




