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滅鬼の刃  作者: 大橋むつお
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62:『武者のメモ・2・停学くん』

滅鬼の刃 エッセーラノベ    


62:『武者のメモ・2・停学くん』 





 浅い経験と知識ですが、高校における停学は最大三週間でした。


 土日は勘定に入れていませんから、実質15日ぐらいです。無期停学は名称では無期なのですが、たいてい16日間です。制度的には何日にでもできるのですが、そんなところです。ですから、有期停学と無期停学の差は1日だけというのが、わたしや武者の勤務校では相場でした。



「今度は、ほんまもんの無期停や……」



 そう言って武者がため息をついたことがあります。


 前回で触れた50日停学の件です。


「薬物に関わる事案やさかいなあ、本来は退学やねんけどなあ……前に一回停学やっとるし……」


 最後まで言葉にはせずに、ため息を重ねておりました。


 詳しくは言いませんでしたが、こじれて間に弁護士が入っているのかもしれません。マスコミも興味を持っているのかもしれません。学校というのは、そういうものには無力です。


 ただ、学校は15日プラス一日ではなく、本来の意味での無期停学にしました。


 停学というのは、自宅に留め置いて反省文を書かせたり課題を与えたり。途中、担任や生活指導の教師が二回以上家庭訪問(訪問指導)して様子を見ます。そして、特段の問題が無ければ会議に諮られ解除ということになります。


 しかし、本人の気力や性格、家庭環境で——やりとげられない——と判断されるときは、適宜登校させます。適宜でダメなら毎日登校させます。他の生徒と登下校が被らない時間を設定しますが、別室に居させて課題をやらせたり、対面指導をしたり。


 この間、武者は毎日当該生徒に付き合いました。朝、出迎えて一日のことを報告させ、日報をチェックし、その日の課題を説明します。課題の合間に、たいてい掃除をさせます、広い校内ですので掃除や草むしりはいくらでもできます。


 その指導に、武者は毎日付き合いました。週に一度の家庭訪問も欠かしません。担任には相当な負担になりますので、生活指導部で複数の教師に振り当てるのですが、武者は、ほとんど一人でやりました。


「教室に戻さならあかんからなあ」


 停学が明けて教室に戻すのが大変です。生徒にもよるのですが停学でハクの付く場合があります。いわゆる『オツトメ帰り』で一目も二目もおかれ、悪い意味でクラスや学校の顔になっていきます。そういうことにならないよう、当該生徒とのパイプを維持して、できれば無事に進級・卒業させてやる。


 そのために、言葉は悪いですが——マウントをとる——ことが必要なんですねえ。


「いやあ、お母ちゃんやら弟妹とも仲良ぅなったで(^^;)」


 生徒と、その保護者との人間関係や一定の信頼関係が無ければ、その後の指導が入らず、下手をすれば「うちの担任はダメだ」と思われ、高い確率で学級崩壊してしまいます。


 当時は、やつの詳しい事情も知らずに「大変だったなあ」ぐらいの言葉で済ませていましたが、いやはや、壮絶な仕事ぶりのようです。



「すまん、今日の忘年会、途中で抜けるわ」



 そう言って、仲間内の忘年会を中座して、お開き直前に戻ってきたことがあります。


 むろん武者の事です。


 年末でもあり、他の仲間もいましたので、その時は聞きませんでしたが、メモというか備忘録を読むと、例の停学くんのことでした。


 停学くんは、そのころほとんど学校には来なくなっていたのですが、ある日『今から行くわ』と電話がありました。


 職員室の作業テーブルに着くと、停学くんは、こぶしを握り締めて俯いてしまいます。


「どないしたんや……言わなら分からへんやろ」


 水を向けると、嗚咽しながら言いました。


「妹が自殺した……」


「え?」


 武者は、立ち上がると、作業机をグルっと回って後ろからハグしてやりました。


 隣のデスクで作業をしていた教務助手の女性の手が一瞬、停まってしまいました。


 武者は、家庭訪問を繰り返していて、その妹のことも知っていました。不登校で、たまにバイトに行きますが、ほとんど家に籠って寝ているかテレビゲームをしているだけの少女だったそうです。


 ある日、停学くんが家に帰ると妹は自死していました。


 まだ体が暖かく駆け付けた救急隊員に「まだ間に合うやないか!」と言って縋りましたが、その場で死亡が確認され、入れ替わりに警察がやってきたそうです。


 その妹のお通夜と忘年会が重なって、武者は中座したんですね。


 仲間の一人が「大変やったねえ……」と労いますと「アハハ、アリバイアリバイ」とアリババの呪文のように笑って、温くなった酎ハイをあおりました。


 そうなんですねえ、アリバイという呪文を呟いて、首の皮一枚のところで『仕事』と割り切っていないと、この仕事は持ちません。


 

 簡単に書きましたが、奴の残したのは備忘録、普通に言えばメモか落書きの類です。捨てずに残していたのは、いつかまとめて書き直そうと、たぶん思っていたんでしょう。



「ゲ、この紙屑から順番に探したわけぇ……」



 驚くというより、呆れ顔の孫娘でした。




☆彡 主な登場人物


・わたし        大橋むつお

・栞          わたしの孫娘 

・武者走       腐れ縁の友人(35回より故人)


 

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