61:『武者のメモ・1・スクールポリス』
滅鬼の刃 エッセーラノベ
61:『武者のメモ・1・スクールポリス』
『753』とか『七五三』とか、五枚のメモがあって、一枚だけは小さな色紙に筆書きされています。
色紙のは、素人目にも書道の達人の手によるものだと分かります。おそらくは、書道の先生に書いてもらったものでしょう。ちゃんと落款まで押されています。少し陽に焼けているので、たぶん、自分の机の上にでも掛けていたのでしょう。
あ、自分というのは武者の事です。
五枚のメモは、色紙に至るまでの——さて、どうしようか——と思案の跡でしょう。
で、『753』とか『七五三』とか、子供の成長を祈念し無事を感謝する伝統行事のことではありません。教師の定年退職後の平均余命のことです。
平で7年、教頭5年、校長3年…………という意味です。
きちんと確認したわけではありませんが、記憶の中で定年前後で亡くなった先生が大勢います。校長一人、教頭二人、平教師八人、記憶にある方だけで、それだけ亡くなっています。六十台も半ばを過ぎると連絡も来ませんので、実数はもう少し多いかもしれません。
教師は他職よりも寿命が短い傾向があると言われます。前世紀の終わりごろILO(国際労働機関)が「勤務中の教師の緊張は前線の兵士のそれに匹敵する」と発表したことがあります。日本では、まだ聞いたことがありませんがアメリカなどでは、勤務中に校内で射殺される教師が一定います。命にかかわりますので、アメリカの学校にはスクールポリスというのが配置されていて、複数校を掛け持ちというのもあるようですが、じっさい制服を着て武装したポリスが常駐あるいは巡回しているのですから深刻です。
勤めていた学校にアメリカの先生たちが視察に来たことがありました。案内は英語の先生がやっていました。
昇降口までやってきて、アメリカの先生が横の部屋を指さします。
「この部屋はなんですか?」
そこは生活指導室だったのですが、英語に『生活指導』にあたる言葉が無いそうで、英語の先生は『スクールポリス』と訳しました。アメリカの先生も「オー、アイシー」と納得されました。
この稿を書くにあたってググってみると、生活指導には『school guidance、 career guidance 、 guidance 』というのが出てきましたが、学校の——治安を預かる——というニュアンスが欠けます。英語の先生の『スクールポリス』というのが一番しっくりきます。
ちなみに『進路指導』を引くと『career guidance 』です。つまり、生活指導の英訳と同じで区別がありません。つまり、アメリカでやるのは生活指導にしろ進路指導にしろ、あくまでもガイダンス。つまり相談程度のことなんですねえ。
日本の高校の進路指導は、進学なら大学の入学案内や、場合によっては願書まで用意し、書き方を教えて書いたものをチェック、面接の練習までやります。就職なら、学校に求人票が来ていて、生徒の能力や適性を勘案して受ける企業を決めてやり、これも服装チェックから面接の練習までやります。
つまりガイダンスとは次元が違います。
日本の高校は、ハローワークやポリスの役割まで担っていると言えます。
そういうものを担っていると、とうぜん、それに関するリスクも引き受けるわけで、寿命が縮むようなこともあるというわけです。
こんなメモも出てきました。
警察から——明日、武者走先生が担任なさっている○○君を逮捕します——と電話あり。
校長に報告。詳しく聞いてくれるが——よろしくたのむ——と丸投げ。
学年生指と生指部長に報告——連携してやりましょう——と今後の警察や家裁との対応を予測。
中略
鑑別所に学年生指と共に面会、指導の可能性を探る。
家裁から——〇月〇日、審判ですので先生もご出席ください——覚悟を決める。
本日審判。宣告の直前に「先生から一言」と言われ、予定通り「成人するまで面倒を見ます」と答える。「先生の温かいお言葉もあったから、保護観察といたします」の判定。
中略
職員会議で無期停学決定。むろん担当は俺!
中略
無規停、50日目、やっと終わった。さて、明日からは教室に戻す。
他にも指導に関するメモが一杯ありましたが、この数枚のメモで満腹になりました。
ここまで寄り添ってきた武者はすごいのですが、担任としての苦労は、本人を教室に戻してからです。
○○のことは他の生徒も大方知っています。同級生として受け入れさせるのはちょっと骨です。
それに関するメモも見つけましたが……また今度ということにいたします。
☆彡 主な登場人物
・わたし 大橋むつお
・栞 わたしの孫娘
・武者走 腐れ縁の友人(35回より故人)




