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滅鬼の刃  作者: 大橋むつお
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59:『掃除当番』 武者の備忘録より 

滅鬼の刃 エッセーラノベ    


59:『掃除当番』 武者の備忘録より 





 武者もわたしも指導記録を残していました。


 生徒や保護者にリアルタイムで対応するためです。


 わたしはルーズリーフ一枚に一人、一枚で済まなくなったらページを増やしてバインダーに綴じます。クラスの生徒全員で50枚ほどになります。勤務中はレジかごに入れて、トイレに行く以外は持っていました。生徒の指導・カウンセリング、保護者との対応——いずれ——あとで——というのはダメです。


 ドラマやアニメで「あとで職員室に来い」というのがありますが、わたしの経験からはNGです。「あとで」というのは高い確率で言った方も言われた方も忘れてしまいます。あるいは逃げられてしまいます。あるいはタイミングが合わず不首尾に終わります。

 

 例えば、休みがちな生徒が朝礼に居なかったとします。それで、自宅に電話して『いつも通りに出ましたが』と言われたら、その足で駅までの道を探しに行きます。そいつが立ち寄りそうなところはルーズリーフに記録してあります。公園やコンビニ、ブックオフとかです。

 見つけられる確率は一割程度、たいていは見つけられずに戻って、保護者に電話します。見つけられなくてもリアルタイムで動くことが、信頼に繋がります。『先生、朝から探しに行ってくれはったんやで!』帰ってきた子供に伝えると、お母さんもわたしもアドバンテージです。たとえ不貞腐れていても生徒は——一本取られた——という気になります。


 退職した日に、そういうものはシュレッダーにかけましたが、武者のは残っていました。


 息子さんが始末に困っていたので、わたしがもらっておいたものです。


 武者は、ルーズリーフではなくて百均で5冊100円で売っている小さなノートです。


 日付もあったりなかったり、中身もあちこち飛んで、一貫性がありません。成績のことが書いてあるかと思えば、学食のメニュー変更、生徒が猫を拾ってきた話、忘年会の出欠……まあ、総合的な備忘録みたいなものです。


 これでも、在職中大きなポカは無かったのですから、わたしよりも頭が良かったんでしょう。



『掃除監督は目を見つめる!』……というのがありました。



 昔々の高校と違って、放課後の掃除は、必ず教師が監督に着きます。担任は教室、非担の教師は特別清掃区域。校長教頭以外の全教師で監督します。


 終礼が終わると「今日の掃除当番!」と担任が、当番の顔を一人一人見ながら指名します。顔を見てやらないと——聞こえへんかった——とか言ってサボられます。

 特別清掃区域はクラスごとに割り振られて、階段とかトイレなどを掃除します。横着な教師は「終わったら報告に来い」で済ませますが、たいていは現場で待っています。わたしや武者は教室まで行って逃がしません。全員分の箒やモップを持ってきていて、当番の生徒に手渡し、むろん教師も塵取りとかを持って付き添います。

  

 そんなにピカピカにはしませんが、ゴミが残ることはありません。たいていの者が——あ、掃除したんだ——と思える程度にはやり遂げます。


 掃除当番はゴミを捨てて、ゴミ箱を元に戻すところまでやる!


 武者は、その一行に赤のアンダーラインがしてあります。


 昔々の学校と違って、ゴミ箱にはゴミ袋があって、ゴミ袋だけを取り出し、口を結んで捨てに行きます。


 ゴミ袋を正規のゴミ捨て場ではなく、よその清掃区域のゴミ箱に捨てられることがあります。


 これは、掃除をサボることよりも不穏です。他の生徒たちは『やりよった!』『やられとおる!』と思います——これがまかり通るんだったら掃除なんかやってられるか!——という気持ちになって、度重なると、掃除そのものをやらなくなります。教室に迎えに行っても逃げられます。一人二人ではなく、ほぼ全員がやらなくなります。


 学校は掃除から崩壊する!


 忌々しく赤ペンで書いてありました。


 


 ☆彡 主な登場人物


・わたし        大橋むつお

・栞          わたしの孫娘 

・武者走       腐れ縁の友人(35回より故人)


 

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