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滅鬼の刃  作者: 大橋むつお
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58:『栞の茶封筒』

滅鬼の刃 エッセーラノベ    


58:『栞の茶封筒』 





 トートバッグに逆さの茶封筒……あれは、教員採用試験の案内と応募用紙が入っています。


 この時期、大学の四回生が府教委の封筒を持っていたら、これしかありません。


 おそらく電車の中で読み返し、大事に抱えたまま改札を出て、わたしに気づかれるのを怖れ、慌てて突っ込んだのでしょう。ひょっとしたら、家の玄関を開ける直前のことかもしれません。


 その様子は無かったのですが、教職課程も取っていたでしょう。教育実習もあったはずですが、おくびにも出しませんでした。


 小さいころから『学校の先生』である祖父を間近に見て、マイナスの親近感を持っていました。


 職場の愚痴は言わないようにしていたのですが、感じ取ってはいたのでしょう。


 栞は教師という仕事に憧れやリスペクトの気は持っていませんでした。時々かかってくる職場や保護者、生徒自身からの電話。それに応対するわたしを見ていました。口には出しませんが大変な仕事だとは思っていたでしょう。そして裏表の有る祖父の顔や声に——なんだ、このジジイ——とかも思っていたと思います。


 電話では保護者や生徒を励ましておきながら、電話を切ったわたしの顔には真逆の色……ということもあったでしょう。一緒に暮らすようになったころは反抗期の始まりでもあったので、祖父の評価は学校の先生のそれとともに、世間一般のそれよりは、相当低かったと思います。


 その自分が採用試験を受ける。言いにくいし、気づかれたくはないでしょう。


 勝手な想像なのですが、武者の影響があったのではと……少なくともきっかけになったのではと想像します。


 こないだも言っていましたが、武者が来た時に、わたしが留守をしていたことが何度かあります。


 隣の芝生は青いと言いますが、その伝で『よそのジジイは偉い』のかもしれません(^^;)。


 武者の息子が時々電話をしてきましたし、酔いつぶれた武者を迎えに来たこともあります。その時出会った息子や孫を見て『うちのジジイよりも数段上等』と思ったのかもしれません。


 まあ、本人から言い出さない限りは触れないでおこうと思います。



 思い立って、武者の墓参りに行ってきました。


 京都にある屋内霊園、お盆の時期ではないので、貸し切りのような状態で、霊園内で割高なのですがお花と線香も買って、小一時間向かい合って、いろいろ思い出したり考えたり。


 帰りに生八つ橋など買って、栞にも分けてやります。いっしょにお茶でもと思ったのですが、机に向かっていましたので止めました。


 ひとりでお茶を淹れて生八つ橋、モソモソ食っていると、悪友のことなど思い出され、少し武者のことを書いてみようかと思いました。


 


☆彡 主な登場人物


 わたし        大橋むつお

 栞          わたしの孫娘 

 武者走       腐れ縁の友人(35回より故人)


 

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