52:『梅田の鉄管』
滅鬼の刃 エッセーラノベ
52:『梅田の鉄管』
「ちょ、なに、このシュール……」
口まで持ってきたトーストを停めて栞が呟きます。
栞の目の先二メートルのテレビがニュースを映しています。以前も触れましたが、歳に似合わず、食事中にテレビを点ける習慣のある孫娘です。
「え、知らなかったのか?」
「だって、梅田だよ、大阪の真ん中だよ……」
栞が魂消ているのは、梅田の高速道路下に雨後の筍のように突き出した鉄管です。
この11日には出現していたのですが、まばらにしかニュースを観ない栞は、今気づいたようです。
「こういうのって、中国とかでしょ、道路が崩れたり穴があいたりとかぁ……」
「悟空が暴れに来るぞ」
「え、あ、アハハハハ(^▢^;)」
栞は小さいころから孫悟空が嫌いです。理由はおもしろいのですが、ここでは触れません。
「で、なんなの、この鉄管?」
「ええと、ガス管だったかなあ……」
「たよりないなあ……」
あっさり祖父に見切りをつけ、トースト片手にググります。
「下水道のケーシングだって、なんだろうねえケーシングって……」
それ以上検索することは無く、いつものように(週にニ三度ですが)朝食を済ませると大学に行ってしまいました。
週に二回一講時目の講義があるのと、バイトのシフトで週にニ三度いっしょの朝食になるのです。ほとんど会話は無いのですが、時々、栞の独り言に半畳を入れて短い会話にします。
栞はムキになるところがあって、半畳の入れ方によってはけっこう会話になります。
テレビは、まだ鉄管の話をしています。
当初は13メートルも突き出ていた鉄管ですが、中に注水し、その重量で人の背丈ほどに沈めることに成功。それ以上には沈みそうにないので、地上に出た分をバーナーで切断しています。
いつだったか武者が言っていたことを思い出しました。
「戦艦大和の弱点は副砲やねんぞ」
「え、そうなのか?」
僕らの世代は、戦艦大和にゼロ戦です。
昭和四十年前後に少年時代を過ごした我々は、社会党共産党が全盛の中、趣味的には軍国少年でした。
週刊誌、月刊誌の表紙や記事にはよく出ていました。少年キングの創刊号の表紙はまさに大和とゼロ戦でした。サンデー、マガジンが40円とか50円でしたので、その創刊記念価格30円というお値頃感とともに記憶に刻まれています。
考えてみれば、わたしや武者が生まれる8年前には海に浮かんでいた戦艦です。その身近さは令和7年から振り返った東京オリンピック(二回目)と同じです。
「大和の副砲は巡洋艦の主砲と同じ15.5サンチ砲やねんけど、前後とも主砲の後ろにあるやろ」
「うん、改装前は左右にもあったんだけど、あれは、造形的にはイマイチだったな」
「そうそう、大和の一番は沖縄水上特攻の時のハリネズミ姿やなあ」
「そうかぁ、レイテ沖海戦の時の高角砲増強くらいのが良かったと思うぞ」
「いや、それはやなあ……」
いやはや、マニアックな子供でした。
武者に言わせると、副砲の下の弾薬庫に至るまでの鉄筒が、厚さ20ミリしかなくて、ここに敵弾が命中すると、弾薬庫まで貫通されて大爆発を起こすというのです。
「まあ、実際は転覆して水蒸気爆発でバラバラになったんやけどな」
「あ、そういえば、艦コレの設定なんか、そのへんは忠実だなあ」
「そうそう、ハイフリの設定とかも……」
武者のことを思い出していると、ニュースの続きをやっています。
『この事故で被害を受けた人はいないと思われていましたが、通行中の車が鉄筒に押し上げられたアスファルトの破片が落下し通行中の車に被害を及ぼしておりました……』
ほお……
車に乗っていた人は被害を届け出ていなかったのでしょう、ニュースの前後を観ていませんので勘違いかもしれませんが、このドライバーの人は届け出なかったのでしょう。事情は分かりませんが、ちょっと床しく思いました。
☆彡 主な登場人物
わたし 大橋むつお
栞 わたしの孫娘
武者走 腐れ縁の友人(35回より故人)




