俺の母親と、ど屑の話②
俺は12歳になった。
幸い父親とは相変わらず疎遠であったが、この頃になれば自分が父とミーシアという愛人の女性との間にできた庶子であることを明確に意識し、血の繋がらないアデライトに育てられているという異常な環境を理解しつつあった。
しかし、アデライトはよくできた人で、彼女の生家の祖父母ともども、息子として俺に惜しみなく愛情を注いでくれた。父の意向で実の母親の顔さえ見たことのない俺が、アデライトを母として慕うのも当然のことだ。
俺たちは実の親子以上に親子だった。
「母上、愛情の重さってどうやってはかるの?」
「……あら、さてはまた妙な夢を見たのね」
「うん」
こことは違う世界と思しきあの奇妙な夢のことを、俺はアデライトにだけ打ち明けていた。あまりにも価値観の違う情報を、幼い自分の脳だけでは整理しきれなかったからだ。
その日の夢の内容は『彼女』が愛読する恋愛小説であった。
「好きな人ができたら着飾らせて見せつけたいけど、そのうちだれにも見せたくなくなって、宝物みたいに閉じこめたくなるんだって。でも、俺は母上が好きだけどお部屋に閉じこめたいって思ったことないよ」
「なんて情操教育に良くない夢なの……」
母が頭を抱えている。
しかし、これが本当だとすると噂話に聞く俺の父親は愛情深い男ということになってしまうので、俺はわりと真剣に質問していた。
そして、アデライトは子供の言うことだからといって適当に軽んじるような人ではなかった。「情操教育に良くない夢」に、俺がそのまま影響されることへの危惧もあったのだと思う。何せ、実の父が『あれ』だ。
アデライトは真面目な顔で考え込み、ゆっくりと自分の考えを口にする。
「これはわたしの考えだけれど、愛情の重さを単純に比べる方法はないのよ」
「でも、本の中で閉じこめられた女の人はここまでされれば愛されていると実感できるって。ああいう頭のおかしい行動で示さないと愛情って伝わらないの?」
母は再び頭を抱えた。
「いえ、確かに行動で愛情を伝えるというのは大事なことね。ただ……その本の内容はだいぶ偏っている気がするわ」
アデライトには俺が頭に疑問符を浮かべたのがわかったようだ。
「例えば、ここにわたしが大切にしているブローチがあります」
アデライトが指した彼女の胸元には、淡い青みのある石のブローチがつけられていた。彼女の祖母の形見だと言っていた。
「気に入っているから肌身離さず持っていたいし、価値のある素晴らしいものだと思っているから他の人にも見てほしい。これを見せびらかすことで優越感を感じたいのね」
アデライトは、たまにこうして自分のことを他人事のように話した。
「でも、それが行き過ぎると今度は独り占めして人目に触れさせたくなくなる人もいるかもしれないわ。より価値のある財産を金庫で保管したがったり、思い入れ深い品を宝箱にしまったりね。一種の独占欲とも言えるでしょう」
俺はなるほど、と頷く。
俺は自室にしまってある、初めてもらった誕生日プレゼント、剣を習い始めたときにアデライトが作ってくれた子供用の剣帯、脱皮した蛇の皮などを思い浮かべた。最後のは幸運のお守りらしいと本で読んだのだが、女の子は昆虫や爬虫類が苦手だそうなので、アデライトには内緒にしている。
とにかく、大切なものの中でも、しまっておきたくなるようなものがあることは共感できた。




