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婚約者の荒療治

書ききるまで投稿しないつもりでいましたが、まとまったエピソードごとに投稿する方式に切り替えます。

思いのほか長くなりそうな予感……。

 俺たちはあの後ホテルの門前であっさり別れの挨拶をして、イサラ皇女と彼女を完璧にエスコートするクラトを見送った。クラトは実にそつなくイサラを遇し、俺たちに対しては何も――例えばこっちの宿泊先を訊いてくるとか――してこなかった。強いて言えばレティシアに視線が向かないことだけは不自然だったが、この展開はかなり意外だ。


 広場へ戻ると、噴水の所で既にキースが待っており、まだ日没より少し早いものの改めて買い物をする気分でもなくなっていたので、無事に部屋が取れた宿へ直行することになった。




 対面の座席に座るレティシアは、まるで行きしなの俺のようにぼんやりと窓の外を眺めている。

 馬車が走り出してからこのかた、俺はずっと心に(わだかま)っていることをどう切り出そうかと思案していた。


 例えば、俺がレティシアに惹かれていて、だからこそ力になりたいと言えば、彼女は間違いなく壁を作るだろう。

 彼女は時に浅慮とも思える言動を取ることもあるが、基本的な常識は持っているように思う。俺たちは婚約者同士になって日が浅いし、婚約解消を自分から言い出したということは、後ろ指を差されるような行動を取っていた自覚があり、罪悪感なども感じていたということだ。

 端的に言えば、第三者から見てレティシアには他人から好かれるほど良いところがない。一方で、自分の容姿については男の気を惹くものだという自覚がある。

 俺は彼女の稚拙な考えを面と向かって非難したことがあるし、この婚約もディラム伯爵のためだと明言してしまっている。俺がここで「貴女に惚れてる」などとうっかり口走れば、それこそ顔や身体が目当てだと思われて一巻の終わりだ。


 俺たちの間には信頼関係がない。信頼を築く時間も足りない。俺が慎重になり過ぎて、貴重なチャンスをドブに捨ててきたからだ。

 ……だが、誰がこんな状況を予想できただろう。俺は異世界の知識(しかも、妄想と言っても過言ではないくらい突飛(とっぴ)な内容のやつ)は多少あるが、未来を知っているわけではないのだ。


 彼女が馬車のような密室で、異性を前にして眠りこけられたのは、俺がレティシアに興味を持っていないと思い込んでいる部分もあるに違いない。ある意味この一点においてのみ俺は彼女からの信用を得ており、だからこそこの関係が成り立っていると言えた。


「レティシア嬢」


 俺は意を決してレティシアに声を掛ける。返事をした彼女の意識が完全にこちらへ向くのを待ち、俺は慎重に切り出した。


「話し合いたいことがあるんだが、今晩時間は取れるか」

「お話すること自体は問題ありませんけれど……今晩、ですか?」


 予想通りレティシアは時間帯に難色を示した。さすが、生娘ではないだけあって、色事の気配には敏感……。いや、馬車で爆睡してたけどな!なんで今になって警戒するかな!?言っとくけど、こっちに(やま)しい気持ちがあるならとっくに(以下、自主規制)。

 まあ、夜のそういう時間帯を疑わせる言い方をした俺が悪かったんだろうさ……納得いかないが。俺は心底溜息を吐きたいのをぐっと堪え、落ち着いた声を心掛けた。


「泊まる部屋は当然だが分けなきゃならない。だから、食事をレストランの個室か、ホテルのどちらかの部屋で一緒に取って、その間だけでいいから人払いをして話せないか?」

「あ……ええ、大丈夫です」


 よし、第一関門突破。

 一方、彼女は俺を疑ったことで、少し気まずそうだ。それを振り払うように、こちらに質問を返してくる。


「けれど、急にどうなさったの? 何のお話か、先にお伺いしても良ろしいかしら」

「それは……」


 俺はここに至るまでなんと言うべきか迷いがあった。けれども結局、彼女の警戒を解くにはこう言う他ない。


「アルラント子爵のことで、貴女の考えを訊いておきたい。……俺の今後の身の振り方を考えるために」





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