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婚約者の魅力が迷走中②

 窓から入り込む風が少し冷たくなってきたことに気付く。

 俺は上着を脱ぎ、眠るレティシアに近付いてかけてやった。すると、これまでまるで目を覚ます気配がなかったレティシアが、ようやく瞼を震わせた。


「ライゼル様……?」

「悪いな、起こしたか?」

「いえ……あの、わたくし、ずっと眠って……?」

「二時間も経っていないと思うぞ」


 俺が自分の席に戻りつつ手元の懐中時計を見て答えると、レティシアは我に返った様子でハッと身を起こした。


「申し訳ありませ――あっ……上着」


 動いた拍子にかけたばかりの上着が滑り落ち、レティシアは困り顔になっている。


「冷えてきたから使ってくれ。あと、ちょっと目に毒だしな」


 首を傾げたレティシアに、俺は自分の耳の下あたりをトントンと示して教えてやった。あとは自覚するに任せて彼女から目を外し、窓の外を眺める。

 ゴソゴソと手荷物を漁る音が聞こえ、それが落ち着くと息を呑む気配がした。


「あ、ありがとう、ございます……」


 消え入りそうな声でお礼を言ってきた彼女の様子を何となしに伺うと、レティシアは手鏡を仕舞って俺の上着をいそいそと羽織るところだった。首元まで真っ赤になっているし、目も潤んでいた。


 以前可愛いと思った反応にそっくりだったのに、何でか今感じるのは、あの夜会の時に似た感情だった。

 呆れと、失望。


 夜会のときも、彼女はそうだった。体調が悪くなったなら同伴して来た俺を呼ぶべきだったのだ。それが嫌なら、あの時はディラム伯たちも夫婦で会場に居た。

 それなのに彼女は、一番近くにいたからという理由でクラトの手を取った。


 彼がただの親しい幼馴染であったときならその行動も褒められはしないがまだ理解できる。

 しかし、あのときすでに二人の間には肉体関係があった。休憩室がどんな用途で使われることがあるのかも知っていたはずだ。


 しかも、俺はそこでレティシアがクラトを拒絶するのを聞いた。

 思わせぶりな行動を取っておきながら、「そんなつもりはなかった」と被害者ぶったのだ。


 彼女は、他人への関心が薄いがゆえに、想像力が欠如しているのかもしれない。

 クラトが歪むのも無理からぬことだ。


 今も、クラトはどうしてこんなところに所有印をつけたのだろう、とわかりきったことに頭を悩ませているんじゃないだろうか。

 それが情事を彷彿させることには気付くので羞恥は覚えるが、それを見た俺がどういう行動を取る可能性があるのか、ということまでは頭が回らない。


 クラトは俺にレティシアを取られたくないがために、ふしだらで頭の軽い女だと俺に思わせ、彼女の価値を貶めようとしているのだ。

 俺はレティシアを軽蔑して遠ざけるかもしれないし、彼女を軽んじて尊厳をさらに踏み躙る行為に奔れば、今度は俺がレティシアに嫌悪されるかもしれない。どちらにせよクラトにとっては好都合だ。

 貴女の尊厳はクラトに軽んじられている。気付けよ、レティシア。


 もしかするとクラトは、レティシアのことを愛する以上に憎んでもいるのかもしれない。

 レティシアはクラトの狂おしいほどの渇望に全く気付こうとしない。けれども一度救われた経験がある限り、彼女への期待を捨て去ることもできないでいる。


 以前、レティシアの能力を評価したときに、クラトは見る目があると思った。だが、今になって思えば彼がレティシアに領主の補佐としての役目を求めていたとは思えない。

 となれば、クラトは彼女の内面に惹かれるところがあったということだろう。


 ……が、果たして惹かれる要素、あるのか?


 俺は自分がレティシアに惚れていることを棚に上げて、本気でそんなことを考えた。


「ところで、レティシア嬢」

「はい」


 俺に呼ばれて、レティシアがまだ赤い顔を向ける。


「今まで確認してこなかったが、貴女はアルラント子爵のことをどう思ってるんだ?」


 するとレティシアは、何故か困ったような顔をした。途方に暮れている、と言っても良い。

 その顔で、何か言おうとして口を開きかけ、言葉にならないままギュッと目を閉じて俯いた。


「わたくし、よく……分からなくて……」


 え?いや待て嘘だろ?

 そこは「好き」一択じゃなきゃ人間性を疑うぞ。

 他の男と婚約した後で、身体の関係を持ち、しかもそれをつい昨日まで平然と続けてた相手なわけだよな。その翌日に何食わぬ顔で俺と馬車に同乗しているのもどうかと思うが。

 俺は思わず真顔になってレティシアを見た。


「それ……本気で言ってるんじゃないよな」

「え……?」


 レティシアは戸惑った顔で俺を見上げてくる。

 俺は凍り付いた。

 彼女は計算して言っているのではない。もしそれができるほど器用な女性ならば、クラトがあれほど歪むことはなかっただろう。


 つまり信じ難いことだが、全て本音なのである。


 俺は真顔のままレティシアから目をそらし、馬車の窓の外へ癒しと救いを求めた。

 レティシアという存在にそんなものを求めるのは正気の沙汰ではない。


 クラトお前……本気で同情する。



 



 名付けて「このヒロイン(ヒーロー)どうしてこんなに好かれるんだろう?」現象。(←別に名付け親ではない)

 ラノベや恋愛ゲームで見たことありませんか?

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― 新着の感想 ―
[一言] たった三行の作者様の文章が面白すぎて、本文の内容が一瞬で消し飛びました(笑)
2021/06/28 00:28 退会済み
管理
[気になる点] ヒロインであるレティシア嬢に魅力がまったく感じられない点 惚れ込んで狂ってるクラトはともかく一応まともな人間とされてる主人公が好意を持ち続けるなら魅了魔法とかを疑うレベルですね 魅了魔…
[一言] 好きでも無い相手とヤってるビッチに成ってしまいますが……
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