魔法学校の怪<6>
──ハルカ:?
「??」
おかしい。さっきまで弘也やナスティアと一緒にベアトリスの部屋にいたはずだ。なのに、今いるのは最初に訪れた訓練場。景色はそのままだが、何かが変だ。世界が反転している。ただ静寂の中で白い霧が広がっている。ハルカは地面に手を付いて立ち上がった。
「ようこそ、我が世界へ」
「誰?」
霧の奥に人影があった。黒いローブ。落ち着いた声。しかしその目には温度がなかった。
「一度魔法を見た時から気付いてたさ。ただ者じゃないってな」
「監視、理由?」
ハルカはずっと鏡が自分の近くに出現していた事に気付いていた。和司達はスルーしていたが、あの鏡は確実に自分を監視し続けていた。
「そういう事だ。死ぬまで元の世界には戻れない」
「死ぬの、お前」
ハルカが構えると、人影は右手を掲げた。指先に赤い光が灯る。
[火の精霊サラマンデスよ 業火の炎を撃ち放て ジオ・ギオラ・メラ・ゾルザ]
「燃焼魔法」
炎が奔り、ハルカは横に跳んでかわした。地面が焼け、裂ける。
「ん?」
着地したハルカは目を細めた。魔法で解き放たれたはずの火の精霊の気配がまだ残っている。
「火炎蹂躙魔法」
次の魔法が休む間もなく解き放たれる。それは並の魔法使いでは考えられない速さで。咄嗟の判断が遅れたハルカに火球が襲い来る。ハルカは羽で身体を包んで攻撃を防いだ。
「ない?詠唱?省略魔法?」
詠唱とは自らの魔力を集中させるのと同時に精霊達を呼び寄せ、行動をうながす物である。魔法を放てば精霊達は離散する。しかし、人影の魔法にはその形跡がなく、そのまま二撃目に入っている。
「あー、そゆ事」
ハルカは瞬時に答えを導き出した。
──アンチ・ラグ・マジック。常に精霊を周囲に滞留させる事で魔法と魔法の間に生まれる隙をなくす連撃魔法。精霊との関係が余程深くないとできない法術。
「見抜いたか。やはり、できる奴だな」
「流石、魔法学校」
「アンチ・ラグ・マジックこそ魔法体系にあるべき法術。二種類の精霊を同時制御する等、実現不可能な法術をベアトリスがいくら研究しても無意味という物」
「ふーん」
「一方的に攻撃するのも面白くない。一度それで殺してるしな。いいぞ、かかってこい」
人影の周囲には絶えず炎が揺らめいていた。魔法を放った後も精霊達は離散せず、まるで従者の様に人影に寄り添い続けている。炎は消える事なく、次の命令を待つ様にその場に留まっていた。
「さぁ、どんな攻撃で来る?火の魔法か?それとも風の魔法か?」
ハルカの目が赤く光り、瞳孔が細くなった。
「言いたい事はそれだけか、人族よ」
ハルカは指先をクルクル回して魔力を練り始めた。
[ワァエ・ビオウ・エージン 我、精霊に命ず 火の精霊サラマンデスよ 我が意志に従え]
人影の周囲に渦巻いていた火の精霊達が吸い込まれる様にハルカの方へと引き剥がされていく。
「俺の火の精霊が?!お前何をした?!」
「我、精霊の契約者にあらず。ただ支配するのみ」
「その小さな身体のどこにそんな力が・・・」
「我が体躯に惑わされたか愚者よ」
ハルカは溜め込んでいた魔力を一気に解放した。
「貴様が無意味と吐き捨てた技、受けてみるか?」
[ワァエ・ビオウ・エージン 我、精霊に命ず 火の精霊サラマンデスよ、風の精霊シルフよ、法を束ねる環として舞え 裁きの刻を刻め スフェルナ・デイオ・ラグランツ・グレオ]
炎と風が絡み合い、渦を巻きながら人影を包囲していく。逃げ場のない環だった。精霊を奪い、さらに別の精霊を同時に操り封じ込める。
「何だ?その魔法は?!」
「これぞ真なる魔法。たかが数十年生きた程度の人族が到達できる技ではないわ」
「|結界融合式・魔理火環封陣」
「バカな!俺は認めんぞ!」
「騒がしいぞ、愚者よ。死・・・」
死ねば元の世界に戻れるとは言っていたが、殺してしまうとまた和司に制裁を受けるのは必至。手足を使えなくする程度ならいいか。ハルカは風をコントロールして火炎を人影の手足へ放った。紅蓮の炎は人影の手足にまとわりつき燃え盛っているのだが・・・。
「ん?」
あまりに手応えがない。火の精霊達が戸惑いを見せている。
「おしかったな」
「幻影、か」
「お前の実力は見させてもらったよ。だからこそ、ここで大人しくしていてもらおう」
そう言い残して人影は霧の中に消えた。
「んー」
ハルカは周りを見渡した。どんな強力な魔法使いがこの世界を作ろうと、所詮人間が作った物。彼女の前では手品も同然。
「そこか」
何もない空間に隠れた封陣を見付けると、ハルカは静かに片膝を付いて右足に意識を集中させた。
[バルカ・クジーダ・ワーマ 業火に焼かれし金の剣よ 我が脚に集いて紅の炎と化せ 我が前に立ちはだかる愚かなる者を滅っさんが為に]
右足に紅いエーテルの光が集い、ハルカは紅い光を纏ったまま真上に跳んだ。
「紅竜飛翔蹴技」
人間が作った世界の一点。封陣が内側から弾け飛ぶ。炎と風が散り、白い霧が渦巻いた。その向こう、霧の中に鏡の輪郭が浮かび上がった。
「よし」
ハルカは羽を広げると出現した鏡に飛び込んだ。
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