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異世界刑事  作者: project pain


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魔法学校の怪<5>

──弘也:ベアトリスの部屋


弘也がベアトリスの部屋に入ると、思いのほか整然としていた。教師の部屋というより研究者の部屋といった方が正確かもしれない。壁一面に本棚が並び、机の上には書きかけの資料が積まれている。


「失礼します」


一礼してから弘也は部屋の中央に立った。まず全体を見渡す。乱された形跡はない。争った様子もない。

机に近付いた弘也は書類に手を触れずに眺めた。几帳面な字が並んでいる。


「ヒロ、ヒロ」


「ん?」


振り返ると、ナスティアと一緒にハルカが弘也の後ろに立っていた。


「お前なんでここにいるんだ。カズと一緒じゃなかったのか」


「知らない間に付いてきちゃったみたい」


ハルカは部屋をキョロキョロと見渡しながら入ってきた。弘也は溜め息をついてから机に向き直って書きかけの資料を慎重にめくっていく。数式の様な記号と図形が細かく書き込まれているが、内容までは理解できない。


「筆跡から察するに右手で書いてるな・・・つまり右利き。なのに魔法の杖は左手で持っていた・・・。そういう使い方なのか?ナスティア、魔法使いって利き手と逆の手で杖を使う事はあるか?」


ナスティアは首を振った。


「普通はないね。杖は利き手で使う物だよ。逆の手に持ったら集中しづらくなるでしょ」


「なるほど」


本棚に目を移した弘也は背表紙を一冊ずつ確認していく。魔法理論、精霊学、術式体系。タイトルを見回していると、ハルカが指でチョンチョンと触れてきた。


「鏡、ヒロ、鏡」


弘也は本から顔を上げてハルカを見た。ハルカは鏡の前で微動だにせず、じっと見つめている。


「鏡・・・?さっき壁を見た時にはなかった様な・・・。気付いてたか?」


「確かにさっきはなかったね・・・」


弘也は本棚から離れて鏡に近付いた。確かに部屋に入った時にはなかったはずだ。壁にさりげなく掛けられてはいるが、どこか違和感がある。弘也は腕を組んで鏡を眺めた。どこからどう見ても普通の鏡にしか見えない。しかしハルカがここまで真剣な顔をするのは珍しかった。いつもボケているハルカが、今は微動だにせず鏡だけを見ている。


ナスティアと弘也は顔を見合わせた。


「私には普通の鏡にしか見えないけど・・・」


キキィー


「その音嫌いなんだよ。やめ・・・」


振り返るとハルカの姿がない。


「・・・ハルカ?」


弘也の声が部屋に吸い込まれていった。返事はない。弘也は鏡の前に立って表面を覗き込んだ。自分の顔が映っているだけだ。


「またカズの所に行ったのか?」


「だろうね」


「まあいい。続きをやるか」


「私も手伝うよ。何か見付かった?」


「机の上の資料を見てくれ」


ナスティアは身を乗り出して資料を眺めた。


「これ・・・二つの精霊の制御に関する研究だね・・・。だけどこれじゃまるで・・・」


「まるで?」


「うぅん、私ちょっとこれ調べてみるよ。ヒロはどうする?カズは別の先生の所に行ったみたいだけど」

「じゃあどっかで合流して情報交換をやるか。ナスティアはベアトリスの部屋で魔法の解析をしてるって話しておく」


「分かった。そっちは任せるね」


弘也は一度部屋を出て、話し貝を押した。




──和司:試練の場


アデルの部屋をノックしたが返事がない。もう一度叩いてみたが、やはり沈黙だけが返ってきた。仕方ないので通りかかった教師に声を掛けてみると、今朝から"試練の場"と呼ばれる訓練場にいるらしいという話だった。


その場所に行ってみると、端の方で教師が一人の生徒に何かを指示していた。生徒は緊張した面持ちで魔法陣を展開しては消し、展開しては消しを繰り返している。その様子を教師は腕を組んで無言で見ていた。


「あなたがアデル・アシュレイ先生ですか?」


四十代半ば程だろうか。その男性は整った顔立ちだが目つきが鋭く、和司を一瞥しただけで値踏みするような視線を向けてくる。


「あなたは?」


「前川と言います。少しお時間よろしいですか?」


「見ての通り指導中ですが」


「ベアトリス先生の件です」


アデルの表情が僅かに動いた。ほんの一瞬だったが、和司は見逃さなかった。


「タリア・ミューレン、朝の鍛錬はここまでにしなさい」


「は、はい・・・」


タリアは深く頭を下げてから小走りで離れていった。その背中を和司は横目で追った。おどおどした様子で、どこか落ち着かない足取りだった。アデルは和司に向き直った。


「ベアトリス先生の事は聞きました。残念な事です」


「今朝、ベアトリス先生と話されていましたよね」


「立ち話程度ですよ。何か問題でも?」


「どんな話をされたんですか?」


「研究の事です」


「研究の対立が続いていたとお聞きしましたが」


アデルは小さく笑った。笑っているのに目が笑っていなかった。


「研究者同士の議論を対立と呼ぶのはどうかと思いますね。私はただ自分の見解を述べただけです」


「今朝も同じ様な内容で?」


「えぇ」


「声は聞こえなかったが、激しい口論をしていたところを見たという方がいましたが」


アデルは一瞬だけ視線を外した。


「研究への熱意というのはそういう物ですよ。外から見れば激しい口論に映るかもしれない」


それのどこが立ち話なんだか。和司は話を続けた。


「ベアトリス先生の研究についてはどうお考えでしたか?」


「方向性が違うと思っていました。それだけです」


「具体的には?」


「専門的な話になりますが、構いませんか」


「どうぞ」


アデルはしばらく間を置いた。


「ベアトリス先生は二属性の精霊魔法の研究をされていました。理論的には興味深い。しかし実現の方法に問題があった。それより・・・」


アデルは和司を真っ直ぐ見た。


「訓練場で緑の髪の子が派手な魔法を披露していたのを見ていましたよ。一緒じゃないんですか?」


「・・・それが何か?」


「あの方、ただ者ではないでしょう。どの位の魔法使いなんですか?」


「さぁ」


「はぐらかしますね」


「お互い様では?」


アデルは小さく笑った。今度は目にも笑いが混じっていたが、それがかえって不気味だった。


「一つだけ確認させてください。何時頃から訓練場にいましたか?」


「8時頃からです。タリアと一緒にいました」


「そうですか。ありがとうございました。何か思い出したり、気になった事があったらお知らせください。どんな些細な事でも構いませんので」


「えぇ、もちろんですとも」


和司は来た道を戻りながら頭の中を整理した。


8時からタリアと一緒にいた。アリバイは成立している様に見える。それよりも気になるのは話題をすり替えた事だ。方法に問題があったと言いかけて、ハルカの話に切り替えた。何を隠したかったのか。

それと、タリアという生徒。あのおどおどした様子は何だ。教師の前で緊張するにしても、あれは別の怯え方だった。何か引っ掛かる。

エピソードがまとまったら順次公開していく予定ですので、是非ブックマークしてください。


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