魔法学校の怪<7>
──和司・弘也:食堂
話し貝での連絡の後、和司と弘也は一度食堂に集まって情報交換をする事にした。しかし、和司はどこか落ち着かない様子を見せている。
「なぁ、ハルカ知らないか?」
「さっきまで俺の所にいたんだけど、すぐにどっか行ったんだよな。そっちに戻ってないのか?」
「ご覧の通りだ」
「一人にしてても大丈夫なんじゃないか?この学校の事に興味があるみたいだし」
「ここに来て早々にあいつが何したかもう忘れたのか?」
「現に何も起きてないだろ」
「起きてからじゃ遅いんだよ」
その時だった。食堂の窓が激しく割れる音と共にハルカが飛び込んできた。着地した拍子に椅子が一脚倒れ、近くにいた生徒が驚いて立ち上がる。ハルカは構わず和司達のテーブルに駆け寄ってきた。
「ハルカ!お前今までどこ行ってたんだ?!」
「鏡、世界」
「鏡の世界・・・?」
ハルカはコクリとうなずいた。
「魔法使い、バトル」
「魔法使いと戦ったって・・・相手の顔は見たのか?」
「見た」
「誰だ?」
和司の問いにハルカは"う〜ん"と考え込んだ。
「誰とも会ってないから答えようがないのでは?」
「正しい、ヒロ」
「相手はどこに行ったんだ?」
「逃げた、幻影」
ハルカを襲った幻影。今回の犯行とは無関係の人物の仕業なのだろうか。
「鏡・・・?鏡って言ったよな?」
「言った」
和司はスマホの画像アプリで現場の写真を眺めていた。
「何か気になる事でもあるのか?」
「ちょっとこれ見てくれ」
和司が見せた画面には最初にナスティアが違和感を抱いた床板の画像が映っていた。
「で、ここをこうするとな」
和司は指で画面を囲んでその箇所を左右反転させた。すると、表示されていた床板の並びがピタリとはまった。
「これって・・・」
「そう、あそこだけ左右逆なんだよ」
「カズ、逆になったのは床だけじゃないぞ。部屋で書物を見てみたが、筆跡からベアトリスは右利きだった。けど、ご遺体は魔法の杖を左手で握っていた。ナスティアの話じゃ利き手じゃない方の手で魔法の杖を持つ事はないそうだ。床だけじゃなく、マル害まで左右逆になってるみたいだ」
和司はメモ帳を開いた。
「覚えてる範囲でいい。そいつの特徴を教えろ。まずは顔の輪郭から」
ハルカは腕を組み、うーんと唸った。
「細い」
「細いってのは、丸顔じゃなくて面長って事か?」
「少し、長い」
和司は手早く輪郭を描き込んでいく。
「年は?」
「知らん」
和司はペンを止めて端に雑に丸を描いた。
「髪は?」
「長い、肩位」
「色は?」
「分からん」
「目は見たか?」
「見た」
「大きいか、小さいか」
「細い、怖い目」
「つり目気味?」
「うん」
和司は目元を少し鋭く描いた。
「鼻と口は?」
「普通」
「一番困る答えだな・・・」
和司は口元を直線気味に描き加えた。
「服装は?」
「普通」
「杖は持ってたか?」
「持ってた」
「どんな杖だ」
「長くない、こんな感じ」
ハルカは手振りで長さを示した。和司はその仕草を見て、短めの杖を脇に描き込む。
「他に特徴は?」
「分からん」
和司は一通り描き終えると、メモ帳を二人に向けた。
「こんな感じか?」
そこに描かれていたのは面長の輪郭に、肩ほどの長さの髪、何となく細く鋭い目元を持つ男の似顔絵だった。細部はまだ粗いが、印象だけは十分に伝わる。
ハルカは絵を覗き込み、首を傾げる。
「・・・近い」
「近い、か」
「まぁ半分位しか分からなかったからな」
和司はそう言って苦笑したが、すぐに表情を引き締めた。
「ある程度の特徴があるだけでも助かるけどな」
弘也は似顔絵を見つめたまま言った。和司はメモ帳を閉じた。
「ヒロ、お前第一発見者のジェシカ・リュエットの所に行ってくれないか?俺はハルカと一緒にその鏡の世界について調べてみる。魔法が絡んでるのは間違いないだろう」
「その子が何か知ってるのか?」
「ベアトリスの研究に深く関わってた可能性がある。そこから今朝の口論の中身も見えてくるかもしれない」
「分かった。じゃあ行くか」
二人は席を立った。
「んー?」
和司の後を付いているハルカは自分の両手を握ったり開いたりしていた。先程は言葉遣いも力も本来の自分に戻っていた。しかし今はまた小さくなって以降の自分になっている。何か条件でもあるのだろうか。
──弘也:生徒寮
「ジェシカ・リュエットさんはいますか?」
部屋のドア前で声を描けると、しばらくしてジェシカがドアを開けた。
「どなたでしょう・・・?」
「ジェシカさんだね?自分は春日、春日弘也っていう者なんだけど」
目が赤く腫れている。ジェシカは弘也を見て戸惑った表情を見せたが、すぐに部屋に通してくれた。
小さな部屋だった。机の上に教科書が積まれている。ジェシカはベッドの端に腰を下ろした。
「ローレンスと一緒にいた時に先生に質問したかった事について、少し話を聞かせてもらえないかな?」
「はい・・・」
「確認だけど、今朝、ベアトリス先生に質問しようとしていたとのは、二つの精霊の同時召喚の魔力制御について、で合ってるかな?」
ジェシカは小さくうなずいた。
「その話はいつ頃から始まったのかな?」
ジェシカはしばらく黙っていた。膝の上で手を握り合わせている。
「2ヶ月前に先生から呼ばれたんです。研究に協力してほしいって」
「ベアトリス先生の研究に?」
「はい。二つの精霊を二人の魔法使いで制御して、相乗効果をもたらすという研究で・・・。先生は長い間その研究をされていて、もうすぐ完成するって言っていました。でも一人じゃできない研究だから、パートナーが必要だって」
「それで君に声を掛けたと」
「はい・・・。私なんかでいいのかって思いましたけど、先生は私に適性があるって言ってくれて」
「最初はアデル先生と一緒に研究されていたそうです。でも途中で意見が合わなくなって、お二人は別々の道に進まれたって」
「けど、今朝ベアトリス先生とアデル先生が口論しているのを見たって教師がいたんだけど」
「先生、最近アデル先生の事をとても警戒されていて。研究の内容を誰かに話す時は気を付けるようにって言われていたんです」
弘也は拳をあごに付けて考え込んだ。
「ジェシカさん、一つだけ。ベアトリス先生の研究が完成したらどうなるんだ?」
「魔法体系が大きく変わるって先生はおっしゃっていました。今まで不可能だと言われていた事が可能になるって」
部屋に沈黙が落ちた。
「ありがとう。また何か思い出したら教えてくれ」
「あの・・・先生の仇討ちをしに生徒達が犯人探しをしているって聞きました。落ち着いたら私も参加したい。・・・いいですよね?」
弘也は少し間を置いて口を開いた。
「俺も昔、知ってる人間を殺された事がある」
ジェシカが顔を上げた。
「隣の部屋に住んでた人だった。ある日家に戻ったら警察がたくさんいて、その時、殺されてたって知った。飼っていた犬も一緒にだ」
「・・・」
「その時俺が思ったのは君と同じだよ。犯人を見付けて、自分の手で終わらせたいって。だから気持ちは分かる」
部屋に沈黙が落ちた。
「だけど俺はその時何もできなかった。感情だけあって、他には何も持ってなかった」
弘也はジェシカを真っ直ぐ見た。
「感情は力にならない。君は一度冷静になるべきだ。そして先生の事で少しでも気になった事があったら教えて欲しい。それが一番ベアトリス先生の為になる」
ジェシカは唇を噛んだ。しばらくの沈黙の後、小さく頷いた。
エピソードがまとまったら順次公開していく予定ですので、是非ブックマークしてください。
よかったら、広告の下側にある「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします!
(ユーザー登録しないと☆☆☆☆☆は出現しないみたいです。)
評価してもらえるとモチベーションがUPし、今後の執筆の励みになります!




