嵐の前夜
みここです。本日二度目の初投稿。
「わたくしはナイトと申します。以後お見知りおきを」
ロッキングチェアから立ち上がった男はやや大仰な振る舞いで、自己紹介と共にお辞儀をした。その姿は非常にしっかりとしており、顔立ちもかなり整えられてある。隣にいるヴァンやアートラスさんが呆然と見惚れるほどの絶世の美形である。おそらく今まで出会った中でも一番のイケメンと言わざるを得ないだろう。心が男でなければすぐにでも心奪われていたに違いない。
「ささ、お疲れでしょう。久しぶりのお客様ですから歓迎いたしますよ。どうぞおあがりください」
その言葉に、今僕達がいまだ扉の近くに突っ立っていたことを思い出す。僕達はお言葉に甘えてその部屋に入ることになった。
長いテーブルのある部屋まで案内され、僕達は各自向かい合うように席に座る。ナイトと名乗った男はその机の上席に座る。それと同時に別の扉からノックが響く。
「入ってくれ」
ナイトがそう口にすると、扉からゾンビが行列になって入ってきた。
「……ッ!」
僕とヴァンが慌てて武器を手にして立ち上がろうとするとナイトがそれを制した。
「安心してください。彼らはわたくしの忠実な僕でございます。今彼らにお食事を運ばせていますので今しばらくお待ちください」
どうやらその言葉に嘘はないようで、統率のとれた奇妙な動きでゾンビたちは配膳をしていく。そして運び終えたゾンビたちは速やかに退出していった。
「わたくしはここからあまり動かないゆえ、旅人のお話をお聞かせしてもらってもよろしいですか? もちろんただとは言いません、今日は一晩我が家でゆっくりしていってもらってかまいませんので」
「おお、それは助かる。しかしいいのか? 泊めてもらうだけでなくお食事までいただいてしまっても」
「それだけわたくしが暇を持て余しているということでございます。ここ数年、この地から動いていないので、少し新鮮味に欠けていたのですよ」
ナイトはまるで飢えた獣のように僕達の話に聞き入った。アートラスさんの絶対に滑らない面白話は僕もつい大笑いしてしまった。そのあとにヴァンの武勇伝にその場の全員が尊敬をし、僕の失敗談などで再び笑いを取るなどと、ナイトを混ぜた食事会はとても楽しく終わった。
ある程度の話が済み、食事もみな食べ終えた頃、話は現在の僕らの状況までに至った。
アートラスさんの屋敷が燃えて従者が皆殺しになったこと、アートラスさんだけが生き残ったこと、教会に逃げたはいいが追手によって牧師が殺害されたこと、身の危険を感じてルーイン帝国へ逃げようとしたこと、そして追手に追われるうちにこの森――墳墓までついてしまったこと。
ナイトはとても聞き上手で、逐一相槌を打っていた。
「なるほど、それはさずかし大変だったでしょう……っと、もうこんな時間ですね」
ナイトの視線の先にある時計は夜の12時を指していた。
「楽しくも勇敢なお話をお聞かせくださいましてありがとうございました。今日はもう夜遅いので、みなさんもお体をお安めになったほうがよろしいかと。部屋はゾンビたちに案内させます」
「そうだな、じゃあ部屋を借りるとしよう」
「うん、僕も結構眠いよ」
「ああ、お言葉に甘えよう」
ナイトがその場から去り、僕達は各自それぞれの寝室へと案内された。
個室だというのにそれなりに広く、思った以上にきれいにされた部屋だった。
僕は、目の前にあるふかふかのベッドに飛び込むとその柔らかさにこころ癒された。
「思えばいろんなことがあったなあ」
ベッドに体をうずめながら、この異世界に来た時のことを思い出す。
「メイド長、元気にしてるかな」
たった数週間でいろいろなことが起きた。日本にいたときの記憶はないが、おそらくここまで濃厚な日などなかったに違いない。そんな異世界での出来事を思い浮かべているうちに僕の意識は次第に闇夜に溶けていった。
「さて、皆寝静まったころかな」
ナイトと自らを名乗るその男はすくっと立ち上がり、客人たちがおそらく寝て居るだろう部屋の前に立つ。
「久しぶりのエサだ。たっぷりといただくとしよう」
男は邪悪な笑みを浮かべながらその鋭くとがった歯を見せた。
みここでした。
アートラスさんの絶対に滑らない面白話、僕も是非聞きたいところですなあ。




