アートラス=ベルモンドの想い
みここです。初投稿と思えば何でもそうなのです。
僕とアートラスさんを乗せたシポース馬車は、ヴァンが御者として帝国に走り始めた。
馬車は常に前後が開かれており、左右は入り口と窓といった形をしている。実に開放的な乗り物であった。そのため、ヴァンの後ろ姿がよく見える。
「ねえ、ヴァンって馬車を運転できたんだね。騎士ってのはそういうのもやるの?」
「いいや、違うさ。普通の騎士ならば運転などできないだろう。俺はもとは農家の生まれだからこういう馬を扱うのには慣れている。騎馬隊なら馬の運転はできるだろうが、それでも直接乗るのとでは勝手が違うだろうな」
ヴァンの意外な側面を知った気がした。なるほど、農家の生まれだったのか。
がたがたと言いつつもその手慣れた手つきは、熟練のそれを感じさせた。
窓と言ってもがっしりとしたものでなく、ただ穴をあけたそこから見える景色。そこは先ほどの街の喧騒が嘘のようになにもない平原へと移り変わっている。地平線までは見えないが、そのはるか向こうには今まで通ってきた道がカーブを描きつつくっきりと映っていた。その先にクラリス王国が見えたがだんだんとその姿を小さくしていく。思えばあの国は滞在した時間こそ、異世界に来てから長い方だったが、あまりいい印象を得てはいなかった。ヴァンが死んでしまったのではないか、という悲しみもあったし、襲撃者に襲われたりもした。僕は、腰に巻いてある回復薬の入ったポーチに手を触れる。
「次に来るときはもっといいところが見たいな」
すでに僕の視界に王国の影は残っていない。残るは一本の街道だけであった。
「この道ってあまり人が通らないのかな」
「いや、そんなことはないぞ。ただまあ長い道だからな。すれ違うことはあれど、後ろから追いつかれたりなどしないな。商人たちはある程度固まって移動しているから、空いてるときはこのくらい寂しいもんよ」
ヴァンのいう通り、道はひたすらに閑散としていた。活気とは逆の、静かな風だけが吹いている。アートラスさんは、ずっと後方に目をやったままここまで一言もしゃべっていない。やはり母国を離れるのは、心に一抹の思いがあるのだろう。ましてや屋敷の住人が皆殺しにされているのだ。何か思わないほうが難しい。彼によると、ベルモンド家といって両親はとっくに他界しており、身内も全員別の場所で家を構えているため、家族が亡くなったなどというのは無いのだそう。しかしそれでも今まで尽くしてくれた執事たちが死んだのだ。しかも、埋葬も難しいほどに形を残さず。僕なら耐えられるものじゃない。彼はひとえにその誇りで意識を保っているに過ぎないはずだ。ヴァンの言ではないが、救えなかった命には申し訳がないと、アートラスさんも思っていることなのだろう。
終始無言のアートラスさんと向かい合わせで座っている僕は、その雰囲気に居心地の悪さを感じていた。視線を外にはずし、またぼーっと景色を眺めていると、その視界に映る景色に不穏なものを感じ取る。
「ヴァン!」
「ああ、わかっている。……つけられているな」
後方から、小さくてよく見えないが影のような点が複数こちらに向かって走ってきていた。それらは目を凝らしてみると、教会で襲ってきた人物、その男がつけていた黒いローブと同じ服装であるのが見てわかった。
「複数の人数だ。今は逃げることを最優先にする」
ヴァンはシポースに軽く鞭をふるうとその足を速めさせた。
みここでした。
結構馬車からの見晴らしはいいです。




