基本規則の制定
テミス:「続いて、会議運営に必要な基本規則を定めます」
神々の前に、規則案が配られた。
―神話系ミーティング基本規則案―
一、他者の発言を最後まで聞くこと。
二、神威、神器、怪物または天災を用いて意見を通さないこと。
三、会議中に宣戦布告をしないこと。
四、議題と無関係な恋愛、婚姻、親族間の確執を持ち込まないこと。
五、人界への大規模な干渉は、可能な限り事前に共有すること。
六、会議で決定した内容は、各自が責任をもって実行すること。
七、司会の許可なく、会議参加者を変身、石化、植物化、星座化しないこと。
八、手土産によって司会および書記の判断が左右されることはない。
アフロディーテ:「四番は、ほとんどゼウス様の対策ではなくて?」
テミス:「特定の神を想定した規則ではありません」
全員の視線が、ゼウスへ集まった。
ゼウス:「なぜ、わしを見る?」
誰も答えなかった。
アテナ:「七番も、ずいぶん具体的ですね」
テミス:「過去の事例を参考にしました」
アポロン:「誰の事例だ?」
テミス:「複数です。追及すると会議が終わらなくなるため、省略します」
コツ。
―木槌が小さく打ち鳴らされた―
ヘルメス:「八番を見る限り、手土産そのものは禁止されていないんだね」
テミス:「各地の文化交流に有益であるため、禁止する理由はありません」
ヘルメス:「司会へ直接渡しても?」
テミス:「判断には影響しません」
ヘルメス:「受け取りはする?」
テミス:「文化交流ですので」
ホーライの一柱が、記録用紙の端に補足を書き加えた。
※テミスは甘味を好むが、審議の公平性とは無関係である。コーヒーに合うものであれば、なお歓迎。
◇投書制度と参加者の範囲
アテナ:「神々だけで人界の問題を審議すると、当事者の事情を見落とす恐れがないか?」
テミス:「その点については、人間や他種族から投書を募る制度を設けます」
ヘルメス:「投書をそのまま会議の議題にするのか?」
テミス:「内容を確認し、必要性と緊急性に応じて選定します。関係する神々を招集し、必要であれば当事者や有識者にも参加を求めます」
アレス:「英雄を呼ぶこともできるのか?」
テミス:「議題に必要であれば認めます」
アレス:「では、歴史上最強の英雄を――」
コツ。
―木槌が小さく打ち鳴らされた―
テミス:「強さを競うためには呼びません」
ヘパイストス:「ていうと、職人や技術者も呼べるってこったな」
強面で筋骨隆々。親方と呼びたくなる男神ヘパイストスは、炎と鍛冶を司る根っからの職人気質だった。
テミス:「はい。人類が実際に何を必要としているか、現場の意見を確認することは重要です」
アポロン:「詩人や音楽家も必要だ」
アルテミス:「狩人や森の民も」
アフロディーテ:「恋に悩む者も歓迎するのでしょう?」
テミス:「議題の範囲内であれば」
ゼウス:「他神話の女神も――」
ヘラ:「あなたは黙っていなさい」
ゼウス:「まだ規則は正式に可決されていないぞ」
カン!
―木槌が強く打ち鳴らされた―
テミス:「規則がなくても、節度は必要です」
基本規則案の早期採決を求める声が、急速に高まった。
テミス:「基本規則案は、軽微な文言修正を条件として承認するものとします。賛成の方は挙手を」
多くの手が挙がった。
先ほどまで名称に消極的だった神々も、今回は早かった。
テミス:「賛成多数。承認します」
コン。
―木槌が打ち鳴らされた―




