開催回数と時系列について
アテナ:「一つ確認しておきたい」
アテナは、資料上部の表記を指さした。
アテナ:「今回が“第0回”なのは理解できます。しかし、今後の開催予定がすべて“第XX回”になっている」
アポロン:「第一回、第二回と順番に数えないのか?」
テミス:「原則として、数えません」
ゼウス:「なぜだ?」
テミス:「特定の時系列を定めないためです」
ゼウス:「会議には開催順があるだろう」
テミス:「あります。しかし、それを明示すると、より大きな問題が生じます」
テミスは、時系列に関する説明資料を配布した。
テミス:「神々の逸話は、地域、伝承、詩人、宗派、成立年代によって内容も順序も異なります。同じ神であっても、若い姿で語られる場合もあれば、すでに多くの子を持つ姿で登場する場合もあります」
ヘルメス:「僕が生まれる前の出来事なのに、僕が解説役として参加していることもあり得るね」
テミス:「そのとおりです。開催順を厳密に定めると、“この時点では、まだその神は生まれていない”“この事件はすでに起きているはずだ”“この二柱はまだ和解していない”など、多数の矛盾が発生します」
テミスの言葉に神々が同意し始めた。
ヘラ:「ある会議では、ゼウスの女性問題が起きる前という可能性もあるのね」
ゼウス:「そうだ。まだ何もしていない可能性も――」
ヘラ:「別の会議では、すでにすべて発覚している可能性もありますね?」
ゼウス:「……時系列を固定しない方がよいな」
テミス:「ご理解いただけたようで何よりです」
最高神は同意した。
アテナ:「つまり、各会議は大まかな連続性を持つ場合もあるが、必ずしも一本の時間軸上には並ばないということか」
テミス:「はい。各回は独立した審議として成立させます」
ポセイドン:「順序を決めないことが秩序なのか?」
テミス:「無理に順序を決め、数百に及ぶ伝承との矛盾を発生させるよりも秩序があります」
ポセイドン:「言い切ったな」
テミス:「言い張っているのではありません。秩序です」
コツ。
―木槌が小さく打ち鳴らされた―
ヘルメス:「前の会議で壊れた神殿が、次の回で元に戻っていた場合は?」
テミス:「修復されたか、壊れる前だったものとします」
ヘルメス:「追放された者が、次の回で普通に座っていたら?」
テミス:「必要な手続きを経て復帰したものとします」
ヘルメス:「死んだ英雄が参加したら?」
テミス:「冥界からの一時参加です」
ヘルメス:「まだ生まれていない人物が来たら?」
テミス:「神託、予言、召喚、時間移動、その他いずれかの理由です」
ヘルメス:「後から固定メンバーが増えたり、会議の成立時期とやり取りが一致しなかったりしたら?」
テミス:「パラレルワールドですね」
テミスは、決まり文句を言うだけの人形のような目をした。
アテナ:「時間どころか、世界線すら超えていないか」
テミス:「秩序です」
ヘルメス:「便利だね」
テミス:「秩序です」
ゼウス:「本当は、開催回数を数えるのが面倒なのではないか?」
……コン。
―妙な間をおいて木槌が打ち鳴らされた―
会議室が静まり返った。
テミスは、ゆっくりとゼウスへ視線を向けた。
テミス:「最高神ともあろう御方が、神話ごとに異なる時間概念、伝承の変遷、地域間の暦の違い、神々と人類の時間感覚の相違を考慮せず、そのような単純な理由だとお考えですか?」
ゼウス:「いや。深い配慮があると思っていた」
テミス:「ご理解いただけて何よりです」
ホーライたちは、机に積み上がった苦情の山を見た。
会議の回数まで厳密に管理する余裕がないことを、彼女たちは理解していた。
指摘する者はいなかった。
秩序のためである。




