第XX回 『神様の名前を必殺技や武器に使ってもよいか』—日本支部— 後編
◇人間による性能の追加
オモイカネ:「では、次に具体的な使用例を確認していきます」
思兼神は、一枚目の資料を読み上げた。
そこには大きく書かれていた。
オモイカネ:「『主砲、極光滅界砲アマテラス』」
アマテラス:「………主砲?」
オモイカネ:「宇宙から光を照射し、大陸一つを消滅させる兵器です」
アマテラス:「私、そのようなことはしておりませんが…」
スサノオ:「姉貴、強えな」
アマテラス:「私を兵器にしないでください!」
続いて、二枚目。
オモイカネ:「『月読』。相手を永遠の幻覚世界へ閉じ込める技です」
ツクヨミ:「私に、そのような権能はない」
スサノオ:「でも、ありそうだな」
ツクヨミ:「名称と演出は悪くない」
アマテラス:「月読。随分と前向きですね」
ツクヨミ:「人間文化への協力だ」
三枚目。
オモイカネ:「『暴走究極破壊神スサノオ・デストロイヤー』」
スサノオ:「採用!」
オモイカネ:「何も採用しておりません」
スサノオ:「これを考えた奴を、正式な命名担当にしよう」
アマテラス:「あなたは、いつから破壊神になったのですか!!」
ツクヨミ:「お前だけ、技名ではなく肩書きまで暴走しているぞ」
ミチザネ:「須佐之男命――大変好意的、と」
スサノオ:「議事録に大きく書いておけ」
◇その名前は、使用者なのか対象なのか
資料を読み進めていた道真が、ふと筆を止めた。
ミチザネ:「一つ、確認しておくべき問題が見受けられます」
オモイカネ:「何でしょう?」
ミチザネ:「技名や武器名に神様の名前が入っている場合、その名前は、力の由来を示しているのでしょうか?」
スサノオ:「ほかに何がある?」
ミチザネ:「攻撃対象を示している可能性はないでしょうか」
一同:「…………」
アマテラス:「攻撃対象?」
ミチザネ:「例えば、『ドラゴンキラー』は、竜が使用する武器ではありません」
タケミカヅチ:「竜を倒すための武器だな」
ミチザネ:「同じ命名法であれば、『アマテラス』という武器は――」
アマテラス:「私を倒すための武器になると?」
ミチザネ:「可能性としては―」
アマテラス:「許可できません」
オモイカネ:「判断が速いですね」
アマテラス:「私の名前を付けておきながら、私に特効を持っているのですよ?」
ツクヨミ:「持ち主に敵意があるのか、姉上の力を借りたいのか、名前だけでは分からないな」
スサノオ:「いや、普通に考えれば、俺たちの力を宿した武器だろ」
ミチザネ:「では、『ゴッドキラー』は?」
スサノオ:「…………」
タケミカヅチ:「神が使用する武器ではないな」
オオクニヌシ:「神を倒す武器だろうな」
イナリ:「名称に『神』が入っていても、神様側とは限らないわけですね」
スサノオ:「紛らわしい!」
ツクヨミ:「人間の命名規則へ、今さら文句を言っても仕方がない」
思兼神は、資料に並ぶ武器名を改めて確認した。
『神剣アマテラス』
『魔剣スサノオ』
『妖刀ツクヨミ』
オモイカネ:「『神剣アマテラス』であれば、天照様の力を宿す剣と解釈できます」
アマテラス:「そうであってほしいですね」
オモイカネ:「しかし、『アマテラスキラー』であれば――」
アマテラス:「製造を禁止してください」
スサノオ:「姉貴だけずるいぞ。俺への特効武器も禁止しろ!」
ツクヨミ:「お前の場合、ヤマタノオロチ特効の武器と解釈される可能性が高い」
スサノオ:「それなら許可する!」
ミチザネ:「スサノオという名前が、使用者を示すのか、力の由来を示すのか、攻撃対象を示すのか、特効対象を示すのかで意味が変わります」
タケミカヅチ:「では、『タケミカヅチ』という武器も、私に効く可能性があるのか?」
オモイカネ:「名称だけでは断定できません」
タケミカヅチ:「製作者へ確認に行く」
オモイカネ:「直接訪問は禁止です」
タケミカヅチ:「まだ出発していない!」
オモイカネ:「立ち上がって、槍を持った時点で止めました」
カン、カン。
拍子木が鳴らされた。
◇必殺技の場合
ツクヨミ:「武器だけでなく、必殺技にも同じ問題があるな」
アマテラス:「『アマテラス』と叫んだ場合、私の力を借りているのでしょうか?」
ミチザネ:「天照様を召喚している可能性もあります」
アマテラス:「召喚?」
スサノオ:「姉貴、技を使うたびに呼び出されるのか」
アマテラス:「困ります」
ツクヨミ:「一日に何度も呼ばれそうだな」
アマテラス:「人間界の戦闘へ、無断で出勤させないでください」
オモイカネ:「ほかにも、天照様へ攻撃を命じている、天照様へ攻撃している、天照様を技そのものとして射出している、などの解釈が考えられます」
アマテラス:「最後の扱いが、あまりにも雑ではありませんか?」
スサノオ:「必殺――アマテラス!」
スサノオは、天照を投げるような動作をした。
アマテラス:「やめなさい」
ツクヨミ:「姉上を直接投げるなら、光属性に加えて重量属性も――」
アマテラス:「月読?」
ツクヨミ:「何でもない」
ミチザネ:「『技名として使用すること』と、『本人を技として使用すること』は、分けて考える必要がありますね」
オモイカネ:「後者は明確に禁止します」
スサノオ:「本人の了承があれば?」
アマテラス:「ありません」
◇神名の意味を分類する
思兼神は、正面の黒板へ新たな項目を書き出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一、力の由来
神の権能や属性を借りた技や武器。
二、使用者
神本人が使用した、または使用するとされる技や武器。
三、召喚対象
神本人を呼び出すための技や道具。
四、攻撃対象
その神を倒すことを目的とした技や武器。
五、特効先
神本人、または神に関連する存在へ特別な効果を持つ技や武器。
六、単に格好いいから
特に深い意味はなく、響きだけで採用された名称。
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一同:「…………」
スサノオ:「最後のやつ、多そうだな」
ツクヨミ:「おそらく、最も多い」
アマテラス:「せめて、少しは調べてから使ってほしいですね」
ミチザネ:「しかし、そこから神話に興味を持つ者もいるでしょう」
オモイカネ:「名前を知ることが、神話を知る最初のきっかけになる場合もあります」
アマテラス:「それなら、悪いことばかりではありませんね」
スサノオ:「ただし、俺への特効武器は禁止だ!」
ツクヨミ:「弱点が知られるのが怖いのか?」
スサノオ:「違う! 自分の名前が付いた武器で、自分が大ダメージを受けるのは格好悪いだろ!」
タケミカヅチ:「それは分かる」
オオクニヌシ:「神々側の都合だな」
イナリ:「人間文化への協力は、どこへ行っっちゃたの?」
ツクヨミ:「都合が悪くなったのだろう」
カン、カン。
―拍子木が打たれた―
オモイカネ:「では、使用基準へ一項目追加します」
オモイカネ:「神名を使用する場合、その名前が『力の由来』なのか、『使用者』なのか、『攻撃対象』なのか、可能な範囲で説明すること」
ミチザネ:「説明がない場合は?」
オモイカネ:「原則として、人間の創作上の判断に委ねます」
アマテラス:「では、私への特効武器だった場合は?」
オモイカネ:「個別審議とします」
スサノオ:「俺への特効武器もだぞ!」
ミチザネ:「天照大御神および須佐之男命――自己特効武器に強く反対、と」
ツクヨミ:「私も反対しておく」
ミチザネ:「月読命も追記します」
オオクニヌシ:「結局、全員嫌なのでは?」
オモイカネ:「神々が、自分の名前を冠した自分への特効武器に反対したところで、本論点を終了します」
◇神名使用の基準
オモイカネ:「神々の名前が、人間の文化に残ること自体には意義があります」
アマテラス:「私たちを知るきっかけにもなりますね」
オモイカネ:「しかし、使用方法については、一定の基準が必要でしょう」
思兼神は、黒板へ項目を書き出した。
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一、神本人の由来と、あまりにもかけ離れた技にしない。
二、著しく弱い技へ使用しない。
三、神名を叫んでおきながら不発にしない。
四、敵側の雑兵が同じ技を大量に使用しない。
五、神名を過剰に組み合わせない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アマテラス:「最後は、どういう意味でしょうか?」
オモイカネ:「『天照・月読・須佐之男・三貴子超絶合体斬』などです」
沈黙。
スサノオ:「……強そうだな」
ツクヨミ:「演出次第では、許可してもよい」
アマテラス:「二人とも、少し乗り気になっていませんか?」
タケミカヅチ:「そこへ雷を加えれば、さらに威力が上がるのではないか?」
黒い短髪に鋭い目つき。
白と藍の衣をまとう建御雷神が、真剣な表情で提案した。
武神であり、雷を司る神でもある。
スサノオ:「よし! 『三貴子超絶合体・建御雷神轟天斬』だ!」
タケミカヅチ:「悪くない!」
ミチザネ:「神様側から、技名を盛り始めています」
オモイカネ:「基準を追加します。神々自身による過剰な命名への介入を禁止します」
スサノオ:「なぜだ!」
オモイカネ:「話がまとまらなくなるからです」
◇継続審議――武器の名前にも使いたい
思兼神が審議をまとめようとしたところ、道真が投書の裏面に気づいた。
ミチザネ:「追記があります」
オモイカネ:「読み上げてください」
『できれば、武器の名前にも使わせてください』
オモイカネ;「資料を見るに、既に使われていましたが…」
アマテラス:「今から、許可を求めているのですよね?」
ミチザネ:「はい」
ツクヨミ:「しかし、すでに使っている」
ミチザネ:「はい」
スサノオ:「つまり、事後報告か?」
オモイカネ:「事後申請です」
スサノオ:「人間、やるな」
アマテラス:「感心するところではありません」
◇神名を冠した武器
思兼神は、神名を冠した武器の想定例を提示した。
『神剣アマテラス』
光を放ち、闇を浄化する剣。
『妖刀ツクヨミ』
満月の夜に真の力を発揮する刀。
『魔剣スサノオ』
振るうたびに暴風と雷を発生させる大剣。
『神槍タケミカヅチ』
雷をまとい、あらゆる防御を貫く槍。
タケミカヅチ:「悪くない」
スサノオ:「俺の剣にも、防御無視を付けろ」
オモイカネ:「性能の交渉を始めないでください」
オオクニヌシ:「私の名前はないのか?」
国造りと縁結びで知られる大国主神が、資料をのぞき込んだ。
オモイカネ:「大国主様の場合、国造り、縁結び、医薬などを由来とした支援用の装備が考えられます」
オオクニヌシ:「武器の話になると、急に穏やかになるな」
イナリ:「私は?」
オモイカネ:「獲得できる食料や金銭を増やす装備でしょうか」
イナリ:「実用性は高そうですね」
スサノオ:「なんで俺だけ、敵味方を問わず吹き飛ばす武器なんだ?」
ツクヨミ:「原典に忠実だからだろう」
◇武器としての格
タケミカヅチ:「神の名を冠する以上、相応の性能は保証してもらいたい」
スサノオ:「そうだ! 攻撃力三の店売り武器に、俺の名前を付けられたら困る!」
オモイカネ:「困るだけですね?」
スサノオ:「製作者のところへ直接行く」
オモイカネ:「神による製作者への直接訪問は禁止です」
タケミカヅチ:「最低でも、最高級の希少度。同系統で上位の性能。固有能力を一つ」
ツクヨミ:「月読には、夜間強化を」
アマテラス:「私の場合は、昼間強化でしょうか?」
スサノオ:「俺は?」
ツクヨミ:「装備者が命令を聞かなくなる」
スサノオ:「それは特殊能力ではなく、呪いだろ!」
ツクヨミ:「極めて原典に忠実だ」
スサノオ:「原典を便利に使うな!」
◇武器の説明文
オモイカネ:「続いて、人間界で使用されそうな武器の説明文を確認します」
『神剣アマテラス。古代文明が製造した光子兵器。刀身から高熱を放ち、敵を焼き尽くす。』
アマテラス:「神剣なのに、古代文明が製造したのですか?」
オモイカネ:「人間の創作では、よくあることです」
アマテラス:「私の名前は、どこから来たのですか?」
ミチザネ:「外見が光るためかと」
アマテラス:「その程度の理由で?」
続いて、
『妖刀ツクヨミ。持ち主の生命力を吸い、満月の夜に真の姿を現す。』
ツクヨミ:「なぜ呪われているんだ」
スサノオ:「夜の刀は、大体呪われるんだよ」
ツクヨミ:「納得できない」
さらに、
『魔剣スサノオ。振るうたびに嵐を呼び、敵味方を問わず吹き飛ばす。』
スサノオ:「強そうじゃねえか!」
オモイカネ:「味方も吹き飛びます」
スサノオ:「些細な問題だ」
タケミカヅチ:「問題しかない」
ミチザネ:「なお、須佐之男命本人は、性能に満足している、と」
スサノオ:「ああ。正式に許可する」
オモイカネ:「許可する権限については、後ほど整理します」
◇巨大機動兵器
アマテラス:「武器だけでなく、兵器にも神様の名前が使われているようですね」
オモイカネ:「はい。戦艦、戦闘機、人工衛星、巨大機動兵器などです」
スサノオ:「巨大機動兵器!」
須佐之男が、勢いよく立ち上がった。
スサノオ:「そいつは人型か?」
オモイカネ:「ものによります」
スサノオ:「剣は持っているのか?」
オモイカネ:「ものによります」
スサノオ:「変形は?」
オモイカネ:「座ってください」
タケミカヅチ:「雷を放つ機体であれば、私の名こそふさわしい」
ツクヨミ:「隠密型には、私の名を」
スサノオ:「三貴子で合体するぞ!」
ツクヨミ:「私は右腕を希望する」
アマテラス:「私は参加すると決めていません」
スサノオ:「姉貴が頭部でいいだろ!」
アマテラス:「なぜ私を合体させようとするのですか?」
イナリ:「私は補給機でしょうか?」
オオクニヌシ:「私は基地を造る側になりそうだな」
オモイカネ:「皆様、話を広げないでください」
スサノオ:「必殺技は『三貴子超絶――』」
カン!カン!カン!
―拍子木が強く打たれた―
オモイカネ:「巨大機動兵器の開発会議ではありません」
ミチザネ:「合体機構については、継続審議としますか?」
オモイカネ:「却下いたします」
スサノオ:「可能性は残ったな」
オモイカネ:「残っていません」
◇結論
カン、カン。
―拍子木が打たれた―
オモイカネ:「議論をまとめます」
神々が、思兼神へ視線を向けた。
オモイカネ:「神名を必殺技や武器に使用することは、神話への関心を広げ、神々の名前を後世へ残す文化活動と考えられます」
アマテラス:「人間の皆さんが、楽しんで使ってくださるのであれば、私も反対はいたしません」
ツクヨミ:「相応の格が保たれるならば、異論はない」
スサノオ:「俺は最初から許可している!」
オモイカネ:「よって、敬意を伴う使用については、原則として許可します」
ミチザネ:「ただし、神話上の由来を著しく損なうもの、神の尊厳を不当に傷つけるものについては、個別に判断する、と」
オモイカネ:「そのように記録してください」
ミチザネ:「承知しました」
スサノオ:「『暴走究極破壊神スサノオ・デストロイヤー』も許可だな!」
オモイカネ:「それは採用しません」
スサノオ:「なぜだ!」
ツクヨミ:「技名ではなく、お前の新しい肩書きになりかけているからだ」
◇後日談――本人の前で叫ばれる場合
後日。
天照と思兼神は、人間界における神名の使用状況を確認するため、町の公園を訪れていた。
広場では、木の枝を剣に見立てた子供たちが、必殺技ごっこに興じている。
子供A:「くらえ! 暗黒魔龍斬!」
子供B:「効かない! 絶対防御!」
子供C:「俺も混ぜて!」
天照は、その様子を穏やかに眺めていた。
アマテラス:「楽しそうですね」
オモイカネ:「創造力を育む、健全な遊びです」
一人の少年が、木の枝を高々と掲げた。
子供A:「いくぞ! 俺の最強必殺技!」
天照が足を止めた。
少年は、大きく息を吸い込んだ。
子供A:「超・神・聖・極・大・光・輪――!」
アマテラス:「前置きが長くありませんか?」
少年は、木の枝を勢いよく振り下ろした。
子供A:「アァァァマァァァテェェェラァァァスッッッ!!」
公園中に、絶叫が響き渡った。
ハトが一斉に飛び立った。
近くの保護者たちが振り返った。
散歩中の犬が激しく吠えた。
天照は、その場で硬直していた。
オモイカネ:「天照様」
アマテラス:「……はい」
オモイカネ:「かなり強そうでした」
アマテラス:「感想は、それだけですか?」
オモイカネ:「本人への特効効果を確認いたしました…」
少年の仲間たちは、派手に地面へ倒れた。
子供B:「ぐわあああっ!」
子供C:「世界が……光に飲まれる……!」
子供A:「これが太陽神の力だ!」
アマテラス:「やめてください……」
オモイカネ:「太陽神として、正しく認識されています」
アマテラス:「そういう問題ではありません。本人が、すぐ近くにいるのですよ」
―アマテラスがオモイカネと談義している内に子供Bが立ち上がった。
子供B:「まだだ! 俺には、月の力がある!」
両腕を大きく広げ、夜空を仰ぐような姿勢を取る。
子供B:「絶対暗黒幻影領域――ツクヨミィィィィ!」
アマテラス:「…月読も、随分と強烈に叫ばれていますね」
オモイカネ:「後ほど、本人へ報告します」
アマテラス:「必ず報告してください」
オモイカネ:「それほどまでに?」
アマテラス:「この恥ずかしさを、私だけが味わうのは不公平だと思いませんか?」
オモイカネ:「承知しました」
―アマテラス達がそのまま子供たちを見ているとそこへ、小さな女の子が加わった。
両手には、短い木の枝。
女の子:「私は天照大御神! 太陽を支配する最強の女神!」
アマテラス:「…………」
オモイカネ:「ご本人役も登場しました」
アマテラス:「帰りましょう」
オモイカネ:「視察は始まったばかりです」
女の子:「悪い神は、全部太陽で焼き尽くす!」
アマテラス:「私は、そのような物騒な神ではありません」
女の子は、二本の枝を交差させた。
女の子:「神剣二刀流――!」
アマテラス:「まだ増えるのですか?」
女の子:「アマテラス・サンシャイン・エクスプロージョン!」
子供たち:「うわああああああ!」
再び、子供たちが一斉に倒れた。
女の子:「私が最強!」
天照は、両手で顔を覆った。
アマテラス:「……岩戸に帰りたい」
オモイカネ:「……新たな必殺技にされますよ」
◇日本支部への帰還
その日の夕方。
日本支部へ戻った天照を、すでに報告を受けていた月読と須佐之男が待っていた。
スサノオ:「姉貴! 聞いたぞ!」
アマテラス:「何も聞いていないことにしてください」
スサノオ:「アァァァマァァァテェェェラァァァスッッッ!!」
アマテラス:「やめなさい!」
ツクヨミ:「超・神・聖・極・大・光・輪――」
アマテラス:「月読まで!」
ツクヨミ:「人間文化への協力だ」
アマテラス:「絶対に面白がっていますよね?」
スサノオ:「いいじゃねえか。子供たちから、最強だと思われてるんだぞ!」
アマテラス:「名前を普通に呼ばれるのとは違います。あれほど長く、激しく、全力で叫ばれるとは思いませんでした」
ツクヨミ:「姉上の名は五文字ある。音を伸ばしやすく、必殺技として叫び応えがあるのだろう」
アマテラス:「冷静に分析しないでください」
オモイカネ:「なお、須佐之男様の名前も使用されていました」
スサノオ:「本当か! どのような技だ?」
オモイカネ:「『暴走究極破壊神スサノオ・デストロイヤー』です」
スサノオ:「最高じゃねえか!」
ツクヨミ:「やはり知性がない」
スサノオ:「子供に伝わりやすい強さだ!」
須佐之男は立ち上がり、再び大きく息を吸い込んだ。
スサノオ:「必殺――アマテラス!」
会議室の明かりが、一斉に消えた。
暗闇の中から、天照の静かな声が響く。
アマテラス:「次に叫んだ者から、太陽の恩恵を停止します」
「……無差別暗黒魔法アマテラス…」
暗闇の中で誰かが、ボソリと呟いた。
アマテラス:「誰ですか!今のは!!」
会議室は、月のない夜よりも静かになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―議事録—
議題:神名の必殺技・武器名への使用について
開催場所:日本支部
司会:思兼神
書記:菅原道真
審議区分:通常審議・継続審議
参集メンバー
天照大御神、月読命、須佐之男命、建御雷神、大国主神、稲荷神
投書者:必殺技を考える少年
投書:
「天照様とか月読様とか、須佐之男様とか、名前が格好いいですよね。必殺技名として使わせてもらってもよいでしょうか?
できれば、武器の名前にも使わせてください」
一、投書の概要
人間界において、神々の名前を必殺技や武器の名称として使用してよいか、許可を求める投書が寄せられた。
調査の結果、神名はすでに以下の用途へ広く使用されていたことが確認された。
・必殺技
・魔法および特殊能力
・刀剣、槍、弓、銃、鎧
・戦艦、戦闘機、人工衛星
・巨大機動兵器
・支援装置および人工知能
・単に格好いい名称
武器名への使用については、許可を求める以前から多数の使用例が確認された。
したがって、本件は新規使用の許可だけでなく、すでに行われている使用に対する事後承認を含むものとして審議した。
二、神名の使用状況
人間界での使用例を調査した結果、神々によって採用数と使用方法に大きな差が確認された。
主に攻撃技や武器へ使用される神々は、以下のとおりである。
天照大御神。
光、太陽、浄化、炎、高熱、大爆発など。
月読命。
月、夜、幻術、精神攻撃、時間停止など。
須佐之男命。
暴風、雷、斬撃、海、龍、破壊、暴走など。
建御雷神。
雷、剣技、刀剣、神槍、対軍攻撃など。
いずれも視覚的に分かりやすく、攻撃能力へ転用しやすい神格を有しているため、必殺技や武器名への採用例が多いものと考えられる。
一方、以下の神々は、攻撃技への採用例が比較的少なかった。
思兼神。
作戦立案、演算装置、人工知能、知力上昇など。
菅原道真。
学問成就、合格祈願、雷除けなど。
稲荷神。
豊穣、商売繁盛、獲得金額上昇、食料入手率上昇など。
大国主神。
国造り、縁結び、医薬、因幡の白兎など。
これらは人間の生活や戦闘の基盤を支える重要な能力ではあるが、直接的な攻撃技としては表現しにくいため、支援能力や御利益として使用される傾向が強い。
なお、稲荷神については、本人よりも神使である狐、狐火、九尾、狐面などが目立つ事例が多数確認された。
稲荷神本人より、
「わたしより狐が目立っています」
との正式な不満が表明されている。
三、使用数と神格の関係
審議の結果、神名が必殺技や武器へ使用される頻度は、神格の高さや神としての重要性を示すものではないと整理された。
光、雷、炎、嵐、斬撃などは、視覚的に派手であり、戦闘能力として表現しやすい。
一方、知恵、学問、豊穣、経済、縁結び、国造り、医薬などは、人間社会に不可欠であるものの、一撃で敵を倒す必殺技には変換しにくい。
これらは優劣ではなく、以下のような役割の違いである。
攻撃型。
天照大御神、月読命、須佐之男命、建御雷神。
支援・基盤型。
思兼神、菅原道真、稲荷神、大国主神。
ただし、各神の権能は複数の役割へ応用可能であり、完全に分類できるものではない。
須佐之男命については、味方を巻き込まないことが最大の支援になるとの意見が出された。
本人から異議が申し立てられたが、分類は変更されなかった。
四、使用例の少ない神々による必殺技案
使用例の少ない神々についても、神格や逸話を基に、以下の必殺技案が検討された。
思兼神。
『神算鬼謀・オモイカネ』
敵の行動を予測し、あらゆる攻撃を事前に封じる。
菅原道真。
『天神雷問』
相手へ難問を与え、不正解の場合は雷撃を加える。
稲荷神。
『千本鳥居』
無数の鳥居によって結界を形成し、敵を封じ込める。
狐火を加える案も出されたが、神使である狐ばかりが目立つとの理由により、稲荷神本人から慎重な意見が示された。
大国主神。
『縁結大結界・大国主』
対立する者たちの心と縁を結び直し、戦いそのものを終結させる。
大国主神より、
「敵を打ち倒すだけが、必殺ではない」
との意見があり、審議参加者から一定の評価を得た。
以上により、攻撃技以外でも、神の性質に応じた必殺技は成立し得ると確認された。
五、人間によって追加された能力
人間界の創作物では、神々が本来保有していない能力や設定が追加される例も多い。
主な確認例は、以下のとおりである。
『主砲・極光滅界砲アマテラス』
宇宙から光を照射し、大陸一つを消滅させる兵器。
天照大御神本人は、このような攻撃を行った事実を否定した。
また、自身を兵器として扱わないよう要望している。
『月読』
対象を永遠の幻覚世界へ閉じ込める能力。
月読命本人は当該権能を否定したが、名称と演出については比較的好意的であった。
『暴走究極破壊神スサノオ・デストロイヤー』
詳細な能力は不明。
須佐之男命本人は、即時採用および考案者の正式な命名担当への任命を希望した。
なお、須佐之男命が破壊神として正式に認定された事実はない。
六、神名が示す意味
技名や武器名に神名が含まれている場合、その神名が何を意味するのか、名称だけでは判断できない問題が指摘された。
審議の結果、神名の使用方法を以下の六種類に分類した。
其の一、力の由来
神の権能や属性を借りた技や武器。
其の二、使用者
神本人が使用した、または使用するとされる技や武器。
其の三、召喚対象
神本人を呼び出すための技や道具。
其の四、攻撃対象
その神を倒すことを目的とした技や武器。
其の五、特効先
神本人、または神に関連する存在へ、特別な効果を持つ技や武器。
其の六、単に格好いいから
神話上の由来や権能との関係はなく、名称の響きだけを理由に採用されたもの。
最後の使用方法については、相当数の事例が該当する可能性がある。
神話と直接関係しない名称であっても、そこから神話へ興味を持つ者が現れる可能性があるため、一律に禁止する必要はないと判断された。
七、自己特効武器について
『ドラゴンキラー』が竜の使用する武器ではなく、竜を倒すための武器であることから、神名を冠した武器が、その神を倒すための特効武器である可能性が指摘された。
この場合、例えば『アマテラス』という名称が、天照大御神の力を宿すことを意味するのか、天照大御神を攻撃対象とするのか、名称だけでは判断できない。
天照大御神、月読命、須佐之男命、建御雷神は、自身の名前を冠した自身への特効武器について、強い反対を表明した。
大国主神より、
「結局、全員嫌なのではないか」
との指摘があった。
そのとおりである。
八、神本人を必殺技として使用することについて
『アマテラス』という必殺技が、天照大御神の力を借りる技ではなく、天照大御神本人を召喚または射出する技である可能性について審議した。
神名を技名として使用することと、神本人を技として使用することは、別の問題である。
神本人を武器、弾丸、投擲物として使用する行為については、本人の明確な同意が必要と判断された。
天照大御神からは、明確な不同意が示されている。
須佐之男命による、天照大御神を投げる動作については、司会より即時中止が命じられた。
九、神名使用に関する基準
審議の結果、以下を神名使用に関する努力基準とする。
其の一、神話上の由来や神格を、可能な範囲で名称や能力へ反映すること。
其の二、神名を冠する技や武器には、相応の格を持たせること。
其の三、著しく弱い技や、序盤で容易に入手できる低性能装備への使用は慎重に行うこと。
其の四、神名を叫んでおきながら、不発に終わらせないこと。
其の五、敵側の雑兵が、同じ神名の技を大量に使用しないこと。
其の六、神名を過剰に連結し、意味の分からない名称にしないこと。
其の七、その神名が、力の由来、使用者、召喚対象、攻撃対象、特効先のいずれを示すのか、可能な範囲で説明すること。
其の八、神本人を武器または必殺技として直接使用しないこと。
九、神本人による過剰な性能要求や、製作者への直接訪問は禁止する。
十、神々自身による技名の過剰な追加を禁止する。
なお、須佐之男命、月読命、建御雷神より、複数の神名を組み合わせた合体技が提案された。
提案された名称は、
『三貴子超絶合体・建御雷神轟天斬』
である。
話がまとまらなくなるため、採用しない。
十、神名を冠した武器
以下の武器例について、本人を交えて性能を確認した。
『神剣アマテラス』
光を放ち、闇を浄化する剣。
『妖刀ツクヨミ』
満月の夜に真の力を発揮する刀。
『魔剣スサノオ』
振るうたびに暴風と雷を発生させる大剣。
『神槍タケミカヅチ』
雷をまとい、あらゆる防御を貫く槍。
建御雷神および須佐之男命より、最高級の希少度、同系統で上位の性能、固有能力、防御無視などを求める意見が出された。
月読命からは夜間強化、天照大御神からは昼間強化が想定された。
須佐之男命の武器については、装備者が命令を聞かなくなる能力が提案された。
本人は呪いであるとして反対した。
十一、武器の説明文
人間界の創作物では、神話との直接的な関係よりも、外見や属性を理由として神名が採用される場合がある。
確認例は、以下のとおりである。
『神剣アマテラス。古代文明が製造した光子兵器。刀身から高熱を放ち、敵を焼き尽くす』
天照大御神より、神剣と古代文明製兵器の関係、および自身の名前が採用された理由について疑問が示された。
『妖刀ツクヨミ。持ち主の生命力を吸い、満月の夜に真の姿を現す』
月読命より、夜や月に関係する武器が、必ず呪われた武器として扱われることへの不満が示された。
『魔剣スサノオ。振るうたびに嵐を呼び、敵味方を問わず吹き飛ばす』
須佐之男命本人は、味方を吹き飛ばす点を含め、性能に満足している。
ほかの参加者からは、問題しかないとの意見が出された。
十二、巨大機動兵器について
神名は、刀剣だけでなく、戦艦、戦闘機、人工衛星、巨大機動兵器などにも使用されている。
須佐之男命、月読命、建御雷神から、以下の要望が提出された。
・人型であること。
・剣を装備すること。
・雷撃能力を持つこと。
・隠密型の機体を用意すること。
・三貴子の機体が合体すること。
・天照大御神を頭部へ配置すること。
・大国主神が基地を建設すること。
・稲荷神を補給機とすること。
本会議は巨大機動兵器の開発会議ではないため、すべて却下した。
合体機構について、継続審議を求める意見が出されたが、継続審議自体を却下した。
十三、審議結果
条件付き承認。
神名を必殺技、武器、兵器、能力などの名称として使用することについて、原則として許可する。
ただし、神話上の由来を著しく損なうもの、神の尊厳を不当に傷つけるもの、神本人を攻撃または直接使用するものについては、個別に判断する。
十四、投書への正式回答
神様の名前を、必殺技や武器の名称として使用しても構いません。
神話上の由来や、神様への敬意を大切にしながら、格好よく使用してください。
神様が本来持っていない能力を加えることについても、創作上必要な範囲であれば認めます。
ただし、その名前が神様の力を借りる意味なのか、神様本人を召喚する意味なのか、神様を倒すための特効能力なのかは、可能な範囲で明確にしてください。
なお、神様本人を必殺技として直接投げる行為は、本人の許可がない限り禁止します。
十五、後日談――本人への特効効果
後日、天照大御神と思兼神が、人間界における神名の使用状況を視察した。
公園で遊ぶ子供が、以下の必殺技を全力で叫んだ。
『超・神・聖・極・大・光・輪――アマテラス』
その結果、以下の事象が発生した。
・公園中に声が響いた。
・ハトが一斉に飛び立った。
・近くの保護者が振り返った。
・散歩中の犬が吠えた。
・敵役の子供たちが、世界滅亡級の演技で倒れた。
・天照大御神が、その場で硬直した。
続いて、『ツクヨミ』および『アマテラス・サンシャイン・エクスプロージョン』の使用が確認された。
視察の結果、神名を通常の呼称として使用する場合と、必殺技として全力で叫ぶ場合とでは、本人が受ける羞恥に大きな差があることが判明した。
思兼神は、これを本人への特効効果として記録した。
天照大御神は、視察後に天岩戸への帰還を希望した。
十六、追記事項
日本支部への帰還後、須佐之男命および月読命が、天照大御神の名前を必殺技として再現した。
これにより、会議室の照明が一時消失した。
暗闇の中、何者かが、
『無差別暗黒魔法アマテラス』
と発言した。
発言者は特定されていない。
天照大御神より、
「次に叫んだ者から、太陽の恩恵を停止する」
との警告が発せられた。
以後、会議室は月のない夜よりも静かになった。
人的被害はなかった。
太陽の恩恵についても、現時点では停止されていない。
十七、他本部への共有事項
本議事録は、神名の使用状況を確認する参考資料として、オリュンポス本部へ共有する。
特に、以下の事項について情報共有を求める。
・他神話の神名が、人間界でどのような能力に使用されているか。
・神名を冠した本人への特効武器を、各本部がどのように扱うか。
・神名の使用へ、神本人の許可を必要とするか。
・巨大機動兵器への搭乗を希望する神が、ほかの本部にも存在するか。
最後の項目については、問題の拡大が予想されるため、参考情報に留める。
なお、須佐之男命が希望した、
『暴走究極破壊神スサノオ・デストロイヤー』
については、本人以外からの賛成が得られなかった。
正式な技名および肩書きとしては、不採用とする。
――以上。
書記:菅原 道真
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