第XX回 『神様の名前を必殺技や武器に使ってもよいか』—日本支部— 前編
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議題:神名の必殺技・武器名への使用について
開催場所:日本支部
司会:思兼神
書記:菅原道真
審議区分:通常審議
参集メンバー
出席:天照大御神、月読命、須佐之男命、建御雷神、大国主神、稲荷神
投書者:必殺技を考える少年
投書:
「天照様とか月読様とか、須佐之男様とか、名前が格好いいですよね。必殺技名として使わせてもらってもよいでしょうか?」
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日本支部。
会議室の中央には、一本の木の枝が置かれていた。
何の変哲もない木の枝である。
しかし、須佐之男は腕を組み、真剣な表情でそれを見つめていた。
スサノオ:「これは……剣だな」
ツクヨミ:「木の枝だ」
スサノオ:「子供が持てば剣になる」
タケミカヅチ:「振り方次第では、槍にもなるな」
オオクニヌシ:「危ないから、振り回さないように」
イナリ:「そもそも、なぜ会議室に木の枝が?」
ミチザネ:「今回の参考資料です」
白い装束をまとった菅原道真が、筆を置いた。
スサノオ:「参考資料にしては、安上がりだな」
ミチザネ:「子供たちは、これ一本で聖剣にも魔剣にも神槍にもできます」
ツクヨミ:「想像力とは偉大だな」
アマテラス:「それで、今回の議題は、その木の枝についてなのですか?」
オモイカネ:「正確には、その木の枝へ付けられる名前についてです」
カン、カン。
思兼神が拍子木を鳴らした。
オモイカネ:「それでは、第XX回神話系ミーティングを始めます」
◇投書の確認
思兼神は、届いた投書を読み上げた。
『天照様とか月読様とか、須佐之男様とか、名前が格好いいですよね。必殺技名として使わせてもらってもよいでしょうか?』
スサノオ:「いいぞ」
オモイカネ:「まだ審議を始めてませんが?」
スサノオ:「俺の名前を使いたいんだろ? 好きに使えばいい」
オモイカネ:「使用方法や範囲を確認しなくて良いのですか?」
スサノオ:「必殺技だぞ。叫んで、斬って、爆発すれば大体なんとかなる」
ツクヨミ:「その考え方は、問題にならないか?」
スサノオ:「何がだ?」
ツクヨミ:「名前を貸した結果、弱い技だったらどうするのだ」
スサノオ:「俺の名前を使って、弱くなるわけがないだろう」
ツクヨミ:「初期必殺技『スサノオ』敵一体に小ダメージ。低確率で転倒」
スサノオ:「誰だ、そんな技を考えた奴は!」
オモイカネ:「例えばの話です」
ミチザネ:「須佐之男命――弱い技への使用には反対、と」
スサノオ:「当然だ。最低でも敵全体攻撃にしろ」
オモイカネ:「性能の指定は議論していません」
カン、カン。
拍子木が鳴らされた。
◇天照という必殺技
天照は、机の上の投書へ視線を落とした。
太陽を司る日本神話の最高神。
その名が人間界でどのように使われているのか、本人としても気になるところではある。
アマテラス:「私の名前は、どのような技に使われるのでしょうか?」
オモイカネ:「光属性の大技が多いようです」
アマテラス:「光ですか」
オモイカネ:「ほかには、太陽、浄化、高熱、炎上、大爆発」
アマテラス:「後半が物騒ですね」
ツクヨミ:「姉上の場合、天岩戸へ隠れて世界から光を消す技も考えられる」
アマテラス:「それは必殺技ではありません」
スサノオ:「世界中を暗闇にするんだぞ。かなり強い」
アマテラス:「私を大魔王みたいにしないで」
オモイカネ:「敵味方だけでなく、一般人にも甚大な被害が及びます」
ミチザネ:「使用禁止技に指定しますか?」
アマテラス:「そもそも技として扱わないでください」
さらさら。
道真は、議事録の端に書き加えた。
『天岩戸――全世界規模の無差別攻撃となるため、使用禁止。』
アマテラス:「道真?」
ミチザネ:「記録です」
アマテラス:「あとで消してください」
◇人間界における使用例
思兼神は、人間界から集めた資料を配布した。
そこには、神々の名前を冠した技や能力が、数多く記載されていた。
剣。槍。魔法。召喚術。特殊能力。戦艦。戦闘機。人工衛星。
そして、巨大機動兵器。
アマテラス:「私、剣にもなっているのですね」
オモイカネ:「銃、鎧、魔法、人工衛星、宇宙兵器にもなっています」
アマテラス:「私の担当範囲が広すぎませんか?」
ツクヨミ:「私は?」
オモイカネ:「月、夜、幻術、精神攻撃、時間停止などです」
ツクヨミ:「時間停止?」
オモイカネ:「本来お持ちでない能力も、相当量追加されています」
ツクヨミ:「…………」
スサノオ:「どうした?」
ツクヨミ:「時間停止は、悪くない」
スサノオ:「気に入ってるじゃねえか!」
ツクヨミ:「人間文化への協力だ」
オモイカネ:「須佐之男様は、暴風、雷、斬撃、海、龍、破壊、暴走、特攻です」
スサノオ:「完璧じゃねえか!」
ツクヨミ:「知性を感じる能力が一つもないな」
スサノオ:「必殺技に知性はいらねえ! 叫んで斬れば成立する!」
ミチザネ:「今の発言は、正式な見解として記録してよいでしょうか?」
スサノオ:「…待て。少し考えさせろ」
ツクヨミ:「知性が必要になったようだな」
◇使われる神、使われない神
思兼神は、人間界から集めた資料を、神ごとに分類した。
天照大御神、百二十七件。
月読命、八十四件。
須佐之男命、百三件。
建御雷神、六十九件。
資料の束が、机の上へ次々と積み上げられていく。
スサノオ:「多いな!」
ツクヨミ:「私は姉上より少ないのか」
アマテラス:「数を競うものではないでしょう」
タケミカヅチ:「六十九件……。悪くはないが、須佐之男命との差が大きいな」
スサノオ:「やっぱり、大蛇退治の実績が効いてるんじゃねえか?」
ツクヨミ:「お前の場合は、暴れる技へ名前を付けやすいだけだと思うぞ」
スサノオ:「それも才能だ!」
アマテラス:「才能なのでしょうか?」
使われる側の神々は、それぞれの資料を手に取り始めた。
『神剣アマテラス』
『月影幻術ツクヨミ』
『暴風雷撃スサノオ』
『神槍タケミカヅチ』
派手だった。
光る。燃える。雷が落ちる。嵐が起こる。月が浮かぶ。敵が吹き飛ぶ。
いずれも必殺技として、非常に分かりやすかった。
スサノオ:「見ろ! 俺の名前、剣にも鎧にも戦艦にも使われてるぞ!」
タケミカヅチ:「私も雷属性の槍、刀、機動兵器に多く採用されている」
ツクヨミ:「月、夜、幻術。統一感があるな」
アマテラス:「私は少し、爆発させられすぎている気がします」
四柱が資料を確認する一方。
向かい側の机には、薄い資料が置かれていた。
思兼神、六件。
菅原道真、三件。
稲荷神、十一件。
大国主神、八件。
沈黙。
オモイカネ:「…………」
ミチザネ:「…………」
イナリ:「…………」
オオクニヌシ:「…………」
スサノオ:「そっちは、ずいぶん机が広いな」
オモイカネ:「資料が少ないだけです」
スサノオ:「そうか」
オモイカネ:「何か?」
スサノオ:「いや、別に」
オモイカネ:「そうですか」
思兼神は、静かに須佐之男を見つめた。
知恵と思慮を司る神の視線には、普段とは異なる圧があった。
【思兼神の場合】
オモイカネ:「私の使用例を確認しましょう」
思兼神は、六件しかない資料を手に取った。
『戦術支援機能・オモイカネ』
『高度演算装置・オモイカネ』
『作戦立案型人工知能・OMOIKANE』
『知力上昇技能・思兼』
オモイカネ:「…………」
スサノオ:「必殺技じゃねえな」
ツクヨミ:「ほぼ補助機能だ」
タケミカヅチ:「武器ですらない」
オモイカネ:「正確に状況を分析し、戦闘を有利に導く重要な機能です」
スサノオ:「でも、最後に敵を倒すのは俺たちの技だろ?」
オモイカネ:「…………」
ミチザネ:「須佐之男様」
スサノオ:「なんだ?」
ミチザネ:「それ以上は、やめておいた方がよろしいかと」
スサノオ:「なぜ?」
ミチザネ:「次回から、あなたの発言が一切採用されなくなる可能性があります」
スサノオ:「すでに、あんまり採用されてねえぞ」
オモイカネ:「さらに減らすことは可能です」
スサノオ:「すまなかった」
【菅原道真の場合】
ミチザネ:「次は、私ですね」
道真は、自分の資料を確認した。
『学問成就』
『合格祈願』
『雷除け』
ミチザネ:「…………」
アマテラス:「必殺技ではありませんね」
ミチザネ:「完全に御利益です」
タケミカヅチ:「雷神としての側面は?」
ミチザネ:「多少は期待していました」
スサノオ:「『怨霊雷撃ミチザネ』とかありそうだけどな」
ミチザネ:「ありませんでした」
ツクヨミ:「人間は、受験期になると道真を思い出すが、戦闘になると忘れるらしい」
ミチザネ:「学問の神として信仰されることは、大変ありがたいことです」
道真は、静かに筆を置いた。
ミチザネ:「しかし、雷神としての私が、建御雷神様より弱いと決まったわけではありません」
タケミカヅチ:「ほう」
ミチザネ:「私の雷は、都を震え上がらせました」
タケミカヅチ:「ならば、一度どちらが――」
オモイカネ:「雷神同士の実力確認は行いません」
スサノオ:「道真、意外と気にしてたんだな」
ミチザネ:「祟りますよ」
スサノオ:「すみません」
【稲荷神の場合】
イナリ:「次は、わたしですね!」
稲荷神が、自分の資料へ手を伸ばした。
白い小袖に緋袴を合わせた、狐耳を思わせる髪飾りの少女。
穀物と豊穣を司り、後世には商売繁盛の神として広く信仰されている。
資料の件数は、十一件。
イナリ:「天照様たちより少ないですけど、十一件もあります。きっと格好いい技が――」
『豊穣のお守り』
『商売繁盛の護符』
『獲得金額上昇』
『食料入手率増加』
『おいなりさん』
イナリ:「最後のは食べ物じゃないですか!」
スサノオ:「うまそうだな」
イナリ:「わたしの必殺技を探しているんです! 夕飯を選んでいるんじゃありません!」
アマテラス:「稲荷神は、全国的にも有名ではありませんか?」
イナリ:「知名度はあります。お社も、たくさんあります!」
オモイカネ:「全国各地で広く信仰されていますね」
イナリ:「でも、創作になると、みんな狐ばっかり見るんです!」
稲荷神は、机に両手をついて身を乗り出した。
イナリ:「狐耳!」
イナリ:「尻尾!」
イナリ:「狐火!」
イナリ:「九尾!」
イナリ:「お面!」
イナリ:「油揚げ!」
イナリ:「そればっかりです!」
ツクヨミ:「確かに、稲荷神本人より、狐の使いの方が目立っているな」
イナリ:「そうなんです! 狐は、わたしの神使なんですよ!」
スサノオ:「人気者でいいじゃねえか」
イナリ:「わたしより人気になってどうするんですか!」
オオクニヌシ:「神より神使が広く知られるというのも、珍しい話ではあるな」
イナリ:「人間界では、わたしの姿まで狐だと思われていることがあります!」
オモイカネ:「狐そのものを稲荷神と呼ぶ例もありますね」
イナリ:「わたし、狐じゃありません!」
スサノオ:「狐耳は付けてるけどな」
イナリ:「これは意匠です!」
スサノオ:「尻尾は?」
イナリ:「ありません!」
スサノオ:「隠してるだけじゃ――」
イナリ:「ありませんっ!」
オモイカネ:「須佐之男様。稲荷神の背後を確認しようとしないでください」
ミチザネ:「須佐之男命――神使と神本人の区別が曖昧、と」
スサノオ:「人間だって曖昧だろ!」
イナリ:「だから、困っているんです!」
カン、カン。
―拍子木が打たれた―
イナリ:「わたしにも、攻撃技くらいありますよね?」
オモイカネ:「豊穣、食物、産業、商売繁盛などは、戦闘技への変換が難しい性質です」
イナリ:「では、狐火です!」
ツクヨミ:「狐の技だな」
イナリ:「…………」
スサノオ:「九尾の炎」
イナリ:「狐です」
タケミカヅチ:「妖狐変化」
イナリ:「また狐です!」
アマテラス:「千本鳥居を使うのはいかがでしょう?」
イナリ:「それです!」
稲荷神の顔が明るくなった。
イナリ:「無数の鳥居が現れて、敵を結界へ閉じ込めるんです!」
ツクヨミ:「その後、狐火で攻撃する」
イナリ:「結局、狐が出てくるじゃないですか!」
スサノオ:「もう狐と一緒に戦えばいいだろ」
イナリ:「そうすると、きっとわたしより狐の方が人気になっちゃいます!」
オモイカネ:「根の深い問題ですね」
ミチザネ:「稲荷神――神使との人気格差に強い懸念、と」
イナリ:「そこは、絶対に書いておいてください!」
【大国主神の場合】
オオクニヌシ:「では、次は私の番であるな」
大国主神が、悠然と自分の資料を手に取った。
国造りを成し遂げ、多くの試練を乗り越えた国津神の主神。
幾重もの勾玉を胸元に下げ、落ち着いた眼差しで資料を見渡す姿には、自然と場を静める威厳があった。
『縁結び』
『国造り』
『因幡の白兎』
『医薬の加護』
『大国主の知恵袋』
オオクニヌシ:「なるほど。必殺技というよりは、我が事績と御利益が並んでいるようだ」
アマテラス:「大国主神は、この国を造り上げた重要な神です」
オオクニヌシ:「うむ。名が戦いの技に使われておらずとも、それによって我が神格が損なわれるものではない」
スサノオ:「気にしてねえのか?」
オオクニヌシ:「名が使われた数を競い、己の価値を決めるほど小さくはない」
スサノオ:「おお……」
ツクヨミ:「堂々としているな」
ミチザネ:「須佐之男様とは、器の大きさが違いますね」
スサノオ:「なんで俺と比べた?」
大国主神は、もう一度資料へ目を落とした。
オオクニヌシ:「とはいえ、人間が我が名を技へ用いたいというのであれば、拒む理由もない」
タケミカヅチ:「国造りの力を使えば、大地を隆起させ、戦場そのものを作り替えられるのではないか?」
オオクニヌシ:「国を造る力を、地形破壊へ使うか」
タケミカヅチ:「強力だぞ」
オオクニヌシ:「造るための力を、壊すことにばかり用いるのは感心せんな」
スサノオ:「じゃあ、破壊された大地を一瞬で直す技はどうだ?」
オオクニヌシ:「それならば悪くない。戦いの後に、田畑も道も人の暮らしも戻せるのであれば、意味がある」
オモイカネ:「復興能力ですね」
オオクニヌシ:「戦に勝つだけが力ではない。その後に国を立て直せなければ、真に勝ったとはいえぬ」
一同:「…………」
ミチザネ:「大国主神――復興まで見据えた、非常に立派な見解、と」
スサノオ:「俺のときと議事録の扱いが違いすぎないか?」
ミチザネ:「発言内容が違いますので」
カン。
―拍子木が打たれた―
イナリ:「縁結びは、必殺技にならないんですか?」
オオクニヌシ:「ほう。どのように使う?」
イナリ:「敵同士を強制的に結んで、動けなくする、とか?」
オオクニヌシ:「縁結びの意味が違う」
ツクヨミ:「敵の武器と地面を結びつければ、使用不能にできる」
オオクニヌシ:「いささか物理的すぎるな」
タケミカヅチ:「敵と崖を結ぶ」
オオクニヌシ:「それはバンジージャンプさせているだけであろう」
アマテラス:「争っている者同士の縁を結び直し、戦いを終わらせるのはいかがでしょう?」
オオクニヌシ:「うむ。それこそ、我が名にふさわしい」
ツクヨミ:「技名は『縁結大結界・大国主』」
オオクニヌシ:「悪くない名だ」
スサノオ:「あらゆる因果を結び、敵も味方も戦えなくする!」
オオクニヌシ:「何でも行動不能にすればよいというものではない」
オモイカネ:「では、対立する者の心と縁を結び直し、争いを鎮める技として整理しましょう」
オオクニヌシ:「それでよい。敵を打ち倒すだけが、必殺ではないからな」
イナリ:「格好いいです!」
スサノオ:「でも、必殺技なのに誰も倒れねえぞ?」
オオクニヌシ:「戦いそのものを終わらせれば、剣を振るう必要はない」
スサノオ:「…………」
ミチザネ:「須佐之男様には、少し難しかったようですね」
スサノオ:「分かってる! ただ、俺の必殺技とは方向性が違いすぎるんだよ!」
◇派手さの壁
思兼神は、使用例を二つの側へ分けた。
主に必殺技や武器へ使用される側。
天照。
月読。
須佐之男。
建御雷。
あまり使用されない側。
思兼神。
菅原道真。
稲荷神。
大国主神。
見事に分かれた。
オモイカネ:「違いは何でしょう?」
スサノオ:「派手さ」
ツクヨミ:「光、月、雷、嵐、斬撃。視覚的に分かりやすい」
タケミカヅチ:「武器や攻撃へ転用しやすい神格かどうか、ということだな」
アマテラス:「知恵、学問、豊穣、商売、縁結び、国造りは、必殺技にしにくいのですね」
ミチザネ:「人間の生活には必要ですが、戦闘画面では地味なのでしょう」
イナリ:「わたしだって、派手に戦えます!」
ツクヨミ:「狐を出すのか?」
イナリ:「わたしが戦うんです!」
スサノオ:「でも、狐が隣にいた方が映えるぞ」
イナリ:「また狐の方が目立つじゃないですか!」
オオクニヌシ:「まあ、そう焦ることはない。戦いの外でこそ必要とされる力もある」
イナリ:「大国主様は、悔しくないんですか?」
オオクニヌシ:「我が成した国造りは、一度の戦いよりも長く後世へ残る。必殺技の数で張り合う必要はあるまい」
オモイカネ:「知恵、補給、食料、経済、復興、記録。戦いを始める前と、終えた後には、我々の力が必要です」
ミチザネ:「戦闘を成立させるための基盤、と整理できますね」
イナリ:「……それは分かりますけど」
稲荷神は、自分の薄い資料を見つめた。
イナリ:「やっぱり、一個くらい格好いい必殺技が欲しいです」
オオクニヌシ:「ははは。まだ若いな」
イナリ:「大国主様が落ち着きすぎなんです!」
スサノオ:「よし。『千本鳥居・稲荷狐神炎舞』」
イナリ:「狐を外してください!」
スサノオ:「そこが一番格好いいのに!」
イナリ:「だから、それ、私じゃなくて狐なんですー!」
◇使われない側による必殺技会議
スサノオ:「だったら、自分たちで考えればいいだろ」
オモイカネ:「自分たちで?」
スサノオ:「思兼は、相手の行動を全部読んで封じる技」
ツクヨミ:「『神算鬼謀・オモイカネ』」
オモイカネ:「悪くありませんね」
スサノオ:「乗ったな!」
タケミカヅチ:「道真は、雷と学問を組み合わせればよい」
ツクヨミ:「相手へ回答不能の難問を与え、不正解なら雷が落ちる」
ミチザネ:「『天神雷問』といったところでしょうか」
スサノオ:「強え! 俺、それ嫌だ!」
ミチザネ:「須佐之男様には、特効が入りそうですね」
スサノオ:「なんでだよ!」
アマテラス:「稲荷神は、狐火でしょうか?」
イナリ:「狐に任せきりなのも複雑ですが、技としては映えそうですね」
ツクヨミ:「『豊穣狐火・千本稲荷』」
イナリ:「少し格好いい…」
オオクニヌシ:「私は?」
スサノオ:「『国造り』」
オオクニヌシ:「そのままだな」
タケミカヅチ:「大地を隆起させ、巨大な国土を生み出す」
オオクニヌシ:「だから、国造りを地形攻撃にするな」
ミチザネ:「では、『縁結大結界・大国主』」
オオクニヌシ:「何を結ぶ技だ?」
ツクヨミ:「敵、味方、因果、国土。あらゆるものを結び、戦いそのものを終わらせる」
オオクニヌシ:「……それは、かなり格好いいな」
スサノオ:「全員、結局乗り気じゃねえか!」
オモイカネ:「人間文化への協力です」
ツクヨミ:「その言葉を使い始めたな」
オモイカネ:「便利でしたので」
◇新たな対立
しばらくして、思兼神が新たな分類表を完成させた。
攻撃型。
天照、月読、須佐之男、建御雷。
支援型。
思兼神、菅原道真、稲荷神、大国主神。
オモイカネ:「このように整理すれば、優劣ではなく役割の違いと考えられます」
アマテラス:「よいまとめだと思います」
ミチザネ:「では、そのように記録します」
スサノオ:「待て」
オモイカネ:「何でしょう?」
スサノオ:「姉貴と月読が、支援型に回ることもあるだろ」
ツクヨミ:「月光による回復や、幻術による支援か」
タケミカヅチ:「私も雷による身体強化が可能だ」
スサノオ:「俺だって――」
一同:「…………」
スサノオ:「なんだよ」
オオクニヌシ:「スサノオ殿は攻撃型でよいだろう」
イナリ:「無理に支援しなくても結構ですよ」
ミチザネ:「味方を巻き込まないことが、最大の支援になるかと」
スサノオ:「扱いがひどくねえか!?」
カン、カン。
―拍子木が打たれた―
オモイカネ:「結論を補足します。神名の使用数や、必殺技としての派手さは、神格の優劣を示すものではありません。攻撃、支援、回復、補給、知恵、記録など、それぞれの性質に応じた使用を推奨します」
ミチザネ:「なお、使用例の少ない神々についても、本人たちが若干気にしているため、積極的な採用を歓迎する、と」
オモイカネ:「道真殿」
ミチザネ:「はい」
オモイカネ:「『若干』ではありません」
ミチザネ:「では、『相当に』へ修正します」
オモイカネ:「その一文自体を削除してください」
スサノオ:「やっぱり、気にしてるじゃねえか」
オモイカネ:「次回から、須佐之男様の発言時間を半分にします!」
スサノオ:「職権乱用じゃないのか!」
カン。
―拍子木が打たれた―
アマテラス:「必殺技として使いやすいかどうかと、神様としての大切さは別の問題でしょうね」
オオクニヌシ:「うむ。派手な一撃だけで、国も人の暮らしも成り立つものではない」
イナリ:「それは分かりますけど……やっぱり、一つくらい格好いい技は欲しいです」
ミチザネ:「稲荷神――引き続き、必殺技を希望、と」
イナリ:「そこは、ちゃんと書いておいてください!」
スサノオ:「俺が考えてやるぞ。『千本鳥居・稲荷狐神――』」
イナリ:「狐を外してください!」
スサノオ:「そこが一番格好いいのに!」
イナリ:「だから、わたしより狐が目立つんですー!」
会議室に、稲荷神の声が響き渡った。
ひとまず、神名が必殺技に使われる頻度については、神格の優劣ではなく、能力の派手さと使いやすさによるものと整理された。
しかし。
ミチザネ:「思兼様。まだ資料が残っています」
オモイカネ:「どれほどですか?」
ミチザネ:「人間が、神名へ独自の能力を追加した事例です」
ドサッ。
道真が、新たな資料の束を机へ置いた。
先ほどまでの資料よりも、明らかに多かった。
アマテラス:「……私たちの知らない能力が、それほどあるのですか?」
ミチザネ:「天照様には、大陸を消滅させる光線が追加されています」
アマテラス:「何ですか、それは?」
ミチザネ:「月読様には、永遠の幻覚世界」
ツクヨミ:「ほう」
ミチザネ:「須佐之男様には、暴走究極破壊神という肩書きが」
スサノオ:「採用!」
オモイカネ:「この後に、詳しく確認していきます」
スサノオ:「もう採用でいいだろ!」
オモイカネ:「確認します」
カン、カン。
―拍子木が打たれた―
神々の名前は、人間界でどのように使われているのか。
そして、その名前が示しているのは――
神の力なのか。
神本人なのか。
それとも、倒すべき相手なのか。
審議は、さらに複雑な問題へ入ろうとしていた。
―後編へ続く―




