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神話系ミーティング ~その問題、神々が議論します~  作者: すばる ゆう
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第XX回 『神様の名前を必殺技や武器に使ってもよいか』—日本支部— 前編

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


議題:神名の必殺技・武器名への使用について

開催場所:日本支部

司会:思兼神

書記:菅原道真

審議区分:通常審議


参集メンバー

出席:天照大御神(あまてらすおおみかみ)、月読命(つくよみのみこと)、須佐之男命(すさのおのみこと)、建御雷神(たけみかづち)、大国主神(おおくにぬし)、稲荷神(いなりのかみ)


投書者:必殺技を考える少年

投書:

「天照様とか月読様とか、須佐之男様とか、名前が格好いいですよね。必殺技名として使わせてもらってもよいでしょうか?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


日本支部。

会議室の中央には、一本の木の枝が置かれていた。

何の変哲もない木の枝である。

しかし、須佐之男は腕を組み、真剣な表情でそれを見つめていた。


スサノオ:「これは……剣だな」

ツクヨミ:「木の枝だ」

スサノオ:「子供が持てば剣になる」

タケミカヅチ:「振り方次第では、槍にもなるな」

オオクニヌシ:「危ないから、振り回さないように」

イナリ:「そもそも、なぜ会議室に木の枝が?」

ミチザネ:「今回の参考資料です」


白い装束をまとった菅原道真が、筆を置いた。



スサノオ:「参考資料にしては、安上がりだな」

ミチザネ:「子供たちは、これ一本で聖剣にも魔剣にも神槍にもできます」

ツクヨミ:「想像力とは偉大だな」

アマテラス:「それで、今回の議題は、その木の枝についてなのですか?」

オモイカネ:「正確には、その木の枝へ付けられる名前についてです」


カン、カン。

思兼神が拍子木を鳴らした。


オモイカネ:「それでは、第XX回神話系ミーティングを始めます」



◇投書の確認


思兼神は、届いた投書を読み上げた。


『天照様とか月読様とか、須佐之男様とか、名前が格好いいですよね。必殺技名として使わせてもらってもよいでしょうか?』


スサノオ:「いいぞ」

オモイカネ:「まだ審議を始めてませんが?」

スサノオ:「俺の名前を使いたいんだろ? 好きに使えばいい」

オモイカネ:「使用方法や範囲を確認しなくて良いのですか?」

スサノオ:「必殺技だぞ。叫んで、斬って、爆発すれば大体なんとかなる」

ツクヨミ:「その考え方は、問題にならないか?」

スサノオ:「何がだ?」

ツクヨミ:「名前を貸した結果、弱い技だったらどうするのだ」

スサノオ:「俺の名前を使って、弱くなるわけがないだろう」

ツクヨミ:「初期必殺技『スサノオ』敵一体に小ダメージ。低確率で転倒」

スサノオ:「誰だ、そんな技を考えた奴は!」

オモイカネ:「例えばの話です」

ミチザネ:「須佐之男命――弱い技への使用には反対、と」

スサノオ:「当然だ。最低でも敵全体攻撃にしろ」

オモイカネ:「性能の指定は議論していません」


カン、カン。

拍子木が鳴らされた。



◇天照という必殺技


天照は、机の上の投書へ視線を落とした。

太陽を司る日本神話の最高神。

その名が人間界でどのように使われているのか、本人としても気になるところではある。


アマテラス:「私の名前は、どのような技に使われるのでしょうか?」

オモイカネ:「光属性の大技が多いようです」

アマテラス:「光ですか」

オモイカネ:「ほかには、太陽、浄化、高熱、炎上、大爆発」

アマテラス:「後半が物騒ですね」

ツクヨミ:「姉上の場合、天岩戸へ隠れて世界から光を消す技も考えられる」

アマテラス:「それは必殺技ではありません」

スサノオ:「世界中を暗闇にするんだぞ。かなり強い」

アマテラス:「私を大魔王みたいにしないで」

オモイカネ:「敵味方だけでなく、一般人にも甚大な被害が及びます」

ミチザネ:「使用禁止技に指定しますか?」

アマテラス:「そもそも技として扱わないでください」


さらさら。

道真は、議事録の端に書き加えた。


『天岩戸――全世界規模の無差別攻撃となるため、使用禁止。』


アマテラス:「道真?」

ミチザネ:「記録です」

アマテラス:「あとで消してください」



◇人間界における使用例


思兼神は、人間界から集めた資料を配布した。

そこには、神々の名前を冠した技や能力が、数多く記載されていた。


剣。槍。魔法。召喚術。特殊能力。戦艦。戦闘機。人工衛星。

そして、巨大機動兵器。


アマテラス:「私、剣にもなっているのですね」

オモイカネ:「銃、鎧、魔法、人工衛星、宇宙兵器にもなっています」

アマテラス:「私の担当範囲が広すぎませんか?」

ツクヨミ:「私は?」

オモイカネ:「月、夜、幻術、精神攻撃、時間停止などです」

ツクヨミ:「時間停止?」

オモイカネ:「本来お持ちでない能力も、相当量追加されています」

ツクヨミ:「…………」

スサノオ:「どうした?」

ツクヨミ:「時間停止は、悪くない」

スサノオ:「気に入ってるじゃねえか!」

ツクヨミ:「人間文化への協力だ」

オモイカネ:「須佐之男様は、暴風、雷、斬撃、海、龍、破壊、暴走、特攻です」

スサノオ:「完璧じゃねえか!」

ツクヨミ:「知性を感じる能力が一つもないな」

スサノオ:「必殺技に知性はいらねえ! 叫んで斬れば成立する!」

ミチザネ:「今の発言は、正式な見解として記録してよいでしょうか?」

スサノオ:「…待て。少し考えさせろ」

ツクヨミ:「知性が必要になったようだな」



◇使われる神、使われない神


思兼神は、人間界から集めた資料を、神ごとに分類した。

天照大御神、百二十七件。

月読命、八十四件。

須佐之男命、百三件。

建御雷神、六十九件。

資料の束が、机の上へ次々と積み上げられていく。


スサノオ:「多いな!」

ツクヨミ:「私は姉上より少ないのか」

アマテラス:「数を競うものではないでしょう」

タケミカヅチ:「六十九件……。悪くはないが、須佐之男命との差が大きいな」

スサノオ:「やっぱり、大蛇退治の実績が効いてるんじゃねえか?」

ツクヨミ:「お前の場合は、暴れる技へ名前を付けやすいだけだと思うぞ」

スサノオ:「それも才能だ!」

アマテラス:「才能なのでしょうか?」


使われる側の神々は、それぞれの資料を手に取り始めた。


『神剣アマテラス』

『月影幻術ツクヨミ』

『暴風雷撃スサノオ』

『神槍タケミカヅチ』


派手だった。

光る。燃える。雷が落ちる。嵐が起こる。月が浮かぶ。敵が吹き飛ぶ。

いずれも必殺技として、非常に分かりやすかった。


スサノオ:「見ろ! 俺の名前、剣にも鎧にも戦艦にも使われてるぞ!」

タケミカヅチ:「私も雷属性の槍、刀、機動兵器に多く採用されている」

ツクヨミ:「月、夜、幻術。統一感があるな」

アマテラス:「私は少し、爆発させられすぎている気がします」


四柱が資料を確認する一方。

向かい側の机には、薄い資料が置かれていた。


思兼神、六件。

菅原道真、三件。

稲荷神、十一件。

大国主神、八件。


沈黙。


オモイカネ:「…………」

ミチザネ:「…………」

イナリ:「…………」

オオクニヌシ:「…………」


スサノオ:「そっちは、ずいぶん机が広いな」

オモイカネ:「資料が少ないだけです」

スサノオ:「そうか」

オモイカネ:「何か?」

スサノオ:「いや、別に」

オモイカネ:「そうですか」


思兼神は、静かに須佐之男を見つめた。

知恵と思慮を司る神の視線には、普段とは異なる圧があった。


【思兼神の場合】


オモイカネ:「私の使用例を確認しましょう」


思兼神は、六件しかない資料を手に取った。


『戦術支援機能・オモイカネ』

『高度演算装置・オモイカネ』

『作戦立案型人工知能・OMOIKANE』

『知力上昇技能・思兼』


オモイカネ:「…………」

スサノオ:「必殺技じゃねえな」

ツクヨミ:「ほぼ補助機能だ」

タケミカヅチ:「武器ですらない」

オモイカネ:「正確に状況を分析し、戦闘を有利に導く重要な機能です」

スサノオ:「でも、最後に敵を倒すのは俺たちの技だろ?」

オモイカネ:「…………」

ミチザネ:「須佐之男様」

スサノオ:「なんだ?」

ミチザネ:「それ以上は、やめておいた方がよろしいかと」

スサノオ:「なぜ?」

ミチザネ:「次回から、あなたの発言が一切採用されなくなる可能性があります」

スサノオ:「すでに、あんまり採用されてねえぞ」

オモイカネ:「さらに減らすことは可能です」

スサノオ:「すまなかった」



【菅原道真の場合】


ミチザネ:「次は、私ですね」


道真は、自分の資料を確認した。


『学問成就』

『合格祈願』

『雷除け』


ミチザネ:「…………」

アマテラス:「必殺技ではありませんね」

ミチザネ:「完全に御利益です」

タケミカヅチ:「雷神としての側面は?」

ミチザネ:「多少は期待していました」

スサノオ:「『怨霊雷撃ミチザネ』とかありそうだけどな」

ミチザネ:「ありませんでした」

ツクヨミ:「人間は、受験期になると道真を思い出すが、戦闘になると忘れるらしい」

ミチザネ:「学問の神として信仰されることは、大変ありがたいことです」


道真は、静かに筆を置いた。


ミチザネ:「しかし、雷神としての私が、建御雷神様より弱いと決まったわけではありません」

タケミカヅチ:「ほう」

ミチザネ:「私の雷は、都を震え上がらせました」

タケミカヅチ:「ならば、一度どちらが――」

オモイカネ:「雷神同士の実力確認は行いません」

スサノオ:「道真、意外と気にしてたんだな」

ミチザネ:「祟りますよ」

スサノオ:「すみません」



【稲荷神の場合】


イナリ:「次は、わたしですね!」


稲荷神が、自分の資料へ手を伸ばした。

白い小袖に緋袴を合わせた、狐耳を思わせる髪飾りの少女。

穀物と豊穣を司り、後世には商売繁盛の神として広く信仰されている。

資料の件数は、十一件。


イナリ:「天照様たちより少ないですけど、十一件もあります。きっと格好いい技が――」


『豊穣のお守り』

『商売繁盛の護符』

『獲得金額上昇』

『食料入手率増加』

『おいなりさん』


イナリ:「最後のは食べ物じゃないですか!」

スサノオ:「うまそうだな」

イナリ:「わたしの必殺技を探しているんです! 夕飯を選んでいるんじゃありません!」

アマテラス:「稲荷神は、全国的にも有名ではありませんか?」

イナリ:「知名度はあります。お社も、たくさんあります!」

オモイカネ:「全国各地で広く信仰されていますね」

イナリ:「でも、創作になると、みんな狐ばっかり見るんです!」


稲荷神は、机に両手をついて身を乗り出した。


イナリ:「狐耳!」

イナリ:「尻尾!」

イナリ:「狐火!」

イナリ:「九尾!」

イナリ:「お面!」

イナリ:「油揚げ!」

イナリ:「そればっかりです!」

ツクヨミ:「確かに、稲荷神本人より、狐の使いの方が目立っているな」

イナリ:「そうなんです! 狐は、わたしの神使なんですよ!」

スサノオ:「人気者でいいじゃねえか」

イナリ:「わたしより人気になってどうするんですか!」

オオクニヌシ:「神より神使が広く知られるというのも、珍しい話ではあるな」

イナリ:「人間界では、わたしの姿まで狐だと思われていることがあります!」

オモイカネ:「狐そのものを稲荷神と呼ぶ例もありますね」

イナリ:「わたし、狐じゃありません!」

スサノオ:「狐耳は付けてるけどな」

イナリ:「これは意匠です!」

スサノオ:「尻尾は?」

イナリ:「ありません!」

スサノオ:「隠してるだけじゃ――」

イナリ:「ありませんっ!」


オモイカネ:「須佐之男様。稲荷神の背後を確認しようとしないでください」

ミチザネ:「須佐之男命――神使と神本人の区別が曖昧、と」

スサノオ:「人間だって曖昧だろ!」

イナリ:「だから、困っているんです!」


カン、カン。

―拍子木が打たれた―


イナリ:「わたしにも、攻撃技くらいありますよね?」

オモイカネ:「豊穣、食物、産業、商売繁盛などは、戦闘技への変換が難しい性質です」

イナリ:「では、狐火です!」

ツクヨミ:「狐の技だな」

イナリ:「…………」

スサノオ:「九尾の炎」

イナリ:「狐です」

タケミカヅチ:「妖狐変化」

イナリ:「また狐です!」

アマテラス:「千本鳥居を使うのはいかがでしょう?」

イナリ:「それです!」


稲荷神の顔が明るくなった。


イナリ:「無数の鳥居が現れて、敵を結界へ閉じ込めるんです!」

ツクヨミ:「その後、狐火で攻撃する」

イナリ:「結局、狐が出てくるじゃないですか!」

スサノオ:「もう狐と一緒に戦えばいいだろ」

イナリ:「そうすると、きっとわたしより狐の方が人気になっちゃいます!」

オモイカネ:「根の深い問題ですね」

ミチザネ:「稲荷神――神使との人気格差に強い懸念、と」

イナリ:「そこは、絶対に書いておいてください!」



【大国主神の場合】


オオクニヌシ:「では、次は私の番であるな」


大国主神が、悠然と自分の資料を手に取った。

国造りを成し遂げ、多くの試練を乗り越えた国津神の主神。

幾重もの勾玉を胸元に下げ、落ち着いた眼差しで資料を見渡す姿には、自然と場を静める威厳があった。


『縁結び』

『国造り』

『因幡の白兎』

『医薬の加護』

『大国主の知恵袋』


オオクニヌシ:「なるほど。必殺技というよりは、我が事績と御利益が並んでいるようだ」

アマテラス:「大国主神は、この国を造り上げた重要な神です」

オオクニヌシ:「うむ。名が戦いの技に使われておらずとも、それによって我が神格が損なわれるものではない」

スサノオ:「気にしてねえのか?」

オオクニヌシ:「名が使われた数を競い、己の価値を決めるほど小さくはない」

スサノオ:「おお……」

ツクヨミ:「堂々としているな」

ミチザネ:「須佐之男様とは、器の大きさが違いますね」

スサノオ:「なんで俺と比べた?」


大国主神は、もう一度資料へ目を落とした。


オオクニヌシ:「とはいえ、人間が我が名を技へ用いたいというのであれば、拒む理由もない」

タケミカヅチ:「国造りの力を使えば、大地を隆起させ、戦場そのものを作り替えられるのではないか?」

オオクニヌシ:「国を造る力を、地形破壊へ使うか」

タケミカヅチ:「強力だぞ」

オオクニヌシ:「造るための力を、壊すことにばかり用いるのは感心せんな」

スサノオ:「じゃあ、破壊された大地を一瞬で直す技はどうだ?」

オオクニヌシ:「それならば悪くない。戦いの後に、田畑も道も人の暮らしも戻せるのであれば、意味がある」

オモイカネ:「復興能力ですね」

オオクニヌシ:「戦に勝つだけが力ではない。その後に国を立て直せなければ、真に勝ったとはいえぬ」

一同:「…………」

ミチザネ:「大国主神――復興まで見据えた、非常に立派な見解、と」

スサノオ:「俺のときと議事録の扱いが違いすぎないか?」

ミチザネ:「発言内容が違いますので」


カン。

―拍子木が打たれた―


イナリ:「縁結びは、必殺技にならないんですか?」

オオクニヌシ:「ほう。どのように使う?」

イナリ:「敵同士を強制的に結んで、動けなくする、とか?」

オオクニヌシ:「縁結びの意味が違う」

ツクヨミ:「敵の武器と地面を結びつければ、使用不能にできる」

オオクニヌシ:「いささか物理的すぎるな」

タケミカヅチ:「敵と崖を結ぶ」

オオクニヌシ:「それはバンジージャンプさせているだけであろう」

アマテラス:「争っている者同士の縁を結び直し、戦いを終わらせるのはいかがでしょう?」

オオクニヌシ:「うむ。それこそ、我が名にふさわしい」

ツクヨミ:「技名は『縁結大結界・大国主』」

オオクニヌシ:「悪くない名だ」

スサノオ:「あらゆる因果を結び、敵も味方も戦えなくする!」

オオクニヌシ:「何でも行動不能にすればよいというものではない」

オモイカネ:「では、対立する者の心と縁を結び直し、争いを鎮める技として整理しましょう」

オオクニヌシ:「それでよい。敵を打ち倒すだけが、必殺ではないからな」

イナリ:「格好いいです!」

スサノオ:「でも、必殺技なのに誰も倒れねえぞ?」

オオクニヌシ:「戦いそのものを終わらせれば、剣を振るう必要はない」

スサノオ:「…………」

ミチザネ:「須佐之男様には、少し難しかったようですね」

スサノオ:「分かってる! ただ、俺の必殺技とは方向性が違いすぎるんだよ!」




◇派手さの壁


思兼神は、使用例を二つの側へ分けた。

主に必殺技や武器へ使用される側。


天照。

月読。

須佐之男。

建御雷。


あまり使用されない側。


思兼神。

菅原道真。

稲荷神。

大国主神。


見事に分かれた。


オモイカネ:「違いは何でしょう?」

スサノオ:「派手さ」

ツクヨミ:「光、月、雷、嵐、斬撃。視覚的に分かりやすい」

タケミカヅチ:「武器や攻撃へ転用しやすい神格かどうか、ということだな」

アマテラス:「知恵、学問、豊穣、商売、縁結び、国造りは、必殺技にしにくいのですね」

ミチザネ:「人間の生活には必要ですが、戦闘画面では地味なのでしょう」

イナリ:「わたしだって、派手に戦えます!」

ツクヨミ:「狐を出すのか?」

イナリ:「わたしが戦うんです!」

スサノオ:「でも、狐が隣にいた方が映えるぞ」

イナリ:「また狐の方が目立つじゃないですか!」

オオクニヌシ:「まあ、そう焦ることはない。戦いの外でこそ必要とされる力もある」

イナリ:「大国主様は、悔しくないんですか?」

オオクニヌシ:「我が成した国造りは、一度の戦いよりも長く後世へ残る。必殺技の数で張り合う必要はあるまい」

オモイカネ:「知恵、補給、食料、経済、復興、記録。戦いを始める前と、終えた後には、我々の力が必要です」

ミチザネ:「戦闘を成立させるための基盤、と整理できますね」

イナリ:「……それは分かりますけど」


稲荷神は、自分の薄い資料を見つめた。


イナリ:「やっぱり、一個くらい格好いい必殺技が欲しいです」

オオクニヌシ:「ははは。まだ若いな」

イナリ:「大国主様が落ち着きすぎなんです!」

スサノオ:「よし。『千本鳥居・稲荷狐神炎舞』」

イナリ:「狐を外してください!」

スサノオ:「そこが一番格好いいのに!」

イナリ:「だから、それ、私じゃなくて狐なんですー!」



◇使われない側による必殺技会議


スサノオ:「だったら、自分たちで考えればいいだろ」

オモイカネ:「自分たちで?」

スサノオ:「思兼は、相手の行動を全部読んで封じる技」

ツクヨミ:「『神算鬼謀・オモイカネ』」

オモイカネ:「悪くありませんね」

スサノオ:「乗ったな!」

タケミカヅチ:「道真は、雷と学問を組み合わせればよい」

ツクヨミ:「相手へ回答不能の難問を与え、不正解なら雷が落ちる」

ミチザネ:「『天神雷問』といったところでしょうか」

スサノオ:「強え! 俺、それ嫌だ!」

ミチザネ:「須佐之男様には、特効が入りそうですね」

スサノオ:「なんでだよ!」

アマテラス:「稲荷神は、狐火でしょうか?」

イナリ:「狐に任せきりなのも複雑ですが、技としては映えそうですね」

ツクヨミ:「『豊穣狐火・千本稲荷』」

イナリ:「少し格好いい…」

オオクニヌシ:「私は?」

スサノオ:「『国造り』」

オオクニヌシ:「そのままだな」

タケミカヅチ:「大地を隆起させ、巨大な国土を生み出す」

オオクニヌシ:「だから、国造りを地形攻撃にするな」

ミチザネ:「では、『縁結大結界・大国主』」

オオクニヌシ:「何を結ぶ技だ?」

ツクヨミ:「敵、味方、因果、国土。あらゆるものを結び、戦いそのものを終わらせる」

オオクニヌシ:「……それは、かなり格好いいな」

スサノオ:「全員、結局乗り気じゃねえか!」

オモイカネ:「人間文化への協力です」

ツクヨミ:「その言葉を使い始めたな」

オモイカネ:「便利でしたので」



◇新たな対立


しばらくして、思兼神が新たな分類表を完成させた。


攻撃型。

天照、月読、須佐之男、建御雷。


支援型。

思兼神、菅原道真、稲荷神、大国主神。


オモイカネ:「このように整理すれば、優劣ではなく役割の違いと考えられます」

アマテラス:「よいまとめだと思います」

ミチザネ:「では、そのように記録します」

スサノオ:「待て」

オモイカネ:「何でしょう?」

スサノオ:「姉貴と月読が、支援型に回ることもあるだろ」

ツクヨミ:「月光による回復や、幻術による支援か」

タケミカヅチ:「私も雷による身体強化が可能だ」

スサノオ:「俺だって――」

一同:「…………」

スサノオ:「なんだよ」

オオクニヌシ:「スサノオ殿は攻撃型でよいだろう」

イナリ:「無理に支援しなくても結構ですよ」

ミチザネ:「味方を巻き込まないことが、最大の支援になるかと」

スサノオ:「扱いがひどくねえか!?」


カン、カン。

―拍子木が打たれた―


オモイカネ:「結論を補足します。神名の使用数や、必殺技としての派手さは、神格の優劣を示すものではありません。攻撃、支援、回復、補給、知恵、記録など、それぞれの性質に応じた使用を推奨します」

ミチザネ:「なお、使用例の少ない神々についても、本人たちが若干気にしているため、積極的な採用を歓迎する、と」

オモイカネ:「道真殿」

ミチザネ:「はい」

オモイカネ:「『若干』ではありません」

ミチザネ:「では、『相当に』へ修正します」

オモイカネ:「その一文自体を削除してください」

スサノオ:「やっぱり、気にしてるじゃねえか」

オモイカネ:「次回から、須佐之男様の発言時間を半分にします!」

スサノオ:「職権乱用じゃないのか!」


カン。

―拍子木が打たれた―


アマテラス:「必殺技として使いやすいかどうかと、神様としての大切さは別の問題でしょうね」

オオクニヌシ:「うむ。派手な一撃だけで、国も人の暮らしも成り立つものではない」

イナリ:「それは分かりますけど……やっぱり、一つくらい格好いい技は欲しいです」

ミチザネ:「稲荷神――引き続き、必殺技を希望、と」

イナリ:「そこは、ちゃんと書いておいてください!」

スサノオ:「俺が考えてやるぞ。『千本鳥居・稲荷狐神――』」

イナリ:「狐を外してください!」

スサノオ:「そこが一番格好いいのに!」

イナリ:「だから、わたしより狐が目立つんですー!」


会議室に、稲荷神の声が響き渡った。

ひとまず、神名が必殺技に使われる頻度については、神格の優劣ではなく、能力の派手さと使いやすさによるものと整理された。

しかし。


ミチザネ:「思兼様。まだ資料が残っています」

オモイカネ:「どれほどですか?」

ミチザネ:「人間が、神名へ独自の能力を追加した事例です」


ドサッ。

道真が、新たな資料の束を机へ置いた。

先ほどまでの資料よりも、明らかに多かった。


アマテラス:「……私たちの知らない能力が、それほどあるのですか?」

ミチザネ:「天照様には、大陸を消滅させる光線が追加されています」

アマテラス:「何ですか、それは?」

ミチザネ:「月読様には、永遠の幻覚世界」

ツクヨミ:「ほう」

ミチザネ:「須佐之男様には、暴走究極破壊神という肩書きが」

スサノオ:「採用!」

オモイカネ:「この後に、詳しく確認していきます」

スサノオ:「もう採用でいいだろ!」

オモイカネ:「確認します」


カン、カン。

―拍子木が打たれた―


神々の名前は、人間界でどのように使われているのか。

そして、その名前が示しているのは――

神の力なのか。

神本人なのか。

それとも、倒すべき相手なのか。

審議は、さらに複雑な問題へ入ろうとしていた。


                            ―後編へ続く―

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