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神話系ミーティング ~その問題、神々が議論します~  作者: すばる ゆう
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第XX回『神々の装備依存について』 ―オリュンポス本部― 後編


◇最終競技・神話圏対抗リレー


競技も終盤に差しかかったころ。

人間達から一つの提案が上がった。


人間代表:「最後に、複数の神様が力を合わせる競技を見せていただけませんか?」

テミス:「複数で?」

人間代表:「一柱ずつ走り、仲間へ印を渡していくのです」

アテナ:「個人の速さだけでなく、走る順番や受け渡しも勝敗を左右しますね」

アレス:「つまり集団戦か!」

テミス:「その理解で構いません」


そのとき、トールが立ち上がった。


トール:「ならば、オリュンポスと北欧で競うのは如何だ!」

ゼウス:「ほう?」

オーディーン:「悪くない」


ゼウスとオーディーンの視線が交わる。

周囲の空気が、急に重くなった。


アテナ:「ただの訓練だったはずが」

ロキ:「最高神同士に火がついたね」


ピピ。

―ホイッスルが鳴った―


テミス:「競技です。戦争へ発展させないように注意してください」



◇代表選考


アテナ:「オリュンポス側の走順を発表します」

アレス:「第一走者は俺だな!」

アテナ:「第一走者、アルテミス」

アレス:「待て!」

アテナ:「第二走者、ヘラクレス」

アレス:「待て!」

アテナ:「第三走者、ゼウス。最終走者、ヘルメスです」

アレス:「俺は!?」

アテナ:「補欠です」

アレス:「なぜ戦神である私が補欠なのだ!」

アテナ:「先ほどの短距離走で、序盤から飛ばしすぎて後半に失速したでしょう」

アレス:「全力で戦うことの何が悪い!」

アテナ:「リレーは、あなた一人の戦いではありません」

ヘラクレス:「受け渡しの練習では、棒を私へ投げつけてきたな」

アレス:「速く渡そうとしただけだ!」

アテナ:「よって、補欠兼応援団長を命じます」

アレス:「応援団長……」

ヘルメス:「旗を振ってよいそうですよ」

アレス:「任せろ! オリュンポスの威光を示してやる!」

アルテミス:「立ち直りが早いわね」


一方、北欧代表の前には、一本の剣を腰へ下げた男神が立っていた。

整えた金褐色の髪と、鋭く実直な眼差しを持つ隻腕の神、かつて神々を守るため、フェンリルの口へ自らの片腕を差し出した、法と戦いの神テュールである。


テュール:「北欧側の走順を発表する」

ロキ:「監督はオーディーンではないの?」

テュール:「オーディーンは走者だ。自分で自分を監督させれば、判断に公平性を欠く」

オーディーン:「異論はない」

テュール:「第一走者、スカディ。第二走者、トール。第三走者、オーディーン。最終走者、ロキ」

ロキ:「僕を最後に置いて大丈夫?」

テュール:「だから、私が監督している」

ロキ:「信用されているのか、されていないのか分からないな」

テュール:「走力は信用している。行動は監視する」

トール:「分かりやすいではないか」



◇第一走者――アルテミス対スカディ


開始線に、二柱の女神が並ぶ。

弓を置いた、オリュンポスの狩猟神アルテミス。

雪のような銀白色の長髪、肩には狼の毛皮を羽織った長身の女性、北欧の山の女神スカディ。

どちらも神器を持たない。

それでも、その立ち姿には、長年獲物を追ってきた者だけが持つ鋭さがあった。


アルテミス:「雪のない場所でも走れるの?」

スカディ:「そんな小さな体で獲物を狩れるのか?」

アルテミス:「言うじゃない」

スカディ:「そちらこそ」


二柱は互いに笑い、前へ向き直った。


アテナ:「アルテミス。序盤はスカディの出方を見て。受け渡し地点の手前で速度を上げなさい」

テュール:「スカディ。相手は平地での加速に優れる。最初から競り合わず、一定の歩幅を守れ」

スカディ:「了解した」

アレス:「アルテミス! 最初から全力で行け!」

アテナ:「私の指示を上書きするな」

アレス:「応援団長としての助言だ!」

テミス:「両者、位置について――」


テミス:「ドンっ」


ディケーが勢いよく旗を振り上げた。


二柱が駆け出した。

最初に前へ出たのはアルテミスだった。

森の中で獲物へ迫るような、静かで鋭い加速。

しかし、スカディは慌てない。

雪山で長く獲物を追うように、一定の歩幅と呼吸を崩さず走る。


中盤。

アルテミスの速度が、わずかに落ちる。

反対に、スカディは同じ速度を維持したまま距離を縮めてきた。


アルテミス:「……さすがに、しつこいわね」

スカディ:「狩人が、獲物を簡単に逃がすと思うか?」

アルテミス:「誰が獲物よ!」


アルテミスが再び加速する。

スカディも応じる。

森の狩猟神と、雪山の狩猟神。

異なる土地で、異なる獲物を追ってきた二柱が、今は互いの背中だけを追っている。


アテナ:「今です、アルテミス!」

テュール:「歩幅を一段上げろ、スカディ!」


二柱が同時に、最後の力を解放した。


アルテミス:「ヘラクレス!」

スカディ:「トール!」


次の走者が手を伸ばす。

受け渡しは、ほぼ同時だった。

アルテミスとスカディは、速度を落としながら互いを見る。


アルテミス:「決着はいつか」

スカディ:「ならば、次は雪山で競うか?」

アルテミス:「いいわ。その次は森で勝負よ」


二柱は、互いの拳を合わせた。

その後方では、ヘラクレスとトールが地響きを立てながら走り始めていた。



◇第二走者――ヘラクレス対トール


ドン!

最初の一歩で、地面が沈んだ。

ドン! ドン! ドン!

二柱が加速するたびに、競技場の石畳へ亀裂が走っていく。


ヘパイストス:「待て! 走っているだけで、なぜ競技場が壊れる!」

アテナ:「ヘラクレス! 力任せに地面を蹴らず、前へ力を伝えて!」

テュール:「トール! 歩幅を小さくしろ! 地面へ力を逃がすな!」


二柱は指示を受け、姿勢を修正した。

次の一歩。

ズドン!

先ほどより大きく、地面が陥没した。


アテナ:「……修正できていませんね」

テュール:「むしろ、前方へ飛ばす力が増した」

ヘパイストス:「分析している場合か!」


競技場の補修を担当する鍛冶神の悲鳴を置き去りにして、二柱は走る。

ふと、ヘラクレスの肩がトールに当たった。

少しよろけるトール。


トール:「フンッ!」


今度はトールの肩がヘラクレスにぶつけられた。

次第に激しくぶつかり合う二柱。


やがて、ヘラクレスのバトンとトールのバトンが激しく打ち合いながら両者は並行して走る。


トール:「どうした、十二の試練を越えた英雄! その程度か!」

ヘラクレス:「そちらこそ、巨人を倒してきた雷神だろう! ミョルニルがなければ随分と身軽ではないか!」

トール:「言うではないか!」

ヘラクレス:「褒めている!」


激しく打ち合いながら走る二人。


ピィィィ!

―ホイッスルが鳴り響く―


テミス:「協議の趣旨を間違えています!」


――一時中断——


トール、ヘラクレス、幻獣注意


――競技再開——


再開して走り始めた二柱。

互いに大声で笑う。

走るというより、大地を後方へ蹴り飛ばしながら進んでいた。

その姿は、美しい競走とは到底呼べない。

しかし、神話を代表する怪力同士が一歩も譲らず競り合う姿に、人間達は熱狂した。

残り、わずか。

ヘラクレスとトールは、ほとんど同時に第三走者へ迫る。

ゼウスとオーディーンが腕を後方へ伸ばした。


ヘラクレス:「ゼウス!」

トール:「オーディーン!」


棒が次の走者へ渡される。

その瞬間。

二柱の最後の踏み込みによって、受け渡し地点の地面が大きく崩れた。


ゼウス:「ぬおっ!?」

オーディーン:「何っ!?」


第三走者の二柱は足場を失い、揃って前のめりになる。

だが、転ばない。

二柱は棒を握ったまま体勢を立て直し、そのまま走り出した。

背後では、競技場の一部が静かに崩れ落ちた。


ヘパイストス:「…………」

アレス:「大丈夫か?」

ヘパイストス:「後で請求書を作る」



◇第三走者――ゼウス対オーディーン


オリュンポスの最高神ゼウス。

北欧の最高神オーディーン。

普段ならば、片や雷霆を掲げ、片や必中の槍を構えて争う者達である。

しかし今、その手にあるのは、同じ規格の一本の棒だけだった。

共に老いた見た目だが、神である。

その走りは、力強く地面を蹴って進む。


オーディーン:「随分と荒い受け渡しだったな」

ゼウス:「そちらの雷神も同じだろう!」

オーディーン:「我が方が、わずかに早かった」

ゼウス:「足場が崩れたからだ!」

オーディーン:「条件は同じだ」

ゼウス:「ならば、この先で抜く!」

オーディーン:「追いついてから言え!」


北欧代表が、わずかに先行している。


アテナ:「父上! 最初から飛ばしすぎないでください!」

ゼウス:「向こうが先にいるのだぞ!」

アテナ:「第三走者だけで勝敗は決まりません!」

ゼウス:「最高神が、目の前の相手を放置できるか!」

アテナ:「だから、父上を走順へ入れたくなかったのです!」

テュール:「オーディーン! 後ろを見るな! 一定の速度を維持しろ!」

オーディーン:「ゼウスが追ってきている!」

テュール:「だからこそ、相手へ意識を向けるな!」

オーディーン:「最高神が、背後を取られたままでいられるか!」

テュール:「こちらも同じか!」


二人の監督は、ほぼ同時に額を押さえた。


アテナ:「最高神は、なぜ指示を聞かないのだ」

テュール:「自分が最終決定者だと思っているからだろう」

アテナ:「否定できない」


前方では、ゼウスが差を縮めていた。


ゼウス:「オーディーン! 随分と余裕がなくなったな!」

オーディーン:「一つ目の目で何を見た!」

ゼウス:「横を見ろ!」


オーディーンが隣を見る。

ゼウスが、すぐ横まで並んでいた。


オーディーン:「……追いついたか」

ゼウス:「オリンピアは、我らの地だ!」

オーディーン:「勝負の場で、土地の名にすがるな!」

ゼウス:「ならば、己の足で勝つ!」

オーディーン:「望むところだ!」


二柱が同時に加速する。

神器はない。

雷も、魔術も、神獣も使えない。

知恵も予言も、この瞬間の勝敗までは教えてくれない。

必要なのは、自らの足で相手より先へ進むことだけだった。

残り、わずか。

オーディーンが半歩前へ出る。

ゼウスが追いつく。

ゼウスが先行する。

オーディーンが再び並ぶ。


ヘラ:「珍しく、真面目に頑張っていますね」

テミス:「ええ。武器を持たせないほうが、平和に決着がつくようです」

ゼウスとオーディーン:「まだ決着はついていない!」


走りながら、二柱の声が重なった。

ヘルメスとロキが、腕を後方へ伸ばして待っている。


ゼウス:「行け、ヘルメス!」

オーディーン:「任せたぞ、ロキ!」


バトンが、ほぼ同時に渡された。

正確には、オーディーンからロキへの受け渡しが、ほんのわずかに早かった。

北欧代表が、指一本分だけ先行する。



◇最終走者――ヘルメス対ロキ


オリュンポスの伝令神ヘルメス。

北欧の悪戯神ロキ。

どちらも知恵が回り、口が達者で、神々の間を渡り歩くトリックスターである。

普段なら、正面から力を競うより、相手を罠へかける側の神々だった。

神器の能力においても若干のキャラ被りをしている二柱。

互いに、負けられない理由がそこにはあった。


ロキ:「お先に失礼するよ」

ヘルメス:「それはちょっと気が早いよ」


ヒョイとヘルメスがロキの前に割り込む。


ヘルメス:「さぁ、どうしますか?」

ロキ:「手札は多い方だから心配するな」


再びロキがヘルメスの前に躍り出る。

接戦を繰り広げ始める二柱。


テュール:「ロキ! 変身、幻術、妨害は禁止だぞ!」

アテナ:「ヘルメス!反則負けに気を付けろ」


監督席からも指示?が届く。


ロキ:「…お前、信用ないんだな」

ヘルメス:「…そっちこそ」


ロキは先行したまま、ヘルメスが抜こうとする進路へ身体を寄せる。

直接押してはいない。

足をかけてもいない。

ただ、相手が走りたい場所を先に走っている。


テミス:「あれは妨害では?」

アテナ:「規則上は進路の選択です」

テュール:「限りなく黒に近いが、違反とは言い切れない」


ヘルメスは無理に追い越そうとせず、ロキの背後についた。


ロキ:「諦めたのかい?」

ヘルメス:「まさか」


ヘルメスは、ロキの足運びを観察していた。

やがて左へ抜くように身体を傾ける。

ロキも即座に左へ寄った。

その瞬間、ヘルメスは右へ進路を変えた。


ロキ:「なっ――!」

ヘルメス:「相手を騙すのが得意なのは、あなただけではありませんよ!」


ヘルメスが、ロキの横へ並ぶ。

ロキは一瞬驚き、すぐに笑った。


ロキ:「そうこなくては!」


二柱が加速する。

今度は駆け引きではない。

純粋な速さの勝負だった。

残り半分。

二柱の呼吸が乱れる。

神器を使えば、一瞬で駆け抜けられる距離。

ヘルメスのバトンには、アルテミス、ヘラクレス、ゼウスの走りが託されている。

ロキのバトンには、スカディ、トール、オーディーンの走りが託されている。

自分だけの勝負ではなかった。


ヘルメス:「まさか、あなたが真面目に走るとは!」

ロキ:「悪戯にはメリハリが大事なんだよ!」

ヘルメス:「悪戯の神って、本当に神ですか!」

ロキ:「君だって、嘘と盗みの神だろう!」

ヘルメス:「今は伝令神として走っています!」

ロキ:「ならば僕も――」


ロキの表情から、いつもの軽薄な笑みが消える。


ロキ:「北欧代表として、最後まで届けてやる!」


北欧側から声が飛ぶ。


スカディ:「走れ、ロキ!」

トール:「負けるな!」

オーディーン:「そのまま行け!」

テュール:「周囲を見るな! 終点だけを見ろ!」


オリュンポス側も声を上げる。


アルテミス:「ヘルメス!」

ヘラクレス:「あと少しだ!」

ゼウス:「勝て、ヘルメス!」

アレス:「オリュンポスの意地を見せろ!」

アテナ:「歩幅を崩さないで! 最後まで自分の走りを続けなさい!」


残り十歩。

ロキが、わずかに前へ出る。

残り五歩。

ヘルメスが並ぶ。

残り一歩。


ヘルメス:「届けええええ!」

ロキ:「行けええええ!」


二柱が同時に終点へ飛び込んだ。

勢いを止められず、地面を転がる。

それでもバトンだけは、最後まで離さなかった。

静寂。

誰もが、ムネモシュネを見る。


ムネモシュネ:「勝者――」

倒れたヘルメスとロキが、顔を上げる。


ムネモシュネ:「オリュンポス代表。差は、指一本分です」


一瞬の沈黙。

次の瞬間、競技場が割れんばかりの歓声に包まれた。

すでに第二走者によって、実際にかなり割れていた。


アレス:「勝ったぞ!」

ゼウス:「よくやった、ヘルメス!」

ヘラクレス:「見事だった!」

アルテミス:「最後までバトンを離さなかったわね」

ヘルメス:「……勝ったので、特別手当をいただけますか?」

ゼウス:「ワシの感動を返せ!」


一方、ロキは仰向けに倒れたまま、空を見上げていた。

トールが、その前へ立つ。


ロキ:「負けたよ。笑えば?」

トール:「何を言っている」


トールはロキへ手を差し出した。


トール:「お前がいなければ、ここまで迫れなかった」

ロキ:「……気持ち悪いな。頭でも打ったか?」

トール:「その減らず口を叩けるなら大丈夫だな」


ロキは小さく笑い、トールの手を取った。


スカディ:「次は勝てばいい」

オーディーン:「よい走りだった、ロキ」

テュール:「反則負けではなかった」

ロキ:「最後の評価だけ、随分と低くない?」


やがてゼウスが、オーディーンへ手を差し出した。


ゼウス:「今回は、我々の勝ちだ」

オーディーン:「今回は、な」


二柱の最高神が、固く手を握る。

神話も、土地も、信仰も違う。

普段ならば、どちらが上かを決めるため、神器を構えていたかもしれない。

しかし今は、同じ規則に従い、同じ地面を走り、勝敗を一つの結果として受け入れている。

そこに神器はなかった。

神罰も、戦争もなかった。

勝者と敗者が生まれても、最後には互いの力を認め、同じ場所で笑っていた。



◇人間達の提案


その光景を見つめていた一人の人間が、静かに口を開いた。


人間代表:「我々も、このように競ってみたいのですが」

テミス:「人間達も?」

人間代表:「はい。都市や国が違っても、武器ではなく、同じ規則のもとで」


別の人間も声を上げる。


人間代表:「一人の強さだけではなく、仲間へ託す力も競いたい」

人間代表:「勝者だけでなく、最後まで力を尽くした者を称える祭典にしたいのです」

アテナ:「争いをなくすことは難しい。しかし、争い方を変えることはできるかもしれん」

テュール:「武器を置き、同じ規則を受け入れる。それができるなら、競技には戦争とは異なる価値がある」

アレス:「戦争の代わりとしては物足りん」

アルテミス:「先ほど、誰よりも大声で応援していたでしょう」

アレス:「あれは集団戦の指揮だ!」

ヘルメス:「旗を持たせたら、もっと騒ぎそうですね」

テミス:「では、決を採ります、異議のある方は?」


異議なし。


ピィ。

―ホイッスルの音が響いた—


テミス:「それでは、人間達による競技祭の開催を承認します」


大歓声が上がった。

神器を持たない一日として始まった訓練は、人間達の夢へ変わった。



◇第一回オリンピア競技祭


後日。

オリンピアの地に、各都市から選手達が集まった。


選手代表:「我々は、定められた規則に従い、正々堂々と競うことを神々へ誓います」

テミス:「大変よい宣誓です」

ヘルメス:「違反したら?」

テミス:「失格です」

アレス:「神罰ではないのか?」

テミス:「競技上の違反へ神罰を与えていたら、参加者がいなくなります」


聖火台には、プロメテウスから受け継がれた火が灯された。


ゼウス:「私の雷で点火したほうが華やかではないか?」

テミス:「聖火台が爆発します」


短距離走、円盤投げ、やり投げ、レスリング、戦車競走。

人間達は、神器も神の加護も使わず、自らの身体と技術で競った。

勝者へ授けられたのは、オリーブの冠だった。


ゼウス:「黄金や土地を与えたほうがよくないか?」

テミス:「高額な褒賞は、買収や不正の原因になります」

ゼウス:「では、家畜や美女を――」

ヘラ:「続きを聞きましょうか」

ゼウス:「名誉こそ最大の褒賞だ」

ヘルメス:「方針転換が速い」


こうして、人間達の競技祭が始まった。



長期経過観察

◇四年に一度、世界をつなぐ大会へ


時は流れた。

オリンピアで始まった競技祭は、やがて神々の手を離れた。

都市国家の祭典から、国と地域を越えて人々が集う世界大会へ。

四年に一度。

世界中のアスリートが人生を懸け、同じ舞台を目指す。

オリュンポス本部の大型画面には、現代のオリンピックが映し出されていた。

テミス:「本日は、オリンピア競技祭の長期経過観察を行います」

ヘルメス:「つまり、皆で観戦するのですね」

テミス:「そうとも言います」



◇聖火


一人から一人へ。

手から手へ。

世界を巡った火が、最後の走者へ託される。

聖火台へ炎が灯ると、競技場全体から歓声が上がった。

プロメテウス:「私が人間へ渡した火は、暖を取り、料理を作り、金属を鍛え、時には街を焼いた」

ヘルメス:「ええ」

プロメテウス:「それでも人間は、火を希望の象徴として受け継いだのだな」

ゼウス:「私の雷で点火すれば――」


コツ。

―木槌が小さく打ち鳴らされた―


テミス:「数千年経っても諦めていなかったのですか?」



◇現代のアスリート


世界最速を目指す選手達が、号砲とともに飛び出す。


ヘルメス:「速い!」

アレス:「お前、神器なしなら負けるのではないか?」

ヘルメス:「よい勝負をする、という程度です」

アテナ:「以前は、翼のサンダルなしでも圧勝すると言っていましたが」

ヘルメス:「人類の進歩を正しく評価しているのです」


やり投げでは、オーディーンが画面を見つめていた。


オーディーン:「必中ではない槍を、何年もの鍛錬によって、あれほど正確に飛ばしている」

ロキ:「グングニル、いらない?なら貰うけど」

オーディーン:「それはいる」


重量挙げでは、トールとヘラクレスが同時に立ち上がった。


トール:「よく耐えた!」

ロキ:「神々の基準なら軽いのでは?」

トール:「あの身体で、あの重量を持ち上げるために、どれほど鍛錬したと思っている! 単純な重量だけで評価するな!」

ロキ:「意外とまともなことを言うね」

トール:「次は、もっと重い物を持ち上げる競技を作ろう!」

ロキ:「やっぱり、いつものトールだったな」


競泳では、ポセイドンが画面へ身を乗り出す。


ポセイドン:「……速いな」

ヘルメス:「勝てますか?」

ポセイドン:「海なら勝てる」

アテナ:「競技用プールでは?」

ポセイドン:「三叉槍があれば」

テミス:「神器は禁止です」


アーチェリーでは、選手が風を読み、遠くの的の中央を射抜いた。


アルテミス:「よい射ね」

アポロン:「私なら、さらに中央を射抜ける」

アルテミス:「競技用の弓で?」

アポロン:「今日は肩の調子がよくない」

ヘルメス:「まだ弓にも触れていませんよ」



◇パラリンピック


義足で走る選手。

車いすで競う選手。

視覚以外の感覚を研ぎ澄ませ、競技へ挑む選手達。

それまで軽口を交わしていた神々が、静かになる。


ヘパイストス:「道具に頼っているんじゃねぇ」

テミス:「では、何だと?」

ヘパイストス:「道具を、自分の身体の一部になるまで使いこなしているんだ」


トールはミョルニルを見下ろす。

オーディーンも、グングニルへ目を向けた。


ヘパイストス:「神器も同じだ。道具そのものに価値があるんじゃない。作る者、整備する者、使いこなす者がいて、初めて力になる」

アテナ:「我々は、神器の力を当然のものとして扱いすぎていたのかもしれない」

ヘパイストス:「そういうことだ。だから、壊れるまで使ってから修理へ持ち込むのもやめろ」


神々は、一斉に視線をそらした。


◇勝者と敗者


金メダルを手にする者。

わずかな差で表彰台を逃す者。

失敗し、記録を残せない者。

怪我によって、途中で競技を終える者。


ゼウス:「世界で四番目でも、あれほど悔しいのか」

テミス:「世界で四番目になるためではなく、一番になるために来たのでしょう」

アポロン:「結果だけを見れば、ほとんどの者が敗者となる」

アテナ:「しかし、そこへ至るまでに積み重ねたものまで、敗北になるわけではありません」


画面の中で、勝者が敗れた選手を抱き締める。

勝者も泣き、敗者も泣いている。


アレス:「戦場では、敗者に次はないことも多い」

テミス:「競技だからこそ、敗北を受け止め、再び挑戦できるのです」


聖火が、ゆっくりと消えていく。


プロメテウス:「四年後、再び灯すために消すのだ」

テミス:「もう、この大会に神々の手助けは必要ありませんね」

ゼウス:「天候くらい調整してもよいのでは?」

テミス:「禁止です」

ポセイドン:「水泳会場の水流を――」

テミス:「禁止です」

ヘルメス:「追い風なら?」

テミス:「記録が公認されません」

アレス:「審判へ圧力を――」

全員:「それは絶対に駄目だ」


アレスは黙った。



◇冬季オリンピック観戦準備


テミス:「ところで、冬季大会の観戦記録がありませんね」


会議室が静まり返った。

ゼウス、ポセイドン、アポロン、アレス、ヘルメス。

全員が、いつもどおり肩や腕を露出した薄着で座っている。


ゼウス:「日程が合わなかったのだ」

アポロン:「太陽神として、冬季は専門外だ」

アレス:「寒さは戦士の筋肉によくない」

テミス:「要するに、寒くて観戦できなかったのですね」


誰も答えなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ―議事録—


議題

神々の装備依存について


開催場所 オリュンポス本部 実地検証のみ、地上・オリンピア競技場

司会・審判 テミス

書記・記録 ムネモシュネ

競技補助 ホーライ

開始合図および計測補助:ディケー

審議区分

通常審議・実地検証・長期経過観察


参加者

オリュンポス本部:

ゼウス、ヘルメス、アテナ、アポロン、アルテミス、アレス、プロメテウス、ヘラクレス、ポセイドン、ハデス、ヘパイストス、ヘラ、アフロディーテ、ヘスティア


特別参加:

オーディーン、トール、ロキ、スカディ、テュール、スサノオ


投書者

神話を読んでいて気になった人間

投書

「神様達って、本人より装備が強すぎじゃないですか?

逆に、装備を奪われたらやばくないですか?」



1.神器と神自身の力について


神器は、神の攻撃力や権能を補助する道具であると同時に、所有者の神格、役割、王権を示す象徴でもある。

そのため、神器が強力であることだけを理由として、神本人が弱いとは断定できない。

アルテミスからは、弓を失っても狩猟の知識まで失われるわけではないとの意見があった。

アレスからは、真の戦士なら剣を失えば槍、槍を失えば拳で戦えるとの主張があった。

ただし、装備が存在する場合は使用するとの補足があったため、装備への依存を完全に否定する証言とは認めない。

なお、ポセイドンの三叉槍については、海を統べる権能と王権の象徴であり、単なる武器ではないとの説明を受けた。

三叉槍を持たず浜辺に立った場合、漁師と間違われる可能性については未検証である。


2.過去の神器盗難事例と盗まれた際の考察


ミョルニル


トールの神器ミョルニルには、過去に盗難された事例が存在する。

奪還のため、所有者であるトールが花嫁へ変装して敵地へ潜入し、結婚式の途中でミョルニルを取り戻している。

トールからは「特殊な事例である」との説明があった。

しかし、神器の盗難によって所有者の戦力のみならず、服装にまで重大な影響が及んだ事例として記録する。

審議中、ヘルメスとロキが当該事例を繰り返し取り上げた。

両者の組み合わせは、会議運営上、極めて厄介であることを付記する。


グングニル


オーディーンの槍グングニルは、使用者が限られる必中の神器である。

一方、敵対者が使用可能であった場合、必中の攻撃が所有者本人へ向けられる危険がある。

オーディーン本人からも「最悪である」との評価を得た。


隠れ兜


ハデスの隠れ兜について、ゼウスから借用を希望する旨の発言があった。

使用目的は地上視察とされたが、視察先および面会予定者が明示されなかったため、正式申請の提出前に貸与を禁止した。

ヘラからは、司会判断を支持する意見があった。


天叢雲剣


スサノオは、八岐大蛇の尾から得た天叢雲剣を天照へ献上している。

神器への依存を避けた行為とも考えられたが、本人から「姉に許してもらうため」との説明があった。

よって、神器が謝罪品として使用された事例に分類する。

スサノオは表現に不満を示したが、事実関係に誤りはない。


3.神器管理制度


神器の紛失、盗難および悪用を防止するため、以下の対策が提案された。

- 所有者認証

- 位置追跡

- 遠隔停止機能

- 紛失時の回収手順

- 敵対者に使用された場合の対抗策

- 神器を持たない状態での基礎訓練


機能面の検討は、ヘパイストスが担当する。

なお、所有者以外が使用した場合に相手を呪い殺す案も示されたが、安全性および過剰防衛の観点から、採用の可否は別途検討とする。

位置追跡についてゼウスから異議が提出されたが、神器を常時携帯しているため、ヘラから「日頃の行い」との指摘があった。

神器管理の審議がゼウスの行動監視へ移行しかけたため、司会判断で打ち切った。


実地検証記録


神器を持たない神々の能力測定訓練

神々が神器を失った場合でも、自らの身体能力と技術を発揮できるか確認するため、オリンピア競技場にて能力測定を実施した。

投書への回答および神々の基礎能力を示す目的で、人間の観客も招待した。

公平性を保つため、競技中はすべての神器をヘパイストスの管理下へ置いた。

ハデスの隠れ兜については、保管中まで姿を消していたため、一時的に紛失が疑われた。

今後、透明化能力を持つ神器には、保管中であることを示す表示を付けることが望ましい。


4.短距離走


出場者

ヘルメス、アポロン、アレス

翼のサンダルを外したヘルメス、弓と戦車を持たないアポロン、鎧を脱いだアレスが競走した。

序盤はアレスが先行したが、中盤以降、伝令神として地上を駆け続けてきたヘルメスが追い上げた。

アポロンも二柱へ並んだが、走行中に発光し、他の走者から眩しいとの苦情が出た。

テミス審判より、発光を抑えるよう注意を行った。


結果

一着:ヘルメス

二着:アポロン

三着:アレス

ヘルメスとアポロンの差は、指一本分であった。

神器を使用しなくても、神自身が長年積み重ねた経験と能力は残ることが確認された。

アレスは、今回の競走を準備運動と主張した。

ただし、出場者の中で最も早く全力疾走を開始していたことを記録する。


5.円盤投げ


出場者

アレス、トール

両者とも三投を行った。

アレスは初投を力任せに投げたが、トールの投擲を観察し、足の位置、呼吸、全身の連動を修正した。

三投目には、それまでで最も美しい軌道を描き、記録を大きく伸ばした。

トールも最後の投擲で、アレスの記録を上回った。


結果

勝者:トール

記録差:半歩分


敗れたアレスは再戦を希望した。

トールはアレスの成長を認め、互いに握手を交わした。

ゼウスおよびアテナからは、アレスが競技を通じて友情を学んだこと自体が奇跡であるとの評価があった。


6.槍投げ


出場者

オーディーン


オーディーンは、用意された一般的な槍について、必中機能および自動帰還機能がないことを確認した。

一般的な槍には、いずれの機能も搭載されていない。

投擲距離は良好であったが、目標線からわずかに外れた。

本人からは、風が悪かったとの説明があった。

ロキからは、神器を持たないと最高神の言い訳まで人間的になるとの指摘があった。


7.レスリング


出場者

アレス、ヘラクレス

怪力ではヘラクレス、戦場で培った技術と駆け引きではアレスが優位を示した。

ヘラクレスがアレスを持ち上げた後、アレスが空中で体勢を入れ替え、両者同時に倒れた。

結果

引き分け

アレスは、自分のほうが大きな音を立てて倒れたため勝利であると主張した。

当該判定基準に競技上の合理性は認められず、却下した。


8.神話圏対抗リレー


人間の観客から、複数の神々が協力して競う競技を見たいとの要望があった。

これを受け、オリュンポス代表と北欧代表による対抗リレーを実施した。


オリュンポス代表

- 監督:アテナ

- 第一走者:アルテミス

- 第二走者:ヘラクレス

- 第三走者:ゼウス

- 最終走者:ヘルメス

- 補欠兼応援団長:アレス


北欧代表

- 監督:テュール

- 第一走者:スカディ

- 第二走者:トール

- 第三走者:オーディーン

- 最終走者:ロキ


アレスは代表から外されたことへ異議を唱えた。

しかし、短距離走における配分の失敗、および受け渡し練習でバトンをヘラクレスへ投げつけた実績を考慮し、補欠兼応援団長とした。

本人は旗を渡されたことで納得した。


①第一走者 アルテミス対スカディ


森を駆ける狩猟神アルテミスと、北欧の山と狩猟を司るスカディが対戦した。

アルテミスは平地での加速、スカディは一定の歩幅と持久力を生かし、終盤まで接戦を続けた。

バトンの受け渡しは、ほぼ同時であった。

両者は互いの実力を認め、雪山と森林の双方で再戦することを口頭で約束した。

正式な競技申請は、現時点で提出されていない。


②第二走者 ヘラクレス対トール


神話を代表する怪力の持ち主同士が対戦した。

両者が走るたびに石畳へ亀裂が入り、競技場へ二本の大きな溝が形成された。

走行姿勢の修正を指示したところ、前方へ進む力が増し、地面の被害も拡大した。

途中、互いの肩をぶつけたことをきっかけに、バトンを打ち合わせながら走り始めた。

テミス審判のホイッスルにより競技を一時中断し、両者へ注意を行った。

注意内容は以下のとおり。

トール、ヘラクレス、バトンを武器としての妨害行為について厳重注意。


競技再開後は、競走として最後まで走行した。

第三走者への受け渡し時、両者の踏み込みによって地面が崩落した。

競技場の修繕について、ヘパイストスが請求書を作成することとなった。


③第三走者 ゼウス対オーディーン


オリュンポスと北欧、両神話圏の最高神が対戦した。

両者とも外見上は高齢であるが、神であるため、走力に大きな問題はなかった。

神器、雷、魔術、神獣、予言などを使用せず、自らの足だけで接戦を繰り広げた。

アテナとテュールは、それぞれ一定の速度を保つよう指示した。

しかし、ゼウスとオーディーンは最高神としての意地を優先し、監督の指示に従わなかった。

これを受け、両監督の間で次の共通認識が成立した。

最高神は、自分を最終決定者と考えているため、監督の指示を聞かない。


最終走者への受け渡しでは、オーディーンからロキへの受け渡しが指一本分だけ早かった。


④最終走者 ヘルメス対ロキ


伝令、商業、嘘、盗みなど複数の性質を持つヘルメスと、知恵と悪戯に優れるロキが対戦した。

両者は能力および役割の一部が重なっており、トリックスターとしての対抗意識も確認された。

序盤は、互いに進路を先取りする駆け引きが続いた。

ロキの走行は妨害に近いものだったが、直接的な接触や反則能力の使用はなく、規則違反とは断定できなかった。

アテナおよびテュールから、変身、幻術、妨害による反則負けへ注意するよう指示があった。

両走者とも、所属陣営からの信用は同程度であった。

終盤は駆け引きをやめ、純粋な速さで競った。

両者は、それまでの走者から託されたバトンを最後まで離さず、ほぼ同時に終点へ到達した。


結果

勝者:オリュンポス代表

記録差:指一本分


敗北したロキに対し、北欧代表から健闘を称える言葉が送られた。

テュールからは、反則負けしなかった点についても評価があった。

ロキ本人は、評価基準が低いとして不満を示した。

勝利したヘルメスは、感動的な勝負の直後に特別手当を要求した。

ゼウスからは、感動を返すよう要求された。


9.人間達からの提案


神話圏の異なる神々が神器を置き、共通の規則のもとで競い、勝敗の後に互いを称える姿を見た人間達から、競技祭の開催が提案された。

人間側から示された目的は以下のとおり。

- 武器ではなく身体能力と技術で競う

- 都市や国が異なっても、同じ規則に従う

- 個人の力だけでなく、仲間へ託す力も競う

- 勝者だけでなく、最後まで力を尽くした者を称える

- 戦争とは異なる形で、互いの力を認める

アテナからは、争いそのものをなくすことは難しくても、争い方を変えることはできるとの意見があった。

テュールからは、武器を置き、共通の規則を受け入れることに競技の価値があるとの意見があった。

反対意見はなく、人間達による競技祭の開催を承認した。


10.第一回オリンピア競技祭


後日、オリンピアの地に各都市から選手が集まり、人間による競技祭が開催された。

選手達は、定められた規則に従い、正々堂々と競うことを神々へ誓った。

違反者には神罰ではなく、競技上の失格を適用することとした。

実施された主な競技は以下のとおり。

- 短距離走

- 円盤投げ

- 槍投げ

- レスリング

- 戦車競走

人間達は、神器も神の加護も使用せず、自らの身体と技術で競った。

勝者には、金銀財宝ではなくオリーブの冠が授けられた。

ゼウスからは、黄金、土地、家畜および美女を褒賞とする案が示された。

ヘラから詳細確認を求められた後、ゼウス本人により撤回された。

名誉を最大の褒賞とする方針を採用した。


11.長期経過観察


①現代オリンピック

オリンピアで始まった競技祭は、長い時を経て神々の手を離れた。

現在では四年に一度、世界中の国と地域から選手が集まり、人生を懸けて競う世界大会へ発展している。


②聖火

プロメテウスから人類へ受け継がれた火は、現代では希望と継承を象徴する聖火として扱われている。

ゼウスからは、雷による点火案が再度提出された。

聖火台が爆発する危険があるため、却下した。


12.現代選手への評価


観戦した神々からは、以下の反応があった。

- ヘルメスは、短距離選手の速度を高く評価した

- オーディーンは、必中機能のない槍を正確に投げる技術を評価した

- トールとヘラクレスは、重量挙げ選手の鍛錬を評価した

- ポセイドンは、競泳選手の速度へ関心を示した

- アルテミスは、アーチェリー選手の技術を評価した

- アポロンは自身のほうが正確に射抜けると主張したが、肩の不調を理由に実演を避けた

人間達が神器を持たず、鍛錬によって高度な能力を身につけたことは、本議題における重要な成果として記録する。

パラリンピックについて

義足、車いす、その他の競技用具を使いこなし、競技へ挑む選手達を観察した。

ヘパイストスから、次の見解が示された。

「道具に頼っているのではない。

道具を、自分の身体の一部になるまで使いこなしている」


神器も同様に、所有するだけで価値を持つものではない。

作る者、整備する者、使いこなす者がいて、初めて力となる。

神々が神器の力を当然のものとして扱い、整備を怠っていた可能性も確認された。

壊れるまで使用してから、急ぎの修理を依頼する行為は控えること。

勝者と敗者について

現代の競技では、勝者になれる者はごく一部である。

世界で四番目となった者であっても、一番を目指してきた以上、敗北を悔しがることがある。

しかし、勝利できなかったからといって、競技へ至るまでに積み重ねた鍛錬まで無価値になるわけではない。

戦場では敗者に次がない場合もある。

競技であれば、敗北を受け止め、再び挑戦できる。

この点は、戦争と競技を分ける重要な価値である。


13.神々による競技介入の禁止


現代オリンピックは、すでに神々の手助けを必要としていない。

公平性を維持するため、以下の行為を禁止する。

- 天候操作

- 追い風の発生

- 水流の変更

- 投擲物の軌道修正

- 神器の持ち込み

- 特定選手への加護

- 審判への圧力

- 判定への不服を理由とした神罰

アレスから審判への圧力を示唆する発言があった。

出席者全員から即座に否定されたため、実行には至っていない。


14.冬季オリンピックについて


冬季大会のオリュンポスでの観戦記録が存在しないことが確認された。

オリュンポス所属神の多くは、普段から肩や腕を露出した薄着であり、寒冷地での活動に適した服装をしていない。

ゼウスは日程の都合、アポロンは太陽神としての専門外、アレスは筋肉への悪影響を理由として挙げた。

審議の結果、実際の主な理由は寒さであると判断する。


冬季大会の観戦には、防寒着の準備および寒冷地への順応が必要である。

本件は、次回継続審議とする。


15.投書への回答


神器は、神自身の力を高める武器であると同時に、神格、権能、地位を示す象徴でもあります。

そのため、神器が強いからといって、神本人が弱いとは限りません。

ただし、神器を奪われた場合に戦力が低下し、敵に悪用される危険があるとの指摘は、そのとおりです。

今後は、所有者認証、位置追跡、遠隔停止、紛失時の回収手順などを整えるとともに、神器を持たない状態での訓練を定期的に実施します。

神器を持つことと、神器に頼り切ることは異なります。

重要なのは、神器を正しく管理し、使いこなし、失った場合にも自らの力で行動できるよう備えることです。

なお、神器を持たない神々の能力測定訓練は、人間達へ競技という新たな力の示し方を伝えました。

それは後に、世界中の人々をつなぐオリンピックへ発展しています。

神々が神器を置いたことで、人間達は自らの身体と技術を磨き、戦争とは異なる方法で互いの力を認めることを学んだのです。


16.決定事項

- 神器管理機能の検討をヘパイストスへ依頼する

- 神器を持たない基礎訓練を定期的に実施する

- 神々による人間の競技への介入を禁止する

- 競技規則への違反は神罰ではなく、失格によって処理する

- 冬季大会観戦に向け、防寒対策を継続審議とする

- 怪力神同士を同時に走らせる場合、競技場を事前に補強する


欄外記録

神話圏対抗リレーによって破損したオリンピア競技場について、ヘパイストスが修繕費の請求書を作成している。

主な破損原因は、ヘラクレスおよびトールの走行である。

ただし、両者を代表へ選出した責任もあるとして、オリュンポス側と北欧側のどちらが費用を負担するかは決まっていない。

勝敗は指一本分で決着した。

修繕費の負担については、現在も両神話圏が一歩も譲っていない。

以上。


書記:ムネモシュネ


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