99 永遠の愛を君に
記念日当日、マデリーンはヴィルヘルムの願いを叶えて丸一日彼と過ごしていた。
昼から二人で王都を歩き、買い物をしたりした。ヴィルヘルムはマデリーンを常に優先し、彼女の望みを何でも叶える良き夫だった。
今日は夜、王宮には帰らない。
王都にある最高級のホテルで彼と過ごすことになっている。
お互いに多忙の身であるため、二人きりで過ごせるのは一泊のみ。ヴィルヘルムはマデリーンに伝えたいことをきちんと話すつもりだった。
「マデリーン……こっちに来てくれるか?」
「はい、陛下……」
ヴィルヘルムはマデリーンの手を引き、彼女を予約しておいた部屋へと連れて行った。
記念日にサプライズをするのは、夫として当然のこと。
しかし、貴族社会では政略結婚が多いせいか、当日妻のために何かをする夫は少ないのだという。
ヴィルヘルムも以前まではそんな最低な考えを持っていた。
部屋の扉の前まで来ると、ヴィルヘルムは彼女に目を閉じてくれと頼んだ。
マデリーンは言われた通り目を瞑り、彼に導かれるまま室内に入った。
視界が真っ暗なため、部屋の中に何があるのかはわからない。しかし、何だか良い香りがする。
「―――マデリーン、目を開けてくれ」
「……」
ヴィルヘルムの声で、マデリーンはゆっくりと目を開けた。
視界いっぱいに広がる景色に、彼女は思わず歓声を上げた。
「わぁ……!」
―――正面にある大きな窓から見えたのは、世界で最も美しいと言われるルバーニ王国の夜景。
あらゆるところから放たれる光によって、王都が美しく照らされている。遠くに見える城や、小さな店が輝いている。
(なんて綺麗なのかしら……そのために最上階の部屋を取ったのね)
ガラス張りの大きな窓からは、夜景を一望することができる。
ヴィルヘルムのサプライズは夜景だけではなかった。
ホテルの真っ白なベッドには、赤い薔薇でハートが作られている。
周囲を白と金のバルーンで飾り付けしてあり、華やかな一室を創り上げていた。
室内を見回して驚いていたマデリーンに、ヴィルヘルムが声をかけた。
「気に入ったか?」
「陛下……とっても綺麗です」
その返事に、ヴィルヘルムは満足そうに微笑んだ。
彼女の喜ぶ顔が、彼にとっては何よりも嬉しかったのだ。
「陛下が作ってくれたんですか?」
「ああ……平民の間では、こういうのが流行っているそうだ」
マデリーンも何度か聞いたことがあった。
平民では、恋人にプロポーズするときホテルを飾るのが最近の流行だとか。
当然、見たこともないし自分がされるとは想像もしていなかった。
なんと、飾り付け全てヴィルヘルムが一人でやったのだという。
ただでさえ忙しいだろうに、私のためだけにここまでしてくれたのか。彼がここまでのロマンチストだったとは、マデリーンも知らなかった。
しばらく夜景に見惚れていたマデリーンに、ヴィルヘルムがそっと近づいた。
「……マデリーン」
「陛下」
振り返ると、彼が彼女の前で跪いていた。
前にもされたことがあったが、あの頃と今では彼に対して抱く感情が違う。
マデリーンはただじっと、ヴィルヘルムの言葉を待ち続けた。
「―――君は、俺が今までに見てきた中で最も高潔で、素晴らしい女性だ」
「……」
自身への深い愛が込められた彼の瞳。
マデリーンは泣きそうになってしまった。
彼女が今までに受けてきた心の傷も、彼の言葉で全てが癒されていくようだった。
二人はお互いに辛い環境で過ごし、長年の苦痛に耐えてきた。
そして今、こうやって幸せを手に入れた。
ヴィルヘルムはマデリーンを、マデリーンはヴィルヘルムを―――それぞれを幸せにしたいと思っていた。
「俺は……そんな君を尊敬し、敬愛している。国王としてではなく、一人の男として君を心から愛している」
「陛下……」
堪えきれず、とうとうマデリーンの目から涙が零れ落ちた。
それが嬉し泣きだということがわかっているせいか、ヴィルヘルムも前のように慌てふためいたりはしない。
「君がいるだけで、俺の世界は色が着いて見える。君がいない人生は、考えられない」
ヴィルヘルムにとっては、地位も名誉もどうでもよかった。
ただ、彼女さえ傍にいてくれるのなら。
それだけが、今のヴィルヘルムの願いだった。
「―――どうか、この先ずっと俺の傍にいてくれないか?マデリーン」
命令ではなく、懇願だった。
彼は愛する女性に自身の望みを押し付けたくはなかった。
もし彼女が自分を受け入れなかったとしても、永遠に待ち続けよう。前に言った通り、五十年でも百年でも。
マデリーンはそんな彼の思いを受け入れた。
「はい、陛下。二度と私があなたから離れようとしないように……しっかり捕まえていてください」
「マデリーン……!」
ヴィルヘルムは嬉しさのあまり、彼女に抱き着いた。
マデリーンは初めて、彼に腕を回し、その身体を抱きしめ返した。
「マデリーン……」
「陛下……」
ヴィルヘルムは部屋のカーテンを閉め、いよいよ二人だけの空間になった。
彼のために用意したドレスが、彼の手で脱がされていく。マデリーンは受け入れるように、彼の首に腕を回した。
緊張しているのか、お互いの表情に余裕がなくなっていく。
次の瞬間、ベッドに置かれていた真っ赤な薔薇が、強い衝撃で散らばった―――
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