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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第三章 愛の行方

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99/100

99 永遠の愛を君に

記念日当日、マデリーンはヴィルヘルムの願いを叶えて丸一日彼と過ごしていた。

昼から二人で王都を歩き、買い物をしたりした。ヴィルヘルムはマデリーンを常に優先し、彼女の望みを何でも叶える良き夫だった。



今日は夜、王宮には帰らない。

王都にある最高級のホテルで彼と過ごすことになっている。

お互いに多忙の身であるため、二人きりで過ごせるのは一泊のみ。ヴィルヘルムはマデリーンに伝えたいことをきちんと話すつもりだった。



「マデリーン……こっちに来てくれるか?」

「はい、陛下……」



ヴィルヘルムはマデリーンの手を引き、彼女を予約しておいた部屋へと連れて行った。

記念日にサプライズをするのは、夫として当然のこと。



しかし、貴族社会では政略結婚が多いせいか、当日妻のために何かをする夫は少ないのだという。

ヴィルヘルムも以前まではそんな最低な考えを持っていた。



部屋の扉の前まで来ると、ヴィルヘルムは彼女に目を閉じてくれと頼んだ。

マデリーンは言われた通り目を瞑り、彼に導かれるまま室内に入った。



視界が真っ暗なため、部屋の中に何があるのかはわからない。しかし、何だか良い香りがする。



「―――マデリーン、目を開けてくれ」

「……」



ヴィルヘルムの声で、マデリーンはゆっくりと目を開けた。

視界いっぱいに広がる景色に、彼女は思わず歓声を上げた。



「わぁ……!」



―――正面にある大きな窓から見えたのは、世界で最も美しいと言われるルバーニ王国の夜景。

あらゆるところから放たれる光によって、王都が美しく照らされている。遠くに見える城や、小さな店が輝いている。



(なんて綺麗なのかしら……そのために最上階の部屋を取ったのね)



ガラス張りの大きな窓からは、夜景を一望することができる。



ヴィルヘルムのサプライズは夜景だけではなかった。

ホテルの真っ白なベッドには、赤い薔薇でハートが作られている。

周囲を白と金のバルーンで飾り付けしてあり、華やかな一室を創り上げていた。



室内を見回して驚いていたマデリーンに、ヴィルヘルムが声をかけた。



「気に入ったか?」

「陛下……とっても綺麗です」



その返事に、ヴィルヘルムは満足そうに微笑んだ。

彼女の喜ぶ顔が、彼にとっては何よりも嬉しかったのだ。



「陛下が作ってくれたんですか?」

「ああ……平民の間では、こういうのが流行っているそうだ」



マデリーンも何度か聞いたことがあった。

平民では、恋人にプロポーズするときホテルを飾るのが最近の流行だとか。

当然、見たこともないし自分がされるとは想像もしていなかった。



なんと、飾り付け全てヴィルヘルムが一人でやったのだという。

ただでさえ忙しいだろうに、私のためだけにここまでしてくれたのか。彼がここまでのロマンチストだったとは、マデリーンも知らなかった。



しばらく夜景に見惚れていたマデリーンに、ヴィルヘルムがそっと近づいた。



「……マデリーン」

「陛下」



振り返ると、彼が彼女の前で跪いていた。

前にもされたことがあったが、あの頃と今では彼に対して抱く感情が違う。

マデリーンはただじっと、ヴィルヘルムの言葉を待ち続けた。



「―――君は、俺が今までに見てきた中で最も高潔で、素晴らしい女性だ」

「……」



自身への深い愛が込められた彼の瞳。

マデリーンは泣きそうになってしまった。



彼女が今までに受けてきた心の傷も、彼の言葉で全てが癒されていくようだった。

二人はお互いに辛い環境で過ごし、長年の苦痛に耐えてきた。



そして今、こうやって幸せを手に入れた。

ヴィルヘルムはマデリーンを、マデリーンはヴィルヘルムを―――それぞれを幸せにしたいと思っていた。



「俺は……そんな君を尊敬し、敬愛している。国王としてではなく、一人の男として君を心から愛している」

「陛下……」



堪えきれず、とうとうマデリーンの目から涙が零れ落ちた。

それが嬉し泣きだということがわかっているせいか、ヴィルヘルムも前のように慌てふためいたりはしない。



「君がいるだけで、俺の世界は色が着いて見える。君がいない人生は、考えられない」



ヴィルヘルムにとっては、地位も名誉もどうでもよかった。

ただ、彼女さえ傍にいてくれるのなら。

それだけが、今のヴィルヘルムの願いだった。



「―――どうか、この先ずっと俺の傍にいてくれないか?マデリーン」



命令ではなく、懇願だった。

彼は愛する女性に自身の望みを押し付けたくはなかった。

もし彼女が自分を受け入れなかったとしても、永遠に待ち続けよう。前に言った通り、五十年でも百年でも。



マデリーンはそんな彼の思いを受け入れた。



「はい、陛下。二度と私があなたから離れようとしないように……しっかり捕まえていてください」

「マデリーン……!」



ヴィルヘルムは嬉しさのあまり、彼女に抱き着いた。

マデリーンは初めて、彼に腕を回し、その身体を抱きしめ返した。



「マデリーン……」

「陛下……」



ヴィルヘルムは部屋のカーテンを閉め、いよいよ二人だけの空間になった。

彼のために用意したドレスが、彼の手で脱がされていく。マデリーンは受け入れるように、彼の首に腕を回した。

緊張しているのか、お互いの表情に余裕がなくなっていく。



次の瞬間、ベッドに置かれていた真っ赤な薔薇が、強い衝撃で散らばった―――




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