96 平和な日々
ソフィアが処刑され、マデリーンには平穏な日々が戻ってきた。
彼女が関与していたダイアン・ロペスを始めとした幹部たちも全員死刑が執行されている。
トップ、そして幹部を失った犯罪者ギルドは弱体化の一途を辿っているという。
マデリーンの命により、残ったメンバーを近衛騎士たちが摘発しており、第三地区は平和を取り戻した。
第三地区のすぐ隣、第五地区に住んでいた国民は言った。
「昔はむやみに外を出歩けなかったんですけど……今は深夜でも一人で外に出られます。全てマデリーン陛下のおかげですね」
犯罪者ギルド摘発の指揮を執ったのがまさにマデリーンだった。
彼らが牛耳っていた第三地区、そしてその他貧民街には、今はほとんど組織の人間はいない。
「―――へぇ、更生して奥さんと子供のところに戻るのが夢なのね?」
「はい、叶えられるかはわかりませんが……今はそのために仕事に精を出しています」
マデリーンがちょうど話していたのは、彼女が立ち上げた更生保護施設の入居者だった。
過去に窃盗で捕まってしまった入居者は、今は施設の職員の下でまじめに暮らしている。
夢があるだなんて、素晴らしいことではないか。マデリーンはそんな彼の手を取った。
「きっと叶うわよ。今のあなたを見ているとわかるのよ。あなたはウソをついていない、悪人の目をしていないわ」
「目……?」
彼は不思議そうにきょとんとしながらも、褒め言葉に照れているのか、僅かに頬を染めた。
目を見れば相手の真意がわかる―――というのは、ボランティア仲間ウィリーからの教えである。
「私もね、かつてここにいる人たちと同じだった時期があったの」
「マ、マデリーン陛下がですか……!?」
全く想像がつかないと、彼は驚いて目を見開いた。
マデリーンのかつての噂は、善行により既に上書きされていた。
今では最恐ストーカーの二つ名を知らない者も多い。しかし、彼女はその過去を忘れたことはない。
「ええ……かつての私は自分のことしか考えていなかった。自らの欲求のためなら手段を厭わず、平気で人を傷付けていたわ。あのときのことは悔やんでも悔やみきれない」
「王妃陛下にそのような時期があったとは……」
いくら今更生したからとはいえ、過去の行いがなくなるわけではなかった。
きっと彼も同じように、罪を背負って生きていくだろう。
「でもね、私は今こうやって立ち直れて更生できている。人は変われるんだって、自分自身の手で証明してみせたのよ」
「マデリーン陛下……なんて素晴らしい人……」
今のマデリーンは、入居者たちにとって希望の光だった。
彼女は代表として、一人一人と握手を交わした。
悪人だから変わることができないなんて、そんなのはただの言い訳だ。
「あなたたちもきっと私のようになれるわ。みんな今、とってもキラキラした目をしているもの。間違いない」
「ありがとうございます、陛下!」
精一杯努力します―――と、彼らはマデリーンの激励の言葉に涙ぐんだ。
ちょうど今、マデリーンは二つ目となる更生保護施設を立ち上げている最中だった。
ヴィルヘルムや支援団体の助けを得て、彼女はまだまだ活動を続けている。
──―たとえ正体がバレたとしても、それは変わらない。
「あら、マデリーン陛下!」
「久しぶりねぇ……」
次に訪れたのは、彼女が少し前まで平民のマリーとして過ごしていた王都。
ボランティアのメンバーたち、そして少なからず交流のあった地元住民たちがマデリーンに手を振った。
マリーの正体がマデリーンであることは、既にここにいる全員が知っていた。
「マリーさんがマデリーン陛下だったとは、驚きました」
「騙していたようで、ごめんなさいね」
「いえいえ、マリーさんが誰であれ、私たちはみんなマリーさんのことが大好きなんですよ」
マリーの正体がマデリーンだと知ってもなお、街の人たちは以前と変わらない様子で彼女と接していた。
王妃だからと敬遠して遠ざけるわけでもなく、権力者に媚びへつらうような真似もしない。
そのような変わらない日常が、マデリーンにとっては何よりも嬉しかった。
「陛下、このあと時間ありますか?よろしければ、前みたいにみんなでご飯でも……」
「ごめんなさいね、夜は先約があるのよ」
マデリーンは即座に断りを入れた。
悩む素振りすら見せなかった彼女に、住民の一人が尋ねた。
「それって……もしかして、国王陛下ですか?」
「え、えぇ……まぁ、そうだけど」
マデリーンの返事を聞いた住民たちは、キャーと歓声を上げた。
なぜそのような反応になるのか。なんだか照れくさい。
「国王陛下ったら、やりますね!今まで奥手すぎて見ていられませんでしたが……」
「ウィリーさんも成長し……」
「シーッ!それは秘密の話!」
「……?」
何やらコソコソ話している彼女たちを、マデリーンは不思議そうに見つめた。
ボランティアメンバーや住民たちが知っていたのは、何もマデリーンの正体だけではない。
「さぁ陛下!早く国王陛下の元へ行くべきですわ!」
「ええ……言われなくてもそうするつもりだけど……」
彼女たちはマデリーンの背中を押し、全員で彼女を見送った。
次に会えた頃には二人の恋がもう少し進展していたらいいな、なんてそんなことを願いながら。
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