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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第三章 愛の行方

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94 真の最恐ストーカー

マデリーンの合図を受け、騎士団の副団長は真っ先に賭博場に突入した。

固く閉ざされていた扉を爆破し、そのまま騎士たちがなだれ込む。騎士団長とマデリーンもあとに続いた。



「大人しくしろ!」

「もう逃げられないわよ!」



中ではソフィアとダイアン、そして組織のメンバーたちや富豪の一般客が賭博をしていた。

驚くことに、その中にはマデリーンの知った顔もいた。成金男爵や、王国内でも有名な商家のトップ、ありとあらゆる立場の人間がこの場所に集っていた。



「な、何だ!?」

「何よ、アンタたち!」



狼狽える客を、騎士たちは一人逃さず捕縛していく。

違法賭博は全面的に禁止されており、現行犯ともなれば言い逃れはできない。



「お前ら、ここがどこかわかってるんだろうな!?」

「し、知らない……俺は何も……」

「知らないなんて通用しないんだよ!」



賭博客たちは何とか抵抗しようと身体を捻ったが、力の差が圧倒的だ。

当然敵うはずもなく、すぐに手錠がかけられた。



「クソッ……なぜ今日に限って……!」

「運が悪いのか……最悪だ」



マデリーンは項垂れる一般客たちを冷たい目で見下ろした。

運が悪いのではない、たとえ現行犯でなくとも一度でも賭博場へ来た者は全員捕らえるつもりである。



そして賭博場の奥では、副団長がダイアンを捕らえていた。



(あれが……ダイアン・ロペス……)



両手を後ろで押さえられているその姿は、とても小さく見えた。あれほど悪行の限りを尽くした男の最期だと思うと、何とも呆気ない終わりだった。



「なぜ……俺がこんな目に……」

「あなたがダイアン・ロペスね?」



マデリーンは彼の前まで行くと、捕らえられた彼を見下ろした。



「お前……誰だよ……」

「私はマデリーン・ルバーニ。この国の王妃よ」

「マデリーン……あぁ、何か聞いたことあるな。最近ロベルタ伯爵の真似事をして善人ぶってる女のことか?」



ダイアンはギルドの長として、様々な情報を常に仕入れている。

当然、マデリーンが始めた事業についても耳に入れていた。そんな彼女の善行を、彼はずっとくだらないと思っていた。



「お前、王妃陛下になんて口の利き方をするんだ!」

「……ッ」



副団長が床に押さえつけ、ダイアンの顔が痛みで歪んだ。

彼は口元に下劣な笑みを浮かべながら、マデリーンを嘲笑った。



「お前がやってることは何の意味もない。犯罪者はいくら環境が良くなろうと何も変わらないんだ。今は更生できても、もう一度落ちぶれればすぐに悪の道へ戻る。俺がそうだったようにな!」

「……勝手なことを」



口を塞ごうとした副団長を、マデリーンは制した。

彼の言い分を、彼女は王妃として聞く義務があると思ったからだ。



「俺はただ、アイツらが生きられるための場所を作っただけだ。それの何がいけない?先王は俺たちを見捨てた!民たちが苦しんでいる間、多くの女を囲って私腹を肥やしていた!税金を上げ、それらを全て女への貢ぎ物に使っていた!」

「……」



先代国王―――ヴィルヘルムの父親は、どうしようもない男だった。

彼は類を見ないほどの女好きで、側妃を何人も娶り、後宮に多くの女を囲っていた。先代の王は息子が抱えた心の傷だけではなく、苦しむ国民たちからも目を背けていた。



「先王に関しては、私も思うことがあるわ。だけど、王族全員がそういう人間なわけじゃない」

「どうだか……お前のやってることも、結局は自分に酔ってるだけだろ?」



ダイアンはマデリーンに対して偽善者――と吐き捨てた。

先の調べでわかったことだが、彼もまた悲惨な幼少期を歩んでいた。



「違う……と言いたいところだけど、あなたにとってはきっと信じられないでしょう。そうね……私のこれからの行動を見ればいいわ」



――それまでに、あなたは生きていないかもしれないけれど。

そう付け加えたマデリーンは、ダイアンを連れて行くよう命じた。

ちょうど幹部たちが捕縛され、連行されている最中だった。



そして、さらに奥ではソフィアが大声を上げて暴れていた。



「ちょっと、アンタ!私になんてことをするのよ!私のお腹には陛下の子がいるのよ!?わかってんの!?もしこの子に何かあったら、王族殺害未遂で処刑だからね!」

「ソフィア、いい加減にしなさい」

「マ、マデリーン……?」



マデリーンの姿を視界に入れ、ソフィアは呆然とした。



「知らなかったわ。あなたがダイアン・ロペスと関わりを持っていたなんて」

「ち、違うわ……私はただここへ招待されただけで……」



ダイアンなんて知らないと、ソフィアは喚いた。

しかし、彼女がダイアンからの手紙を受け取っていたことや第三地区に出入りしていたことは調べがついている。

今さら、言い逃れなどできなかった。



「アンタ、私がヴィルヘルムの子を妊娠したからって嫉妬してこんなことしてるんでしょ!?」

「あのねぇ……」



もはやどこからツッコめばいいかわからない。

彼女のお腹にいるのはヴィルヘルムの子供ではないうえに、嫉妬なんてしていない。

違法賭博場にいた時点で、彼女はれっきとした罪人である。



マデリーンはソフィアの耳元に唇を近づけ、囁いた。



「何ならあなたの秘密をここでバラしてあげましょうか?」

「ッ……」



ソフィアの顔が歪み、額に汗が滲んだ。その反応で、マデリーンは確信した。

間違いない、毒殺事件の黒幕はソフィアだ。

そうなれば、話は早い。



彼女はこの場にいる全員に聞こえるように、声高らかに叫んだ。



「―――ソフィア・ルバーニを、国王陛下毒殺未遂事件の容疑者として連行するわ」



その言葉に、周囲の騎士やギルドのメンバーたちは驚いた。

彼女がヴィルヘルムの毒殺を企んだことは、マデリーンと騎士団長しか知らなかったからだ。



「な、何を言っているのよ……私がそんなことするわけないでしょう……」

「証拠は揃っているのよ?それでもまだシラを切るつもり?」



マデリーンは懐に入れていた一枚の書類をソフィアの目の前に出した。

そこに書かれていたあらゆる内容に、彼女の顔は真っ青になった。ソフィアはガックリと項垂れ、反論すらしなくなった。



「それにしても不思議ね。どうしてそんなことをしたの?陛下があなたに何かしたわけ?」



マデリーンはソフィアが犯人だと確信していたが、いくら考えても動機がわからなかった。

ヴィルヘルムを心から愛し、彼に恩がある彼女がなぜ、彼を殺そうとしたのか。マデリーンならわからなくもないが、標的は彼女ではなくヴィルヘルムだった。



「だって……許せなかったのよ……」

「何を?」



ソフィアはか細い声のまま、続けて言葉を発した。



「彼が他の女を想っているだなんて、耐えられなかった……」

「あなた、何を言っているの?」



彼を毒殺しようとした理由の答えになっていないのではないか?



マデリーンが疑問に思ったそのとき、ソフィアが顔を上げた。

狂気に染まった瞳が、彼女を通り過ぎて天に向けられた。



「―――私のものにならないのなら……いっそ殺してしまいたい……他の誰のものにもならないように……」

「……!」



マデリーンを始め、副団長や騎士たちもゾッとして身体を震わせた。

ソフィアは周囲が見えていないのか、そのような反応を気にもしていなかった。



「一緒になれないのなら、私たちはどうして出会ったの……?彼がいけないのよ、彼が他の女を愛するから……」

「……正気じゃない」



まだ若い近衛騎士は彼女の異常さを感じ、無意識に拘束の手を緩ませてしまった。

一瞬の隙を、彼女は見逃さなかった。



―――その瞬間、ソフィアが突然騎士の腕を振り払った。

彼女はドレスの中から何かを取り出すと、マデリーンに向かって振り上げた。



「キャアッ!」



ソフィアの手に握られていたのは、鋭く光る得物。

短剣を隠し持っていたことに、騎士たちは気付かなかったのだ。



ソフィアは最後の力を振り絞り、マデリーンを排除しようとした。



「どうせ死ぬ命……誰か一人でも道連れにしてやるわ……!」

「や、やめなさい!これ以上罪を重ねないで!」



マデリーンが必死で説得を試みるも、もはや彼女には何も届かない。

刃先は徐々にマデリーンに迫り、彼女は死を覚悟した。



そのとき、突然彼女の身体が何者かによって動かされた。



「―――マデリーン!!!」

「……!」





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