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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第三章 愛の行方

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92 摘発へ

マデリーンはダイアン・ロペス率いる犯罪者ギルドの摘発を決め、総指揮を執ることとなった。



ヴィルヘルムがいない今、彼女が代わりを務めるほかなかった。当然、不安でたまらない。

しかし、マデリーンには心強い味方がいた。



「――ヤツらのアジトは第三地区にあります。第三地区はルバーニ王国のスラム街と呼ばれる危険極まりない場所です」



第三地区の地図をテーブルの上に置いてそう言ったのは、カルロスだった。

カルロスはマデリーンと違い、何度も戦争で指揮官を務めたことがある。



「レスティンブルク大公子、協力感謝します」

「いえ……国王陛下に毒を盛った男を放置しておくことはできません」



カルロスはマデリーンへの協力を自ら示した。

目の前でヴィルヘルムを倒れるところを見たせいか、どうしてもじっとしていることができなかったという。



「第三地区にいる人間で、ダイアン・ロペスの息がかかっていない人間はまずいません。あそこにいる者たちは全員、あの男――もしくは組織と繋がりがあると思っておいてください。それが王家がむやみに第三地区に入れない大きな理由です」

「……」



第三地区はダイアンを王とする一つの国と化していた。

カルロスはマデリーンの知らない重要な情報をいくつも握っていた。



「あの地区では、見知らぬ人間が入るとまず組織の人間に報告が行きます。そこから幹部たちに知れ渡るまで、そう時間はかかりません。上の者に報告が行けばアウトです」

「よそ者を絶対に入れないってことね。用意周到だわ」



かなりのやり手だと聞いてはいたが、その徹底っぷりには驚かされた。

第三地区はなかなかに大きな街だ。浮浪者はあの場所に流れ着き、悪事に手を染めるようになってしまう。

そうしなければ生きていけないからだ。



「あそこにいる人間は全員彼の組織の者なのかしら?」

「いえ、そういうわけではありません。しかし、組織に入っていなくとも、ダイアンと繋がりのある人間が数多くいます」

「それって………ソフィア側妃みたいな?」



カルロスは黙ったまま、コクリと頷いた。

ソフィアが第三地区に出入りしていたという情報を、マデリーンは既に掴んでいた。

まともな人間であれば、まず生きて帰ってこられないような場所だ。そんな場所に何度も出入りできるということは、おそらくダイアンと繋がっているのだろう。



そのとき、騎士から連絡が入った。



「―――陛下、大変です!ソフィア側妃様に動きがありました!」

「……何ですって?」



マデリーンは驚いて声を上げた。

騎士は彼女に駆け寄ると、報告を続けた。



「四日後の夜、側妃様が第三地区に行くという情報が入りました!」

「ソフィアが……」



それはまさに、千載一遇の大チャンスだった。

ソフィアとダイアンを両方捕らえることができるかもしれない。



「陛下、四日後の夜が決行日になりそうですね」

「ええ……気合いを入れないといけないわ」



マデリーンはカルロスや騎士団長を含めた話し合いを続け、具体的な計画を練った。

その結果、最適な策を講じることができた。



「ダイアン・ロペスなんて若造に負けるわけにはいかないわ!私はルバーニの王妃よ!」



マデリーンの言葉に、カルロスと騎士団長は呆気に取られていた。



「わ、若造……?」

「アイツ、陛下より年上だった気が……」



ダイアンが行った悪行の証拠も無事に手に入れることができ、準備は万端。

あとはただ、摘発の日を待つのみとなった―――






***





前日の夜、マデリーンはヴィルヘルムの部屋を訪れていた。

ベッドに横たわる彼の傍には、未だに医者が付き添っていた。



「……陛下、まだ目覚めていないのね」



マデリーンはヴィルヘルムの頬にそっと手を触れた。

解毒剤を飲んだはずだが、彼の意識はまだ戻っていなかった。

山場は超えたとのことなので、すぐに目覚めるだろうと医者は言った。



しかし、こうも眠ったままだと、マデリーンは心配だった。



―――もしかすると、このまま本当に彼がいなくなっちゃうのではないかと。



そんなこと、考えたくもなかった。



目を閉じれば、ヴィルヘルムとの記憶が自然と蘇った。

初めて彼に恋をしたときのこと、熱烈に追いかけ回した暗黒時代。結婚後の悲しい日々から一転、ふいに見せる彼の優しさまで。



前世は疎遠だったヴィルヘルムだが、今世では優しい夫だった。



「陛下、早く回復してくださいね。私、明日行くところがあるんです」



医者を外に出したマデリーンは、眠るヴィルヘルムに明日の摘発を話した。

当然、彼が聞いているわけがない。それでもわざわざ話したのは、不安感がいつまでも払拭できないせいだろうか。



今日はどれだけ寝ようと思っても眠れなかった。

マデリーンは安心したくて、ヴィルヘルムの部屋までやってきた。

あの日から何回か彼の看病に訪れてはいたものの、今日に限ってやたらと長く居座っていた。



「陛下が目覚めたら、全てが終わってますように。陛下も祈ってくださいね?」



マデリーンは彼の黒い髪の毛に優しく手を触れると、そのまま座っていたベッドサイドから立ち上がった。

明日の夜まで、彼に会うことはできないだろう。



もしかすると、これが最後となってしまうかもしれない。

必死の思いで彼の命を繋ぎ止めたというのに、今度は自分がいなくなる可能性があるとは。



(本当はまだここにいたいけれど……)



明日に備えて、寝なければならない。

マデリーンは名残惜しい気持ちを抑えながら、彼の部屋を出て行った。




***




翌日、マデリーンはまともに眠ることができなかった。

緊張していたせいだろうか。三時間ほどで目が覚め、それ以降は目を閉じても寝れなかった。



日中も特に眠くはならず、仕事にも身が入らない。

まるで抜け殻のように一日を過ごしていた。



「陛下、大丈夫ですか?何だか顔色が……」

「……気にしないでちょうだい、平気だから」



時間は夜の十時だった。

ソフィアとダイアンの密会は深夜に行われるはずだ。

そのときが来るまで、マデリーンは寝ずに待っていた。



「陛下、そろそろ……」

「ええ、行きましょう」



しばらくすると、一人の騎士がマデリーンを呼びにやってきた。

どうやらソフィアのほうに動きがあったようだ。

マデリーンはソフィアが後宮を出たことを確認すると、後を追うように王妃宮を出て行った。



「第三地区のすぐ横、第五地区に既に騎士たちが到着しているそうです」

「そう、心強いわね」



マデリーンは自身の護衛を務める騎士団長と共に、目立たない公共の馬車に乗り込んだ。



「どうやら待ち合わせ場所は……第三地区にある違法賭博場だそうです」

「賭博場……ということは、組織の他の幹部たちもいる可能性が高そうね」



上の者を捕まえることで、組織は間違いなく弱体化する。

ダイアンを始めとした幹部たちがいなくなれば、かなりの打撃になるはずだ。



「運が良いです。違法賭博場にいるのなら、現行犯で捕まえることができます」

「そうね……」



マデリーンは返事をしながら、馬車の外に目を向けた。

既に隣の第五地区にまで差し掛かっていた。この第五地区も第三地区ほどではないが、治安があまり良くなかった。



(どうか、全てが無事に終わりますように……)



マデリーンは荒れた街並みを眺めながら、心の中で願った。




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