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慣れてしまいましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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9 ボランティア

翌日の昼、マデリーンは王妃の身分を隠して王都にある教会へ訪れていた。

目立つ容姿をしているマデリーンだが、今日は平民用の質素なワンピースに着替えていた。そのおかげで、彼女がこの国の王妃陛下だと気付く者は誰もいない。



王妃である彼女が、人目を忍んでなぜこんなところにいるのか。

少し離れたところでは、マデリーンの護衛騎士が彼女を見守っている。あくまでもバレないように、私服姿で彼女を護衛していた。



()()()、次はこっちを手伝っておくれ」

「はい、院長様」



マデリーンはマリーという偽名を使い、教会のボランティアに参加していた。

仕事ではなくボランティアなので、もちろん無給だ。なぜ大事な時間を使ってそんなことするのか、不思議に思うだろう。

ボランティアを選んだのは、マデリーンたっての希望だった。



(私の立場を考えれば、これ以上お金なんて必要ないし……)



腕を怪我した男性の治療をしていたマデリーンは、包帯を巻き終えて微笑んだ。



「はい、もう大丈夫ですよ」

「マリーさん、ありがとうございます」



類稀なる彼女の美貌と女神のような優しさに、彼は顔を赤らめた。

マデリーンは社交界でも話題になるほどの美しさだったが、ストーカーのイメージが強すぎたせいで同性だけでなく異性からもあまり好かれていなかった。



そのせいか、彼女は人からの好意に疎かった。



「さっきのお方、マリーさんに惹かれていたのでは?」

「いやいや、そんなことありませんよ。ただの勘違いです」



教会には怪我人だけではなく、様々な悩みを抱えた者たちが訪れる。

王都にあるこの場所は、罪を犯した者たちの更生や社会的弱者の相談窓口でもあった。

マデリーンはちょうど、犯罪歴のある女性の相談に乗っていた。



「お金がなくて……お腹が空いてたまらなくって、店からパンを一つ盗んでしまったんです。そのおかげで何とか生きながらえましたが、後になって罪の意識に苛まれて……自ら出頭しました」

「そうだったのね」



ルバーニ王国は大陸の中でも貧富の格差が激しい。

王都には比較的裕福な者たちが集まっているが、農村ではその日暮らしの者も多くいると聞く。



(王都はルバーニ王国の表面に過ぎなかったんだわ……)



王妃として、国民の声を直接聞くことも大切だろう。

当然、相手は彼女が王妃だとは知る由もないが。



「一度捕まってしまったせいで、職に就くことも難しくなってしまって……自分のせいだとはわかっていますが……」

「……」



彼女はマデリーンの目の前でポロポロと大粒の涙を流した。

そんな彼女を見ていると、胸が締め付けられる。前世のマデリーンは、国民たちのことなど気にも留めていなかった。あのときの彼女の頭を占めていたのは、ヴィルヘルムだけだったからだ。



しかし、今は違う。

マデリーンは何としてでも彼女を助けてあげたいという気持ちに駆られた。

大体、彼女の犯罪はやむを得ずなわけで、その点で言えば前世のマデリーンのほうがずっと悪質だった。



(そうだ、ロベルタ伯爵がたしか犯罪歴のある者たちを積極的に採用する会社を立ち上げたんだったわね。彼女は軽犯罪で情状酌量の余地もあるし……彼の屋敷の侍女になれないかしら)



マデリーンは近いうちにロベルタ伯爵に会うことを決めた。

涙を流す彼女を、マデリーンは抱きしめた。



「あなたのことは絶対に私がどうにかするわ。だから心配しないで」

「マリーさん……ありがとうございます」



暗かった彼女の瞳に、希望が宿った。

本当は心優しい彼女のことだ。きっとこの先の人生を真っ当に生きるだろうとマデリーンは確信していた。



「すぐに良い知らせが来るはずよ。あとちょっとで今の暮らしから抜け出せるわ」

「何から何までありがとうございます、マリーさん」



彼女は深くお辞儀をし、教会を出た。

来たときと違って、その背中は堂々としていた。



仕事を終えたばかりのマデリーンに、護衛の騎士が遠慮がちに声をかけた。



「マリーさん……そろそろ王妃宮へ戻りましょう」

「あら、もうそんな時間?」



気付けば夕方の五時を迎えていた。

あと二時間も経てば、晩餐の時間である。予想していたよりもずっと早い時間の流れに、マデリーンは驚いた。



(最近時間が過ぎるのがとても早く感じるわ……忙しい日々を過ごしているからかしら?)



まだまだ体力は有り余っているが、王妃が夜まで宮を空けることなどあってはならない。

わかってはいるが、王宮へ戻ったところで暇なのは目に見えている。



「どうせ陛下は来ないんだし……もうちょっとくらいいいでしょう?」

「そういう問題ではありません。ただでさえお昼からずっとここにいらっしゃるのですから……」

「ちぇっ、わかったわよ。そろそろ戻るわ」



マデリーンは不満を露わにしながらも、王妃宮へ戻るために裏にとまっていた馬車に乗り込んだ。

そんなマデリーンの一連の行動を、ある人物が物陰から監視していた。



当然、彼女はそんなこと知る由もなく、王宮へ戻って行った――





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