8 パーティー
ヴィルヘルムが執務に集中できなくて悩んでいた夜、マデリーンは使用人たちとまさかのパーティーをしていた。
一人の若い侍女が酒の入ったジョッキを掲げ、声高らかに叫んだ。
「――私、アイラ・ドールズはここに誓います!今年こそは絶対に彼氏作ります!」
「おー、頑張れー」
マデリーンは軽く手を叩きながら、若き侍女の夢を応援した。
今の彼女とそう変わらない年齢だが、前世を含めたらずっとずっと年下の少女だった。
(彼氏かぁ……私も憧れてたなぁ……)
マデリーンは堂々と宣言した侍女を、微笑ましそうに見ていた。
恋する女の子というのは、誰から見ても可愛いものだ。私にもそういう時期があったなぁと、何だか過去の自分を重ねてしまう。
座り直した侍女に、横に座っていた先輩侍女が尋ねた。
「アンタ、前も振られたって言ってなかったっけ?」
「はい、次失敗したら七回目です」
「アンタって意外とメンタル強いのね、見直したわ」
齢二十歳で振られた回数六回とは、もはや尊敬に値する。
失恋してばかりの彼女の姿は、まさにかつてのマデリーンに最も近いと言えるだろう。
「全部全部思わせぶりな男性たちがいけないんですよ!」
「それもそうね……」
彼女の放った言葉に、マデリーンは妙に納得してしまった。
ヴィルヘルムに至っては思わせぶりどころか最初から彼女を毛嫌いしていたが、ダメなところが全くないわけではなかった。
(そんなに私が嫌なら、もっと強く拒絶していればよかったのに……)
いくら公爵家の令嬢だからとはいえ、王太子である彼ならば全く抵抗できないというわけではなかった。
先王に勝手に決められてしまったのは可哀相だが、最終的に受け入れたのはヴィルヘルム本人なわけで。
どうせ放置するくらいなら、今までの悪行の罪を突き付け、修道院にでも押し込んでしまえばよかったのだ。
そっちのほうが、マデリーンにとっては幸せだっただろう。
(結婚して放置することが私に対する復讐なのかしら?)
何とも残酷なやり方だ。
彼女の隣を守っていたエマが、酒を飲みながら話しかけた。
「王妃陛下とこうしてお酒を飲めるとは思ってもいませんでした」
「私もよ、お酒ではなくてお茶だけどね」
十九歳のマデリーンは、まだ酒を飲むことができない年齢だ。
そのため、今の彼女のジョッキに入っているのはお茶である。マデリーンは悪女ではあるが、規則を破るようなことは基本的にしない。
そんな二人の間に、別の侍女が割って入った。
「陛下、今年で二十歳ですよね?そしたらまた一緒に飲みましょうよ」
「誘ってくれるのは嬉しいけど……私、初めての飲酒は一番大切な人とって決めてるのよ」
その一言に、若い侍女たちがキャーと歓声を上げた。
大切な人――というのが気になってたまらないようだ。
「陛下ったら、ロマンチックですね!誰と飲むんですか?」
「それはまだ決めてないけど……」
いつか現れるであろう、一番大切な人。いつになるかは未定だけど、きっと今世が終わる頃になったら一人くらいは存在しているんじゃないかなと、マデリーンは信じている。
「別に男性じゃないとダメってわけではないわ。女性でも大歓迎よ」
「本当ですか!?」
それを聞いた侍女たちは我先にと、自分をアピールし始めた。
つい先日までは微妙な関係だった彼らだが、もう打ち解けた。今や、マデリーンを怖がっている者はこの中にはいない。
「じゃあ私立候補しようかな!陛下とお酒飲みたいです!」
「ちょっと、抜け駆けはダメよ!私が陛下と飲むの!」
「二人とも、おこがましいわよ!私が一番最初にマデリーン陛下と飲むんだから!」
飲みすぎて真っ赤になった顔で争い、彼女たちはそのまま酔いつぶれてしまった。
マデリーンはそんな三人の背中を優しくさすった。
「はいはい、あなたたちちょっと飲みすぎよ」
「この程度の酒にやられてしまうとは、まだまだですね」
エマは無表情でつぶれた若手侍女たちを見下ろした。
彼女は何杯飲んだところでつぶれるどころか全く酔っていない。もうすぐ三十歳になるエマだが、彼女は異様なほど酒に強かった。
「あなたはちょっと、昔から強すぎるのよ」
「陛下の迷惑になりそうですので、彼女たちを部屋まで送っていくことにします」
エマは床に転がる侍女の腕を掴むと、自身の肩にかけ、そのまま引きずるように部屋へ連行していった。
酒が強いだけではなく、エマは力も強い。男性にはとても敵わないが、華奢な女性一人を抱えるのは朝飯前だった。
部屋にある時計に目をやると、時刻は夜の十二時だった。
いつもなら寝ている時間だが、今日くらいは遅くまで起きていてもいいだろう。せっかくのパーティーの日だし、早朝にヴィルヘルムに会いに行くという日課ももうないのだから。
「私はもうちょっとだけ、飲んでいようかな……」
マデリーンはそう呟き、お茶の入ったジョッキに口を近づけた。
***
その頃、たまたま王妃宮の近くを通りかかったヴィルヘルムは宮殿の中から聞こえる謎の騒音に呆然としていた。
「何だ……?パーティーでも開いているのか……?」
気になった彼は王妃宮に足を運びかけたが、寸でのところで我に返って自室へと戻って行った。
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