83 真相究明
ルバーニ王国では、保護施設を設立する際には裁判所からの認可が必須となる。申請に必要な書類に記入済みの上で準備をし、自身で提出しなければならない。
書類には事業計画や収支予算など、様々な情報を記入する必要があった。
マデリーンは今日書類を提出し、ちょうど申請を終えた頃だった。
とはいえ、断られることなどまずないだろう。
ヴィルヘルムが後ろについているという今の状況は、他の何よりも心強かった。
「申請を終えたので、しばらくはゆっくりできそうですね。王妃陛下」
「ええ、そうね……」
裁判所から帰ったマデリーンは、ようやく一息つくことができた。
ここ一ヵ月間、まともに睡眠をとることもできないほど忙しない日々を送っていた。
今日からはゆっくりと寝ることができそうだった。
とはいえ、まだ終わったわけではない。
むしろ、今は始まる前だった。
(きっちり休みたいところだけど……もう少しだけ、仕事をしようかしら)
マデリーンはソファから立ち上がると、エマを手招きした。
「ねぇ……エマ」
「どうかなさいました?陛下」
マデリーンに駆け寄ったエマは、何かを察して彼女の唇に耳を近づけた。
「……実は、調べてほしいことがあるの」
「……何でしょうか」
わざわざ人に聞こえないように言うということは、きっと重大な内容なのだろう。
そんなエマの予想は、見事的中した。
「―――側妃ソフィアの、過去について……徹底的に調べてほしいの」
「…………陛下」
エマは驚きながらも、表情を変えることなくかしこまりましたと頷いた。
***
それから数日後、マデリーンはとある人物を王妃宮に呼び出していた。
「――カルロス・レスティンブルクが王妃陛下にご挨拶申し上げます」
「顔を上げてください」
彼女の目の前で膝をついていたのは、ついこの間共にボランティアに参加したカルロスだった。
「王妃陛下に呼び出されるとは……光栄です」
「少し、あなたにお聞きしたいことがあったんです」
マデリーンはカルロスと向かい合って座った。
突然の呼び出しが嬉しいのか、彼はなぜかキラキラした顔でマデリーンを見つめていた。
「聞きたいこととは、何でしょう?」
「………ソフィア・シェルドンに関してです」
「……」
ソフィアの名を出した瞬間、輝いていたカルロスの表情が曇った。
やっぱり―――マデリーンは彼の反応を予想していた。
「あえて私にソフィア側妃様のことをお聞きになられるとは……陛下はレスティンブルク大公家の秘密を知っているようですね」
「……ええ、そうでなければシェルドンという旧姓で彼女を呼ぶことはありませんでした」
マデリーンがソフィア・ルバーニではなく、あえてソフィア・シェルドンと呼んだ理由。
カルロスは疑念を認めたようにゆっくりと首を縦に振った。
「陛下がどこまでご存知かはわかりませんが……そうです―――ソフィア側妃様と付き合っておりました」
「……やっぱり、そうだったのね」
既にマデリーンのほうでも調べがついていたため、特に驚きもしない。
ソフィアとレスティンブルク大公家の関係。男爵令嬢と王家の血を引く大公家に何の関係があるのかと大半の人は言うだろう。
「……私に話せることは、あまり多くはありません。ただ、王妃陛下の抱いていらっしゃる疑念は、全て事実であると認めましょう」
「そう……ありがとう、話してくれて」
カルロスはどういたしまして――と言いながら、切なそうに目を伏せた。
そんな彼を見ていると、マデリーンの胸も締め付けられた。
明らかにしなければならない、真実がそこにあった。
***
カルロスを帰したあと、マデリーンは大急ぎで本宮へと向かっていた。
彼女は今、自身の進むべき道を決めるために、ヴィルヘルムの元へ急いでいた。
しかし、いつもの執務室に彼はいなかった。
それでも彼女は諦めず、別の場所を探した。本宮の書庫、厨房、晩餐室―――最後に庭に差し掛かったとき、ようやく彼を見つけることができた。
「――――陛下!」
「マデリーン?」
ヴィルヘルムを見つけた彼女は、慌てて彼の元へ駆け寄った。
先日雨が降ってできた水たまりのせいで、彼女のドレスの裾が泥水で汚れた。
そんなことも気にせず、マデリーンは一目散に彼の元まで行った。
「どうしたんだ?急に」
「陛下……よかった、会えて」
息を整えるマデリーンの肩を、ヴィルヘルムが心配そうに掴んだ。
彼女は彼にしがみつくように、服を手で握った。
「陛下……どうしてもお聞きしたいことがあるんです」
「何だ?何でも聞いてくれ」
彼女は深い深呼吸を何度も何度も繰り返した。
不安げなヴィルヘルムを前に、マデリーンはゆっくりと口を開いた―――
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