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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第三章 愛の行方

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80 領地の視察

コンサード領は南に位置する大きな土地だ。

かなり昔、セヴェランス公爵が名門侯爵家の令嬢と結婚した際に手に入れたものだった。

当時は荒れ果てた土地だったそうだが、先代セヴェランス公爵の手腕で立て直すことができたという。



(お祖父様、どういう方だったんだろうな……)



マデリーンは実は祖父の記憶がなかった。

彼女が産まれてから数年後に先代公爵は亡くなり、代わりとして父がセヴェランス家の当主になった。

そんな才能溢れる祖父は、母と父の結婚に最後まで反対していたそうだ。



マデリーンはちょうど、城から出て領都へ下りていた。

すぐ後ろにはエマと護衛騎士、隣には領主代理のレナートがいる。



「領主様、おはようございます!」

「ああ、おはよう」



レナートは穏やかな人柄と厚い人望で、領民たちからかなり好かれているようだった。

領都を直接歩いて視察していたマデリーンは、街にそびえ立つ建物を見上げながら呟いた。



「ここに施設を建てるのは……ちょっと無理があるかしら」

「そうですね……領都はいつも賑やかですし、もう少し静かなところのほうがよろしいのでは?」



レナートの言う通りだった。

マデリーンが今回新しく建てたいと考えているのは、更生保護施設だった。生活指導や職業訓練をする必要がある者ための施設。



(領都は娯楽が多いし……余計なことを考えてしまいそう)



都心よりかは、領都から離れた郊外のほうが、施設を建てるのには向いているのではないだろうか。

レナートの提案で、マデリーン一行は領都から離れ、郊外の町へと向かった。



馬車をしばらく走らせると、郊外にある町へ到着した。

町へ降り立ったマデリーンの視界に、緑豊かな農地が広がった。

遠くには山がそびえ立ち、あちこちで農作業をしている領民たちの姿が見える。



「あちらへ行けば、町があるんです。買い物もできるし、民間の馬車にも乗れる。便利ですよ」

「領都ほどの都会ではないけれど……なかなかにいいところじゃない?」



領都からそれほど遠くはないし、この位置なら何かあったとしても、警備隊がすぐに駆け付けることができる。

空気が澄んでいるし……あとは近くに住む住民の理解さえ得られれば何の問題もなくなる。



(だけど、それが一番の課題なのよね……)



果たして、マデリーンの話を理解してくれる者はいるだろうか。

今回の事業最大の難所だった。



そのとき、マデリーンは突然声をかけられた。



「―――あの、もしかしてマデリーン王妃陛下ですか?」

「……そうだけど、あなたは?」



振り返った先にいたのは、小さな女の子だった。

茶色い髪をツインテールにまとめた、五歳ほどの少女だ。



「やっぱり!王妃陛下だったんですね!」



突然町へやってきた美しい女性の正体がマデリーンだと知ると、子供は目を輝かせた。

王国の隅にある小さな町では、王族が来ることなんて滅多にない。物珍しくて驚いているのだろうか。



「マデリーン王妃!?」

「なんと、本当にあのマデリーン様!?」



声を上げたのは女の子だけではなく、周囲で仕事をしていた大人たちも同様だった。



「あのマデリーン様がこんなところに……」

「い、一体どういうこと?」



疑問に思ったマデリーンがレナートに尋ねると、彼は笑いながら答えた。



「―――実は、先代公爵様がマデリーンお嬢様のことを領民たちに話していらっしゃったんですよ」

「お、お祖父様が……!?」



今やほとんど記憶にない祖父が、自身の話をしていたとは衝撃だった。



「ええ、先代公爵様は現公爵様と違って領民たちを思い、領地経営に力を入れておりました。領民たちからも、とても慕われていましたよ」

「そうだったのね……」



母が亡くなってからというもの、先代公爵の話をする人はいなかった。

義母は当然彼のことを知らないだろうし、父も彼とは折り合いが悪かったと聞いている。



「天使のような孫娘、きっと将来この領地に女神のように君臨するだろうという言葉を最後に残していったので……おそらくそのせいかと」

「それは予言?お祖父様は予言者だったのかしら?」

「かもしれませんね、あながち間違ってはいないようです」



(もしかすると、お祖父様はちゃんと私やお母様のことを思ってくれていたのかしら……)



母親を早くに亡くした母を、祖父は男手一つで育てたそうだ。

今まであまり気にしたことなどなかったが、こんなところで祖父の話を聞くとは意外だった。



「実は……みんなにちょっと聞いてほしい話があるの」



マデリーンは仕事中の近隣住民たちを集め、演説のようなものを始めた。

祖父に恩がある彼らなら、理解を示してくれるかもしれないと期待を抱いて。



マデリーンが語りを終えると、パチパチと拍手が鳴り響いた。

どうやら好印象を与えることができたようだ。



演説後、マデリーンは村で農作業をする一人の少年に声をかけた。



「今さっき気付いたんだけど……ここって、たしか数年前に近くの刑務所から囚人が脱獄したわよね?」

「あぁ、たしかそんなことあったっすね」



マデリーンと同年代であろうその少年は、愛想良く頷いた。

そういえば前にそんなことあったね、くらいの軽いノリ。あの問題を重く捉えていたマデリーンは呆気に取られていた。



「話題になったでしょう?当時」

「いや、なってないっすよ」

「え」



王国中を揺るがした大ニュースだったあの事件。

近隣住民の間ではさほど噂に話題なっていないとは、マデリーンは思ってもみなかった。

呆然とするマデリーンに、レナートが囁いた。



「ここは領都の近くですし、よく事件あるんですよ。そのせいか、そういうのはあまり気にしないんですよみんな」

「そ、そう……」



ここにいる人たちは、感覚が王都民とはズレているのかもしれない。



「いいんじゃないですか、それで更生してくれるんなら」

「そうそう、再犯がなくなるのは私たちにとっても嬉しいですし」



マデリーンの心配とは裏腹に、住民たちはあっさりと彼女の案を受け入れた。



読んでくださってありがとうございます!


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