79 コンサード領へ
「――ですから、コンサード領を私にください」
「な、何を言っているんだ!お前は!突然帰ってきたかと思えば好き勝手しやがって!」
ヴィルヘルムとの約束から数日後、マデリーンはセヴェランス公爵邸へ訪れていた。
今日、彼女がここへ来たのは、家族相手にある交渉をするためだった。
「先触れもなく突然来たかと思えば、コンサード領を寄越せだと!?あの土地はな、お前が好き勝手できるような場所ではないんだぞ!」
「ええ……わかっていますわ。ですから、こうしてお父様に直接お願いしているのではありませんか」
マデリーンはセヴェランス公爵家が所有する南のコンラード領を自身のものにしたいと思っていた。
しかし当然、父はすぐには受け入れない。
「お父様はお忘れのようですね?」
「な、何をだ……」
マデリーンは立ち上がると、正面に座る父にゆっくりと近づいた。
彼には、己の立場をわからせなければならなかった。
「―――あなたはセヴェランス公爵家の血を引いていません。ただの婿養子に過ぎないのです」
「……実の父親に向かってなんて口を」
頭に血が上った父は、思わずマデリーンに手を上げようとした。
そんな父の手を、傍で控えていた護衛騎士が瞬時に抑えた。
「暴力はいけませんわ。陛下が悲しみますもの」
「……」
強い力で腕を掴まれた父は、痛みで顔を歪ませた。
マデリーンに手を出せば、ヴィルヘルムが黙っていない―――父は大人しくしているほかなかった。
「さぁ、命が惜しければさっさと書類にサインしてください。私もいつまでも待っていられるほど……優しくはありませんので」
「お前……」
父は渋々ながらも、マデリーンの用意した書類にサインをした。
この日、マデリーンはセヴェランス家の所有するコンサード領を手に入れることができたのだった。
父親の同意を得られたマデリーンは、晴れ晴れした気持ちで公爵邸を出た。
「王妃陛下、どちらへ行かれるおつもりですか?」
「今日は近くにあるホテルに泊まろうと思っているのよ。陛下から事前に許可は貰っているから、心配しなくていいわ」
「あら、それはいいですね」
馬車の中で、エマはマデリーンに声をかけた。
「交渉が上手くいってよかったです、陛下」
「当たり前よ。元々あの土地は私のものだったんだから」
現在、セヴェランス家の血を引いているのはマデリーンだけだった。
そんな彼女がセヴェランスのものを手にするのは当然のことである。
ただ、元から持っていたものを部外者から取り返しただけだった。
***
マデリーンは事前にヴィルヘルムに頼み込み、一週間の休暇を取っていた。
彼女がセヴェランス公爵との交渉を終えて、南のコンサード領に辿り着いたのは、二日目の夜だった。
「王妃陛下、コンサード領に到着しました」
「あら、ありがとう」
馬車から降りたマデリーンを、コンサード領の領主代理が出迎えた。
「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。マデリーン王妃陛下」
「いえ、私こそ急な訪問にもかかわらず快く応じてくれて感謝しているわ」
コンサード領はセヴェランス公爵――マデリーンの父のものだったが、彼が領主を務めているわけではなかった。
マデリーンの母方の祖父である先代公爵が決めた者が、領主としてコンサード領を治めていた。
そのため、彼らはマデリーンに好意的だった。
「もう夜も遅いですから、城へ案内いたします」
「ええ、ありがとう。明日になって街を視察するのが楽しみだわ」
実はコンサード領へ来るのは初めてだった。
マデリーンは領主が普段家族と暮らす城へ足を踏み入れた。
「今回、国王陛下に特別に支援をしていただけることになったのよ」
「なんと、陛下にですか……?」
領主は一度だけ見たことのある冷たい雰囲気の王を思い浮かべた。
大切な主君の孫娘が、冷酷な国王と結婚すると聞いて彼は心配していたが、杞憂だったようだ。
彼女の事業については、事前に領主に手紙で伝えてあった。
彼は反対することもなく、快く協力の意を示した。
「急にそんな話をされて驚いたでしょうけど……」
「いえいえ、私たちは先代の公爵様に忠誠を誓っております。ですから、お嬢様の願いであれば、何であれ叶えるのが当然です」
「そう言ってもらえて助かるわ」
マデリーンは領主に案内され、城内の一室へ通された。
「お嬢様とお連れの方々には特別なお部屋を用意しております、今日はゆっくりとお休みください」
「ありがとう」
マデリーンは部屋に入り、明日に備えて身体を休ませた。
読んでくださってありがとうございます!
ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!




