75 カルロスの参戦
一回きりだと思っていたカルロスとの交流だが、なぜかその後もしばらく続くこととなった。
「………どうして、レスティンブルク大公子がここにいらっしゃるんですか?」
「視察ですよ、視察。上に立つ者として、大切なことではありませんか?」
カルロスはニッコリと笑った。
今日は定例のボランティアの日だったが、集合場所へ赴いたところ、なぜかカルロスがいたのである。
しかもマデリーンのように身分を隠しているわけでもなく、普通にカルロス・レスティンブルクとしてここにいる。
そのせいで、周囲には女性たちの人だかりができていた。
「ほ、本物のレスティンブルク大公子……!?」
「ウソ……超カッコイイ……」
あの日マデリーンにカルロスが推しだと豪語していた女性は、今にも気を失ってしまいそうだ。
その他の女性たちも、彼の輝くような美貌にその場から動けずにいた。仕事中の店員、買い物帰りの主婦、恋人と二人で王都に遊びに来ている若い女性まで。彼はこの世の全ての女性を虜にしていた。
「ボランティアに参加するおつもりですか?レスティンブルク大公家の次期当主様が?」
「陛下……いえ、マリーさんもしていることではありませんか」
「……」
本当の姿を盾にされたら、マデリーンは断ることなんてできない。
「……たしかに、視察は大切なことです。平民の私には、大公子様の行動を制限することはできませんから」
「理解してくださったようですね、ありがとうございます」
声を潜め、コソコソと至近距離で話し込む二人を、周囲の人々は不思議そうに見ていた。
そのとき、突然割り込んだ腕がマデリーンとカルロスを引き離した。
「……ウィ、ウィリー卿?」
「何だ?」
二人を引きはがしたのは、一部始終を黙って眺めていたウィリーだった。
ウィリーはマデリーンを守るように背に隠し、カルロスの前に立ちはだかった。
「……誰だ、お前」
「お前こそ、一体こんなところで何をしている?」
マデリーンは焦ってウィリーの腕を掴んだ。
大公家の嫡男に取るとは思えないほどの無礼な態度に、彼女は慌てふためいた。
彼女はウィリーの正体がヴィルヘルムであることを知らない。
ヴィルヘルムからすればカルロスは臣下の一人だったが、当然カルロスも彼の正体を知らなかった。
見ず知らずの男に無礼な態度を取られ、彼は不快感を露わにした。
マデリーンは一触即発状態の二人の間に入った。
「ふ、二人ともやめてください……!ボランティアに来たのに喧嘩するだなんて、場の空気を壊さないでください!」
「「……」」
周囲にいる平民たちがドン引きしている。
何とか雰囲気を戻さなければと、マデリーンは彼らの肩に手を置いた。
「ね、仲良くしましょうお二人とも!」
ウィリーとカルロスは一度視線を合わせたあと、ぷいっとお互いに顔を背けた。
***
エプロンを身体に巻いたマデリーンは、意気揚々と厨房に立った。
今日は子ども食堂の開催日で、マデリーンたちボランティアは調理を担当することとなる。
マデリーンにとって、料理は慣れたものだ。
彼女は王妃宮の厨房へ訪れては、料理長に教わりながら共にクッキングを楽しんでいた。
しかし、例の二人は違う。
「……………あ」
野菜を切るのを担当していたウィリーがやらかしたというように小さく声を上げた。
マデリーンが彼の手元を確認すると、野菜と共になぜかまな板が真っ二つに割れていた。
「……ウィリー卿、切るのは野菜だけにしてください」
「す、すまない……慣れていなくて」
加減ができなかったのか、元々の力が強すぎるだけか。
おそらく両方だろう。騎士である彼は、刃のついたものを持つとどうしても力を入れすぎてしまうようだ。
そして、問題児はもう一人いた。
「……レスティンブルク大公子。何をなさっているんですか?」
「いやぁ、ちょっと休憩しようと思ってたんですけど……気付いたら汁がなくなっちゃって」
困ったなぁと、彼は頭を手で掻いた。
鍋の中に目をやると、汁が全て蒸発し、具材だけになっていた。
「休憩しすぎですよ、公子!あんだけの汁、どうやったらなくなるんですか!」
「いやいやぁ、慣れていなくて」
彼の言う通り慣れていないのなら、最初のうちは失敗しても仕方がない。
しかし、このままではいつまで経っても終わらない。
「―――お二人は外に出ていてください!」
マデリーンはウィリーとカルロスの二人を厨房の外に出した。
追い出された二人は文句たらたら。
「おいおい、俺たちはボランティアをするためにここに来たんだぞ?」
「そうですよ、マリーさん。私たち努力しますから、中に入れてください」
二人は次は上手くやると言ったが、またやらかすのは目に見えている。
だからといって、何もやらせないというわけにもいかなかった。
(そうねぇ……何か他に仕事があればいいんだけど……)
しばらく考え込んだマデリーンは、あることを閃いた。
「そうだ!いいことを考えたわ!」
彼女は二人の特性を最大限に生かすある慈善活動を思い付いたのだった――
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