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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第三章 愛の行方

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マデリーンはカルロスに本を部屋まで運んでもらったあと、二人で応接間まで来ていた。



(レスティンブルク大公子といえば……前に抱かれたい令息で挙げたわね)



以前のボランティア活動にて。

マデリーンは参加者からヴィルヘルムとカルロスどちらに抱かれたいかと尋ねられた際、カルロスと答えたことがあった。

そのときのことをふと思い出し、顔が真っ赤になる。



「陛下、熱でもあるのですか?お顔が赤いです」

「な、何でもありません……気にしないでください」



カルロスの前で何という姿を見せているんだと、マデリーンは慌てて気を取り直した。

そんな彼女を前に、彼は面白そうに口角を上げた。



「――ところで、陛下は近頃ボランティア活動をしているようですね」

「ど、どこでそれを……」



カルロスの言葉に、マデリーンは狼狽えた。



(ど、どうしてレスティンブルク大公子がそのことを知っているの……!?)



マデリーンがボランティアに参加していることは王妃宮の者たちとダニエル、そしてウィリーしか知らない。

ヴィルヘルムですら知らないことを、なぜ王宮に住んでいないカルロスが知っているのか。



そんな疑問に答えるように、カルロスは口を開いた。



「王都のボランティア団体に、類を見ないほど美しい女性がいると話題になっていました」

「……」

「その女性は金髪に菫色の綺麗な目をしていると」

「……」



あぁ、私ったらどうしてそのことを考えていなかったんだろう。

もはや言い逃れをすることもできず、マデリーンは認めざるをえなかった。



「大公子……このことはどうか内密に……」

「ええ、もちろんです。今回はその事実を確認したくてここに来ただけですから、誰かに言おうなど思ってもいませんよ」

「そ、そうですか……それはよかったです……」



マデリーンは安堵の息を吐いた。

そんな彼女をまじまじと見つめていたカルロスは、ポツリと呟いた。



「……王妃陛下は、本当に変わられたようですね」

「……何か、おっしゃりましたか?」



上手く聞き取れなかった彼女が尋ねると、カルロスは何でもないと静かに首を横に振った。

それから二人は他愛もない話をし、時間は過ぎて行った。



三十分ほど話し込むと、カルロスは用事があるのか、そろそろ失礼しますと言った。



「今日は突然の訪問にもかかわらず、受け入れてくださってありがとうございます。お話できて光栄でした、陛下」

「ええ、こちらこそ……」



最後にマデリーンと挨拶をすると、彼は部屋から立ち去って行った。

一体何だったのだろうか。マデリーンは不思議に思いながらも、特に気に留めることもなく執務を再開した。





***




王妃宮を出たカルロスは、レスティンブルク大公家の馬車に乗り込んだ。



「お坊ちゃま、ずいぶん長かったですね」

「ああ……ちょっと王妃と話していたんだ」



彼は息を吐きながら、馬車内でキツく締めていた胸元を寛げた。

その名を聞いた従者は、眉をひそめた。



「……王妃陛下?数年前にお坊ちゃま相手に無礼を働いたセヴェランスの悪女ではありませんか」

「ああ……そうだな。だが、今日見た彼女はまるで別人のようだった」



彼女は忘れていたが、実はカルロスとマデリーンは三年ほど前に舞踏会で揉めたことがあった。

目を閉じれば、今も鮮明に思い出すことができる、あの日の記憶。



『―――ちょっと、あなた!自分の婚約者の手綱も握れないわけ!?』

『……何だ?』



ある日の舞踏会にて、カルロスは突然マデリーンに怒鳴られた。

当時、カルロスは伯爵家の令嬢と婚約していた。しかし、政略的なものでそこに愛などない。



相手の令嬢はカルロスではなく、王太子ヴィルヘルムを愛しており、彼の目の前でも堂々とアプローチをしていた。

カルロスは特に興味がなかったため、咎めることもせず、放置していた。婚約が継続されようが破棄されようが、彼にとってはどちらでもよかったからだ。



『彼女に押されたせいで、足を捻ったのよ!?あなたが注意しないからよ!』

『……』



カルロスは呆れたような目でマデリーンを見下ろした。

ヒールを脱いだ足は真っ赤に腫れ上がっている。



当時、カルロスはまだ若く捻くれていた。

自分に八つ当たりするマデリーンが煩わしくて、彼はつい侮辱的な言葉を口にしてしまった。



『―――自分の過去の悪事が返ってきたんだよ。叶わない相手に付きまとってないで、いい加減現実を見たらどうだ?』

『な……あなた……!』



その瞬間、マデリーンは顔を真っ赤にして持っていたワインをカルロスにぶちまけた。

頭から赤ワインをかぶったカルロスは、呆然とした。



『……』

『次そんなこと言ったらただじゃおかないわ!』



マデリーンはそのまま背を向けて去って行った。

気が強いように見えたが、その背中はとても弱々しく、泣いているようにも見えた。



その後、カルロスの婚約は破棄され、彼はフリーとなった。



「……何が彼女をそこまで変えたんだ?」



カルロスは馬車の中から移り行く外の景色を眺めながら、呟いた。




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