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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

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70/100

70 回復

媚薬を盛られてから数日、マデリーンはヴィルヘルムのベッドの上にいた。

医師の診察を受けた彼女は、しばらく公務や執務をせずに安静にしていた。



マデリーンに盛られたのはかなり強力な媚薬だったが、医師の尽力により後遺症などもなく、全快できた。

回復した彼女の元へ真っ先にお見舞いにやってきたのは、ダニエルだった。



「陛下、お元気ですか?」

「ええ、身体はだいぶマシになったわ」



ダニエルは持っていた見舞いの花を近くにあった棚の上に置いた。

ここ数日間治療に専念していたせいで、誰とも会っていなかった。久々によく知る人と話せたような気がして何だか嬉しい。



「ところで、アイラは大丈夫かしら?」



あの日、殴られて意識を失ったアイラのことが気がかりだった。

ダニエルはマデリーンを安心させるようにニッコリと笑った。



「ええ、そこまで致命傷ではありません。昨日からバリバリ王妃宮で働いているそうですよ。元々元気な女性ですし、心配する必要はないでしょう」

「そう……よかったわ」



マデリーンはアイラを運んでくれたダニエルに礼を言った。

大事な侍女が自分のせいで怪我をしたともなれば、胸が痛む。



あの日、アイラは身を挺してまでマデリーンを守ろうとしてくれた。

その結果、彼女まで怪我を負うことになってしまったのだ。



(大怪我をしていないようでよかった……)



アイラに何かあったら、マデリーンは一生後悔の念に苛まれるだろう。



「それと……あの騎士は、今どこにいるの?」

「……あぁ、あの男のことですか」



マデリーンは、ソフィアと共謀して自分を襲おうとした男について尋ねた。

聞いていいのか悩んだが、ダニエルは表情を変えなかった。



「少なくとも王宮にはいないですよ」

「そう……」



あのあと、ヴィルヘルムがすぐに一連の事態を処理したと聞いた。

しかし、男に対して彼が下した処遇までは知らなかった。



(王妃に手を出そうとしたんだから……死刑になってもおかしくはないわよね……)



ヴィルヘルムは冷たいが、誰彼構わず処刑するほど残酷な人ではなかった。

そんな彼の手で血が流れたかと思うと、いくら罪人とはいえ複雑な気持ちだった。



「陛下、あの男のことがそんなに気になるのですか?」

「いや、ただ……どんなふうに処罰がされたのか、何も聞いていないから」



媚薬を飲まされたあの日から、ヴィルヘルムには一度も会っていなかった。

マデリーンにベッドを使わせている彼がどこで寝ているのかすら知らない。



ダニエルは考え込むマデリーンに何を感じたのか、口を開いた。



「――国王陛下が、王妃陛下に手を出そうとした男をただで済ませるとお思いですか?」

「……それは一体どういう」



マデリーンは驚いて顔を上げた。

その様子だと、本当に気付いていなかったのか。てっきり既に気持ちを伝えたあとだと思っていたダニエルは、少し驚いた。

そう、ヴィルヘルムは恋愛には意外と奥手だった。



マデリーンは本当に何もわかっていないという様子で、きょとんと首をかしげた。

そんな彼女に、ダニエルはなかなか難しい恋になりそうだと察した。



赤の他人から本人に気持ちを伝えることは簡単だが、それでは意味がない。

何より、ヴィルヘルムは侍従の手助けなんて望んでいないだろう。主君の意に反することを、彼はもちろんしない。



「私から言えることは他に何もありません。ただ……当たり前ですが、陛下の行動には全て意味があります。そのことを忘れないでいただきたいのです」

「オーウェン卿」



ダニエルはベッドに座るマデリーンに一礼したあと、そのまま部屋を出て行った。

彼がいなくなった室内で、マデリーンは一人ポツリと呟いた。



「私、どうしちゃったのかしら……」



唇に手を触れると、自然とあの夜のことが蘇る。

最後まではいかなかったが、初めて夫であるヴィルヘルムと口づけを交わした。



深い夜、真っ暗な闇夜の中で彼はマデリーンを熱のこもった目で見下ろしていた。

口内に入り込んだ彼の熱い舌も、首の後ろを掴んで引き寄せる手も、よく覚えている。忘れられるはずがなかった。



(変ね……そのあとは記憶が曖昧だというのに、どうしてあのキスのことだけはハッキリと覚えているのかしら)



初めてのキス――ファーストキスというものは、それほど印象に残るものだということだろうか。



『当たり前ですが、陛下の行動には全て意味があります。そのことを忘れないでいただきたいのです』



ふと、先ほどダニエルに言われた言葉が頭をよぎった。

意味もなく、マデリーンに口づけなどしないということだろうか。



しばらくの間考えて浮かんだのは、彼に対するある疑念。

とても信じられないことだが、それ以外にはあり得なかった。



「……一度、陛下にお会いしましょう」



どれだけ考えたところで、本人の口から直接聞かない限りは確信など持てないものだ。

マデリーンはヴィルヘルムに会うことを決め、着替えて部屋を出た。




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