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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

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69 熱い夜

マデリーンはヴィルヘルムに抱きかかえられたまま、彼の部屋へと入った。

つい先日、来たばかりの場所。マデリーンは眩暈を覚えながらも、彼の腕の中でじっとしていた。



(プレゼントが山積みになっているわ……)



部屋の隅には誕生日に贈られたのであろうプレゼントの箱が大量に積まれていた。

しかし、どれも開封されていない。唯一開けられていたのは――



(私が……あげたやつ……)



たくさんの贈り物の中でも、一番小さな箱に入れられていたマデリーンのプレゼントだけが、唯一開封されていた。

しかも彼女が選んだラッピングまで丁寧に保管している始末である。



どうして、という疑問に頭に浮かぶが、今はそれどころではなかった。

先ほどよりもずっと身体が熱くなっている。



マデリーンは突然身体を放り投げられたかと思うと、ベッドに寝かされていた。



「……」



キングサイズの真っ黒な、フカフカのベッド。

ヴィルヘルムが側妃ソフィアのところへ行かないとき、いつも寝ている場所だ。



マデリーンはベッドに沈みながら、深呼吸を繰り返した。

しかし、媚薬のせいで荒い息はいつまでたっても収まらない。



――それからすぐに、ベッドがギシリと音を立てて沈み込んだ。

驚いて顔を上げると、黒い二つの瞳がこちらを見下ろしていた。



「へ、陛下……」



彼女に覆いかぶさって頭の横に手を付いたのは、ヴィルヘルムだった。

当然だ、彼以外にこんなことができる人間はいない。



(ちょ、ちょっと待って……私、陛下に抱かれるの……?)



マデリーンは理解が追い付いていなかった。

ヴィルヘルムが彼女を抱いたことは、三十年以上にも及ぶ結婚生活で一度もない。

彼は彼女を嫌悪し、指一本触れようとはしなかった。



他の男に抱かれたいと言ったのは彼女の願いではなく、彼の気持ちに配慮してのことだった。

しかし、いくら嫌っている妻とはいえ、他の男を選ばれたら誰でも不快に感じてしまうのだろうか。

薬のせいで、マデリーンはそこまで考えている余裕がなかった。



「マデリーン……」



考え込んでいるうちにも、ヴィルヘルムは彼女に顔を近づけてくる。

気付けば腕をベッドに縫い付けられ、マデリーンは身動きが取れなかった。



抵抗しようと身体を動かしても、力が入らない。入ったとしても、男相手に敵うはずがない。



気のせいか、触れる手がとても熱を持っているように感じられる。

鼻先がぶつかりそうなほどに近づくと、彼は彼女と額をコツンと重ね合わせた。



ヴィルヘルムの夜空のような黒い髪がおでこに当たる。

こんなにも至近距離で見つめ合ったのは、当然、初めてだった。



ヴィルヘルムは一息吐くと、そのままマデリーンと唇を重ねた。

マデリーンにとって、初めてのキスだった。



マデリーンの手を離した彼は、彼女の後頭部を掴んで引き寄せた。

そのまま、息もできないような激しい口づけが続く。



「んっ……」



媚薬の影響で、マデリーンは自然と彼の背中に手を回していた。

そのことに、ヴィルヘルムは僅かに嬉しそうな笑みを漏らした。しばらくして唇を離すと、彼が幸せそうに微笑んだ。



彼の唇が下に移り、首筋がくすぐったくなる。

服の中に熱い手が入り込んだ。



幸せそうな笑顔のまま、彼はマデリーンと額を合わせた。



「愛している、マデリーン。この世界の誰よりも」

「……」



今、愛していると言ったような気がしたが気のせいだろうか。

薬のせいで、幻聴を聞いているのかもしれない。



今のヴィルヘルムは前世とは違って、マデリーンを心から愛している。

そして、マデリーンも媚薬を飲まされているせいで、彼を受け入れ始めていた。この状況であれば、きっと彼らは本当の意味で夫婦となるだろう。



しかし、それを止めたのはほかでもないヴィルヘルムだった。

彼はマデリーンをギュッと抱きしめると、突然身体を離した。



そのままベッドから立ち上がり、横たわる彼女に背を向けた。

どこへ行くんだろうと不思議そうに見つめていると、彼は振り向くことなく淡々と告げた。



「これ以上やったら、おそらく後悔するだろう……お前も、俺も」

「…………陛下?」



きっと後悔する――なぜか、彼のその一言がとても切なく感じられた。

ヴィルヘルムは自分の感情を押し殺し、マデリーンのことを慮って身を引いた。思いが通じていない女性と行為をするのは、凌辱とさほど変わりはないのだから。



ただ、悔しかった。

他の男に抱かれたいと言われたことも、レスティンブルク大公の息子を選ばれたことも。

彼女にとっての男が誰なのか、彼女は誰の妻なのかを知らしめてやりたかった。そのような独占欲ゆえの行動だった。



しかし、その先まで強要する自信は彼にはなかった。



「俺は出て行くから、お前は治療を受けろ」

「陛下……」



彼は部屋を出る前に、一度だけマデリーンを振り返った。

最後に向けられたヴィルヘルムの瞳は、なぜかとても寂しそうだった。

彼女は呆然としたまま、彼が去っていく姿を見つめていた。



――その瞳を見ていると、不思議と彼女までも悲しい気持ちになってしまった。



それからすぐ、入れ違いで王宮の医師が部屋へやってきた。

マデリーンは適切な治療を受け、数日後に回復した。




読んでくださってありがとうございます!


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