↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/100

68 甘い誘惑

倒れる侍女と、騎士の男に腕を引かれるマデリーン。

あまりにも異様な光景に、ヴィルヘルムは異常事態が起きていることを察したようだった。



「なぜ、陛下が……今日は部屋から出ないはずだと聞いてたのに……」



男が小声で呟いた。

ヴィルヘルムには到底届かない声だが、すぐ横にいたマデリーンにはハッキリと聞き取れた。



彼女も同じように、驚きを隠せなかった。

前世でも、彼は誕生日当日は必ずと言っていいほど部屋から出なかった。

ソフィアもそのことを知っていたから、今回の一件を仕組んだのだろう。



マデリーンを掴む男の腕に、力が込められた。

元々力が強いこともあり、マデリーンは僅かに顔を歪ませた。

そんな彼女の変化に、ヴィルヘルムも気付いたのだろう。



「それより……」



彼は革靴の音を鳴らしながらゆっくりと近づくと、腰に差していた剣を抜いた。

あまりのスピードに、目で追うこともできなかった。

気が付いたときには、ヴィルヘルムが男の腕に刃を突き付けていた。



「―――お前は、その右腕を切り落とされたいのか?」

「ヒ、ヒィ……!」



マデリーンを掴む男の腕が、ピクピクと小刻みに震え始めた。

あとほんの少し、ヴィルヘルムが腕を動かせば男の腕は本当に切り落とされてしまうだろう。



「誰の身体に触っているんだ、さっさと手を離さないか」

「は、はい!」



恐怖で動けなくなった男に、ヴィルヘルムは殺気を放ちながら二度目の警告をした。

男は慌ててマデリーンからその手を離した。

しかし、それでヴィルヘルムの怒りが収まったわけではない。



「――ダニエル」

「はい、陛下」



ヴィルヘルムの声で、闇夜の中からダニエルが姿を現わした。



「そこにいる侍女を、医者に連れて行ってやってくれ」

「承知致しました」



彼は倒れているアイラを軽々と抱き上げると、そそくさと立ち去って行った。

アイラがいなくなった安堵感のせいか、マデリーンの身体から力が抜けた。



(マズい……意識を保っているのも難しい……)



それと同時に、媚薬の症状がより強く現れるようになった。

息の荒いマデリーンに、ヴィルヘルムは異変を感じたようだった。



「マデリーン、どうかしたのか?」

「……いえ、何でもありません」



媚薬のことがヴィルヘルムにバレないよう、彼女は平静を装って首を横に振った。

しかし、真っ赤な顔に荒い息遣い。明らかに普段とは違う彼女の様子に、隠すのも限界だった。



そのとき、彼女はゆっくりと前に倒れた。



「――マデリーン!」

「ギャッ!」



ヴィルヘルムは男を突き飛ばし、倒れ込むマデリーンを受け止めた。

彼の攻撃を腹に受け、男は床に倒れて意識を失った。



「マデリーン、どうした?一体何が起きているというんだ……」

「へ、陛下……」



ヴィルヘルムに抱き留められ、マデリーンはもはや正気ではいられなかった。

身体が燃えるように熱い。その手が触れるたびに、彼女を狂わせる。



私はこんな恐ろしいものを、かつてヴィルヘルムに盛ろうとしていたのか。

マデリーンは激しい後悔に苛まれた。

そうしているうちに、ヴィルヘルムもマデリーンを蝕むものの正体に気付いたようだった。



「もしかして……この症状は……」



マデリーンを抱く彼の腕に、力が入る。

華奢な身体が、彼の大きな肉体に包まれた。



(この香り……私があげた薔薇の香水……)



ヴィルヘルムはマデリーンのプレゼントした薔薇の香水を身につけていた。

今日贈ったばかりだというのに、こんなにも早くつけてくれるとは、マデリーン自身も少し驚いた。



「へ、陛下……」

「マデリーン……」



顔を上げたマデリーンは、上目遣いで目に涙を溜めながらヴィルヘルムを見つめた。

いつもの冷静な彼女からは想像もつかないその姿に、彼の心が乱された。



言葉にならないほどの欲望が腹の奥から湧き上がり、彼は理性を保てなくなりそうだった。

しかし、マデリーンは彼にそうされることなど望んでいない。ヴィルヘルムは何とか、自身の熱を抑え込んだ。



一方のマデリーンは、もはや我慢することができなかった。

彼女はヴィルヘルムの白いシャツを両手でギュッと握った。そして、何かをねだるように彼を見上げた。



「陛下……お願いがあって……」

「……どうした?マデリーン」



そんな彼女に、ヴィルヘルムの抑え込んでいた熱が再び湧き上がった。

マデリーンを前にこんな気持ちになるとは、彼自身も驚いていた。



彼女は一体何をお願いするつもりなのだろうか。

ずるいじゃないか、こんな状況で頼まれたら断れるわけがない。



そう思っていたヴィルヘルムだったが、マデリーンは予想外のことを口にした。



「――今だけ、一度だけ……他の男の人に抱かれてもいいですか?」

「……」



私もう耐えられない――とマデリーンの身体が震え始めた。



妻が夫にする頼みとしては、前代未聞だった。

マデリーンからしたら、三十年放置したヴィルヘルムが自分を抱くわけがないという気持ちからそう言ったのだろう。



しかし、僅かにお決まりの展開を期待していた彼は、落胆よりも激しい怒りを覚えた。

マデリーンが他の男に抱かれることを想像しただけでも、どうにかなりそうだった。



「…………そういえば、あのときも言っていたな。俺よりレスティンブルクに抱かれたいと」

「陛下?」



小声で呟かれたその声は、彼女には届いていなかった。



「――キャアッ!」



突然、ヴィルヘルムがマデリーンの身体を抱き上げた。

彼女は慌てて彼の首に腕を回し、しがみついた。そのままヴィルヘルムは早足で歩き出した。



「ど、どこに行くんですか……?」

「決まってるだろう……?」



ヴィルヘルムはマデリーンを見下ろし、ニヤリと口角を上げた。



「――俺の部屋に行く」




読んでくださってありがとうございます!


ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。