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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

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64 支援活動

「――みなさーん!今日も元気ですかー!」

「イエーイ!」



パチパチと、室内に拍手が湧き上がる。

あちこちから上がる明るい返事に、マデリーンはニッコリと笑った。



(相変わらず元気な人たちね、彼らを見ていると私まで明るい気持ちになるわ)



マデリーンが今いるのは、パンを作る製造工場だった。

この工場では、一般就労を目指して就職活動を行っている者たちが働いている。

賃金はそれほど高くはないが、彼らが仕事を見つけるまでの大事な職場だ。丹精込めて作ったパンを売ることで、彼らの給料を捻出している。



社会経験もできるし、人間関係を築くことの大切さも学べる。



マデリーンはこのような場所がもっと増えたらいいなと、心の中で思った。



「マリーさん、最近ちょっと嬉しいことがあったんです」

「あら、どうかしたんですか?」



嬉々としてマデリーンに声をかけたのは、戦争で片腕を失った元兵士だった。

彼もまた、現在就活中である。



「実は、新しく仕事が決まったんです。兵士としてはもう働けないんですけど……事務として、雇ってもらえることになりました」

「あらぁ、おめでとうございます!お祝いをしないといけませんね」



彼は照れくさそうに頭を掻きながら笑った。

マデリーンよりも少し年上の彼は、先の戦争で片腕を失った。退役した後は自暴自棄になっていたと聞くが、支援を受けて一般就労を成し遂げるまでに至った。



(お祝いとして、ケーキでも買ってあげよう)



ここにいるのは、貧民街の出身で犯罪歴があったり、一般就労が困難な者たちが多い。

そんな彼らが生きるために努力している姿は胸を打たれるし、職を見つけるとマデリーンは自分のことのように喜んだ。



マデリーンは週に二、三回ほど身分を隠してこの場所を訪れている。

彼らの作ったパンを何個か購入しては、使用人たちにあげたりしていた。美味しいうえに、値段が安い。王都では評判で、早めに行かないといつも売り切れてしまうほどの人気っぷりである。



「今日は何のパンを作っているの?」

「ミルクロールパンです、とっても美味しいですよ」



食いしん坊なマデリーンは、まだ生地の状態であるにもかかわらず腹を鳴らした。

貴族たちの前だと恥ずかしくてたまらないという状況だが、彼らの前だと笑って済ませられる。



マデリーンの仕事は主に彼らの作業のサポートをすることである。



「わぁ、とっても上手にできているわ。前に比べて上達したわね」

「ありがとうございます、マリーさん」



褒められて嬉しそうに笑う彼に、マデリーンは手のひらを彼に向けるように腕を持ち上げた。

困惑する彼に、マデリーンは小声で手合わせて!と囁いた。



パンッ――という音と共に、二人の手のひらがぶつかった。



「みんな、そろそろ昼休憩にしましょう。お弁当があるから、一緒に食べよう」

「はーい」



この工場では、基本的に一日八時間、週に五日の勤務となる。

前世のマデリーンは一日に数時間、日によってはやることがなくて何もしないときすらあった。



(一日八時間働くとか、前世の私ならあり得ないことね)



同年代の夫人たちは子育てで忙しくしている中、彼女だけはいつも暇を持て余していた。

そして時間さえあれば、どうやったらヴィルヘルムに振り向いてもらえるかばかりを考えていたのである。



マデリーンは休憩中の彼らに、用意されたランチボックスを一人ずつ配り始めた。

今日はサンドイッチの詰め合わせに、スープが提供された。



「働いたあとのご飯は美味しいです」

「そうね……私も最近になってその美味しさに気が付いたわ」



マデリーンは食事中の労働者たちの元を回った。

彼らとコミュニケーションを取ることもまた、大切なことだった。普段誰かに言えない悩みの相談に乗るのも、マデリーンの役目だった。



「イライラするとすぐに荒い口調になってしまうんです……前の仕事場でも、仕事をせずに喋ってばっかのヤツに対して必要以上に怒っちゃって……いつの間にか孤立してしまいました」

「そうねぇ、気持ちはわかるわ。そういう人たちを見ると私もイラッとしてしまうもの」



真面目に働いている者からしたら、仕事をサボる人間を見るとムカつくのは当然だろう。

彼らは全員、同じ給料で仕事をしているのだから。



「だけど、そんな人たちのために自分が仕事を辞めないといけないって思うと悔しくない?」

「悔しいです、すっごく」



彼はサンドイッチを食べながら、拳を握りしめた。

マデリーンはいきなり責めるようなこともせず、必ず相手の立場になって物事を考え、理解を示す。



「よかったら、感情をコントロールできるようになる方法を教えましょう。私も最近本で知ったんだけどね……だいぶ心が楽になるはずよ」

「ほ、本当ですか?ありがとうございます、マリーさん!」



彼はマデリーンの手を両手で握り、深い感謝を伝えた。





読んでくださってありがとうございます!


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