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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

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63 側妃の企み

その頃、ソフィアは侍女からの緊急報告を受けていた。

彼女は眉をひそめ、厳しく侍女を問い質した。



「……王妃宮の様子がわからないとは、一体どういうこと?」

「そ、それが……花の中に仕掛けておいた盗聴の魔道具が、いつの間にか処分されておりまして」

「……まさか、盗聴に気付いたとでもいうの?」



ソフィアは驚きで目を見張った。

恋に溺れた愚かなマデリーンが、そんな些細な変化に気付くだなんて。



ソフィアはいつもマデリーンを心の中で見下していた。

愛されないお飾りの王妃、子も産めない女。ソフィアだけではない、社交界の貴族たちは彼女をそう呼んでは嘲笑った。



しかし、ソフィアにとって予想外の出来事が起きてしまった。



「困ったわね……王妃宮の様子がわからないんじゃ、この先動きにくくなってしまうわ……」

「側妃様……」



マデリーンがつい先日処分したあの花には、実は盗聴の魔道具が仕掛けられていた。

ソフィアは人々が寝静まった夜を狙い、自身の息のかかった侍女を王妃宮に送り込んだ。

花を違和感のないところに飾っておくよう、命じていたのである。



絶対にバレないと思っていたソフィアだったが、仕掛けてから僅か数日で花は処分されてしまった。

マデリーンが気付いたのか、それとも別の誰かが気付いたのかはわからない。



「もう一度、仕掛けましょうか?今度は絶対にバレないように……」

「……いいえ、二度は危ないわ。花を処分したということは、違和感に気付いているはず。こちらに疑いの目が向いたら終わりよ」



ソフィアは悪知恵の働く女だった。

いつも自分に疑いが向かないギリギリのところを攻めていた。



「側妃様……王妃陛下をいつまで好き勝手させているおつもりですか?」

「わかっているわ、あの女にはきちんと身の程をわからせる気よ」



ソフィアは膨らんだ腹に手を置いて決意を固めた。

侍女や一部の令嬢たちがソフィアを慕っているのは、まさに腹にいる王家の子が理由である。



(王家の血を引くこの子を産んで、私が彼の正妻になる。後宮に上がったときから……いいえ、最初からそう決めていたんだから)



彼女はここに来るまでの経緯――過去を思い浮かべた。



―――ソフィア・シェルドン男爵令嬢。

元シェルドン男爵家の庶子であり、ヴィルヘルムの側妃。

平民で側室となったヴィルヘルムの母には敵わないが、男爵令嬢が側妃になるケースはかなり珍しい。



ソフィアは男爵令嬢として初めて訪れた王宮の舞踏会で、当時王太子だったヴィルヘルムと出会った。

初めて彼の姿を目にしたとき、彼女は驚きのあまり石のように固まってしまった。



『なんて美しいの……!あんなにも素敵な方がこの世に存在していたのね……!』



黒い髪に黒い瞳を持った彼は、舞踏会に招待された他の誰よりも美しかった。

物語に出てくる王子のような美貌に、ソフィアは一瞬でヴィルヘルムの虜になってしまった。



彼女は元々シェルドン男爵家の侍女だった母が亡くなり、父親に引き取られた。

義母や義兄は明らかに彼女を毛嫌いしており、父も無関心。虐められることはなかったが、いてもいなくても変わらない、空気のような存在だった。



そんなつまらない日常を一変させてくれたのが、ヴィルヘルムとの出会いだった。

彼と話しているときだけは、まるで自分がこの世界のお姫様になったかのような気分でいられた。



――絶対に彼の妻になる、どんな手を使ってでも。

ソフィアはそう心に誓い、見事願いは叶ってヴィルヘルムの側妃となった。



側妃になるために一体どんな手を使ったのかって?

それは内緒。もし言えば、国中から大バッシングを受けることになるだろう。



セヴェランス公爵家の令嬢マデリーンとは、結婚前から何かと争っていた。

彼女もまた、ソフィアと同じくヴィルヘルムの本妻の座を狙っていたうちの一人だった。



ヴィルヘルムに毛嫌いされているにもかかわらず、高い身分と教養から最有力候補とまで言われていたマデリーン。

そんな彼女に追い出されるような形で、ソフィアはみすみす王妃の座を逃した。



しかし、その後彼女は返り咲き、彼の側室となった。

マデリーンの悔しがる顔を見るたびに、ソフィアの心は満たされた。



しかし、それも一ヵ月前までの話だった。



最近になってマデリーンは変わったようだった。

ヴィルヘルム関連のことで醜く嫉妬することもなければ、周囲に八つ当たりするようなこともしない。

一体何が起きているのか、ソフィアはずっと不思議に思っていた。



しかし、本人に直接聞けるほどの仲の良さでもなく、彼女はただ様子を窺うことしかできなかった。



『――まるで、側妃になる前から子供がいたみたい』



お茶会でマデリーンに言われた言葉が頭をよぎった。

いくら何でも調子に乗りすぎではないのか。あの一言を思い出し、ソフィアの機嫌は最悪になった。



「そうだわ……私、とっても良いことを思い付いちゃった……」

「……側妃様?」



ニヤリと口角を上げたソフィアは、侍女にあるものを準備するよう命じた――




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