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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

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61 先代王妃の真実

翌日、マデリーンは王宮の禁書庫を訪れていた。

彼女はその中にある一冊の本をパタリと閉じ、呟いた。



「先代王妃エステラについての記録がほとんど残されていない……完全に罪人として処分されてしまったのね」



大罪を犯し、廃位されてしまった王妃の記録は全て処分されるのが普通だ。

エステラも例に漏れず、肖像画もほとんどが燃やされてしまったようだった。



「ここなら、何か手がかりを得られると思っていたけれど……」



マデリーンは諦めたように外に出た。

陛下と実母の側妃、義母の王妃について調べようと思ったが、一筋縄ではいかなかった。



しかし、彼女はまだ完全に諦めてはいなかった。

マデリーンは本宮に勤めるベテランの執事長を呼び寄せた。

侍女長のケイトと同期の彼は、勤続三十年を超える大ベテランだった。



ヴィルヘルムが生まれる前から王宮に仕える彼ならば、マデリーンの知りたいことを知っている可能性が高い。



「――エステラ先代王妃について聞きたいんだけど……」

「陛下……」



その問いに、執事長は動揺した。

やはり、エステラ先代王妃に関することはタブーなのだろう。

悩みながらも、彼は口を開いた。



「……先王陛下との関係に悩んでおられました。優しい方でしたが、ヴィルヘルム陛下が生まれてからは変わってしまって……」



先代王妃エステラは最初こそ、穏やかで優しい人だった。

しかし、女好きな夫に悩まされ、彼女は常に心が不安定だった。王は彼女が不妊だと知ると、後宮に多くの女を囲うようになった。

彼女の王妃としてのプライドはズタズタになり、一人寂しく王妃宮で過ごさなければならなかった。



そんな中で、エステラを支えたのがまさにヴィルヘルムの実母である側妃だった。

当時王宮の下女だった彼は、子を産めない彼女を励まし、誰もが馬鹿にする中で傍を守り続けた。

そんな彼女をエステラも気に入り、両親と共に暮らす家をプレゼントしたり、ドレスや装飾品類を買い与えていたという。



エステラは知らなかった。

彼女が純粋な善意ではなく、打算的に彼女に近づいていたことを。



側妃は野心の強い人だった。

彼女は頭を使って王妃のお気に入りとなったが、さらなる高い地位と権力を欲しがっていた。



そんな側妃が次に目を付けたのが、子宝に恵まれないこの国の最高権力者だった。

王妃が不妊だと知ってから彼は多くの女と関係を持っていたが、それでも一向に女たちは懐妊しなかった。

そのうちの一人がようやく妊娠したと思ったら、生まれたのは別の男の子。王は失望と怒りから愛人を処刑した。



心が荒んでいた彼に、側妃は巧みに近づいた。

彼女は国王を誘惑し、念願の子を腹に宿した。



『この子が私を……私の世界をより良いものへと導いてくれるわ……!』



最後の最後まで欲にまみれたまま、側妃は出産と同時に亡くなった。

一方で彼女の裏切りを知った王妃は絶望し、巨大な憎悪で正気を保つことができず、生まれたヴィルヘルムを虐待し続けた。



もしも、ヴィルヘルムの母親が彼女でなかったとしたら。

そこまで残酷な仕打ちは行われなかったかもしれない。



(ヴィルヘルムが女性を嫌悪しているのは……もしかすると、生前の実母の行いも原因だったのかもしれないわね)



だから、前世で悪に染まったマデリーンをどうしても愛せなかったのかもしれない。



「教えてくれてありがとう」

「いえ……王妃陛下であれば、国王陛下も何も言われないかと。そう判断したまでです」



初めて知ったヴィルヘルムの暗い過去。

マデリーンも複雑な家庭で生まれたが、彼のほうがずっとずっと酷い境遇だった。



昨夜見た彼の姿が、今でも脳裏にこびりついている。

自身を苦しめた虐待の原因が生みの母だというのだから、複雑だろう。



しかし、無関係な子に見当違いな憎しみを向けて虐待したエステラが最も悪いのはたしかだ。

ただ、自分にできるのは、今までと変わらずヴィルヘルムに接することだけである。






***





数日後、とうとう薔薇の香水が完成した。

マデリーンは作った液体を綺麗なガラスの香水瓶に移し替えた。



「やっとできたわ……!なかなかうまくいけてるんじゃない!?」



ちょうど、ヴィルヘルムの誕生日まで一週間を切っていた。

毎年パーティーこそ行われないが、貴族たちは当然、誕生日を迎えた彼にプレゼントを贈る。



「作り終わったら、包装をしなければいけませんね」

「そうね……とびきり素敵なラッピングをしないと」



もうすぐ訪れる彼の誕生日は、実母の命日でもある。

香りの良い香水は、きっと彼の暗い気持ちを明るくさせてくれるのではないだろうか。確信はできなかったけれど、そうなりますようにという願いを込めて。



(陛下の気持ちが、ほんの少しでも楽になるといいな)



そんな期待を胸に、マデリーンは香水をプレゼントボックスに閉まった。




読んでくださってありがとうございます!


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