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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

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59 王家の闇

外に出たマデリーンは、適当に王宮の敷地内を歩いた。

本来なら寝る時間だが、そうでもしなければなぜか落ち着かなかった。



「わぁ、星が綺麗だわ……!」



夜空に浮かぶ星を見ているうちに、彼女はとある場所まで来ていた。

そのことに気が付いたのは、到着してからだった。



「あら、ここってたしか……」



――そこは、かつてヴィルヘルムの母親が暮らしていた側妃宮だった。



王の妃が住んでいたとは思えないほどに、寂れた宮殿。

マデリーンも存在だけは知っていたものの、一度も訪れたことはなかった。

息子であるヴィルヘルムですら近づかないような場所だったが、侍女たちによる宮内の手入れだけは今でもされているようだ。



入ってはいけないなんて規則はないが、マデリーンはある理由の下、自ら行こうとはならなかった。

――ヴィルヘルムは普段、実母の話を一切しない。



彼の実の母親については、もはや王宮ではタブーとなっていた。

マデリーンはそのことをわかっていながらも、好奇心を抑えられなかった。

気付けば宮殿に足を踏み入れ、そのまま側妃が暮らしていた部屋に入っていた。



「時間が経っていても……中は当時と変わっていないようね……」



生活感のある部屋が視界に入った。

ヴィルヘルムの出産と同時に亡くなってしまった側妃は、かつてこの部屋で暮らしていた。



(彼女は一体……どんな気持ちを抱いてここで過ごしていたのかしら……)



しばらく側妃の部屋の中を歩き回ったマデリーンは、棚の上に一輪の花が置かれていることに気が付いた。

死者を弔う意味を持つ、百合の花。真っ白で清楚な花は、殺風景な室内によく似合っていた。



今は亡き側妃を弔いに、誰かがこの場所へ来ているのだろうか。

マデリーンは興味本位で、棚の引き出しを開けた。三つあるうちの一番下の引き出しだけ、引いたときずっしりと重かった。

どうやら何かが入っているようだ。



「………………手紙?」



中に入っていたのは、大量の手紙だった。

数はかなりあるが、封筒の種類や大きさは全て同じ。つまり、同じ人物から送られたものということだ。



(何か嫌なこと思い出しちゃった……)



こんなにもたくさんの手紙を見ると、かつてヴィルヘルムに送った千通の手紙のことが蘇る。

忘れたい記憶ほど頭に残り続けるというのは本当のようだ。



(……誰もいないし、少しくらいいいかしら)



他人に送られた手紙を勝手に読むなど倫理に反することだが、マデリーンの手は勝手に動いていた。

彼女は束になってまとめられていた複数の手紙のうち一通を取り出し、中を開けた。



真っ白な便箋を取り出すと、そこに書かれていた文面を目で追った。



「そ、そんな……嘘よ……一体誰がこんなもの……」



かなり昔、側妃に宛てられたであろうその手紙は、所々に汚れがついていた。

しかしそれでも、文字はハッキリと読み取ることができる。



『――あなたを来世でも呪う』



物騒な言葉が、赤いインクのペンでハッキリと書かれている。



『――あなたの腹から生まれたその子供は巨大な苦痛の中で生き続けるでしょう』



便箋は合計で五枚も封筒に入っていた。

長々と彼女への憎悪が荒く捻くれた文字で永遠と綴られ、最後には差出人の名前が記載されていた。

外の封書には書かれていなかった、送り主。



「な……どういうこと……?」



見覚えのあるその名前に、マデリーンは絶句した。

たしかにそこには書かれていた――――エステラ・ルバーニと。



「どうして……先代の王妃陛下が側妃様にこんな内容の手紙を……!?」



――エステラとは、ヴィルヘルムの義母である先代王妃の名だった。



エステラ・ルバーニ先代王妃陛下は、美しく慈愛に満ちた聖母のような女性として広く知られていた。

彼女は身分で人々を差別することなく、王妃だからと強引に権力を振りかざすようなこともしない。

まさに才色兼備で、歴代王妃の中でも最も人として優れた人物とまで言われていたほどだった。



そんな彼女が、いくら手紙とはいえ、このような言葉をいくつも並べ立てるとは信じられなかった。



そして、さらにもう一つ。



「……どうして、こんなものが」



さらに奥に入っていたのは、拷問などで使われる鞭だった。至るところに血が付着しており、誰かに使用された後であることが明らかだった。



もしかして、いや、でもそんなことってありえるのか。

考えられる可能性はいくつかあるが、理解が追い付かなかった。



何だか見てはいけないものを見てしまったような気がして、マデリーンは慌てて手紙を引き出しの中に戻した。

そしてそのまま、彼女は側妃宮を出た。



早く王妃宮に戻らないとと思っていたマデリーンだが、出てすぐある人物と遭遇してしまった。



「へ、陛下……」

「………マデリーン?」



どうして、こんなときに限って彼がここにいるの。

側妃宮の外で出くわしたのは、ヴィルヘルムだった―――



「……陛下」

「………マデリーン、なぜお前がここに?」



ヴィルヘルムは後ろにそびえ立つ寂れた宮殿に視線を送り、彼女に尋ねた。



(どうしよう……何て言えば……?)



マデリーンは窮地に立たされたのだった。




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