↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/100

58 眠れない夜

それからというもの、マデリーンは伯爵夫人から貰った紙の手順通りに、香水の製作を進めた。

彼女は今、木製のヘラを使って薔薇の花びらを潰していた。



「瓶の中で花を潰すだなんて……香水を作るためとはいえちょっと抵抗あるかも……」



大切に育てた花を靴で踏んでいるような気分だ。

しかし、ヴィルヘルムにプレゼントする香水を完成させるためには仕方がない。



大事なのは、気持ち。

心を込めて作れば、きっと彼も受け取ってくれるのではないだろうか。



以前のヴィルヘルムならともかく、今の彼ならば不思議とそう思えた。

愛し合う関係ではなくとも、お互いにとって親友のような存在になれるのではないだろうか。



「親友って響き、なんか良いわね!?私にはそういうのあまりいなかったし……」



マデリーンは未だ、ヴィルヘルムの本当の気持ちに気付いていなかった。

恋愛経験が少なく、鈍い彼女は、彼が伝えない限りは気付かないだろう。



薔薇の花びらを潰し終えたマデリーンは、フゥと一息ついた。



「良いものができるといいな……」



彼女はそう願いながら、新たに手を加えた瓶の蓋を閉めた。

夜遅かったこともあり、作業を終えたマデリーンはベッドに入って目を閉じた。



「……」



必死で眠ろうとするが、一向に睡魔はやってこない。

そのまま一時間が経過した。どれだけ頑張っても、なぜか今日に限って睡魔は訪れなかった。



「……眠れない」



ベッドから起き上がったマデリーンは、寝るのを諦めて外へ出た。






***






その頃、ヴィルヘルムは暗闇の中で一人ボーッとしていた。

自室にあるベッドの上に座っていた彼は、虚ろな目でただじっとしていた。



ここ数日執務をこなしてばかりいたせいか、疲れが溜まっていた。

しかし、寝れる気がしない。真っ暗な部屋の中では、物の位置も正確にわからない。



「……」



王宮にいる一部の人間しか知らないことだが、ヴィルヘルムは不眠症だった。

王国でも名の知れた名医を呼ぼうが、どれほど優れた薬を飲もうが、彼の不眠症が治ることはなかった。



しかし、それでも最近はかなりマシになっていた。

理由はマデリーンから貰ったアロマオイル。良い香りで、不眠が続いていたヴィルヘルムを安眠へと導いた。

マデリーンからのプレゼントということもあるのだろう。



彼はアロマオイルの横に生けられた黄色い薔薇の花をじっと見つめた。

それは、つい最近新たにマデリーンから特別にプレゼントされたものだった。



――『愛情の薄らぎ』



黄色い薔薇は赤い薔薇と違って暗い意味を持っていた。

博識なマデリーンが、そのことを知らないはずがなかった。

もしかすると、不眠症が再発したのはあの薔薇を贈られたせいかもしれない。



しかし、今までの自分の行動を思えば、彼女を責めることなどできなかった。

あのような仕打ちを受ければ、愛情が薄らぐのも当然。何だかマデリーンに引導を渡されたような気がした。



(……こんな夜は、幼い頃に先代王妃から虐待されたときのことを思い出すな)



先代の王妃は、いつも見えないところで彼を虐待していた。

最も多いのは人々が寝静まった夜だった。先王が後宮へ行くと、彼女は必ずと言っていいほどヴィルヘルムを虐待した。



父が女遊びを繰り返している裏で、彼は一人巨大な苦痛に耐えなければならなかった。

とても、幼い子供にするとは思えないような仕打ち。全てが終わった頃には、彼はいつも全身がアザだらけになっていた。



ヴィルヘルムは死にたかったが、死ぬ勇気がなかった。

ただ、毎日のように自分が死ぬことだけを考えていた。勇気も出ないくせに、彼は自身を臆病者だと嘲笑った。



ヴィルヘルムが十五歳になった頃、先代の王妃は処刑された。

たった一人の息子の名誉を守るためか、彼女の犯した罪は公表されなかった。事故で亡くなったとのみ発表され、先代王妃の本性は一般的には知られていない。



幼少期の記憶をしばらく思い浮かべていた彼は、ふと部屋に置かれていた肖像画に目を向けた。

かなり昔に描かれた一枚の絵には、彼にそっくりな女性が映っていた。



損傷が激しく、額縁の一部は割れてしまってヒビが入っている。

そう、肖像画に描かれていたのは彼の実の母親だった。



ヴィルヘルムが生まれてからすぐに亡くなってしまった、元々王宮の下女だった平民の女性。

平民から国王の妃になるというシンデレラストーリーで知られる、彼の実母。

だが、実はそれほど羨ましがられることではないと、ヴィルヘルムは感じていた。



実母のことを考えると、彼はどうしても暗い気持ちになった。

かつては自分と同じ傲慢な父の犠牲者だと思っていた、実の母。しかし、それは彼の勘違いだった。



実母がどのような罪を犯したのか、複雑だった国王や王妃との関係も、ヴィルヘルムは既に知っていた。

――そしてその事実が、彼の女性への嫌悪感を増幅させる結果となった。



「……眠れない、外に出るか」



ヴィルヘルムは寝るのを諦め、王宮から外へ出た。




読んでくださってありがとうございます!


ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。