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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

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55 愛情の薄らぎ

「――陛下、そんなにお散歩がしたかったんですか?」

「……ああ、最近忙しかったし……あまり時間が取れなくてな」



昼食を終えたあと、マデリーンはヴィルヘルムと二人で外の庭を歩いていた。

特にやることもないため、散歩でもしようとヴィルヘルムが提案したのだった。



マデリーンは困惑したが受け入れ、彼と公爵邸の庭を二人で歩いた。



(王妃宮は綺麗な薔薇園があったけれど、セヴェランス公爵邸の庭園も負けないわよ)



マデリーンは横を歩くヴィルヘルムを見上げた。

気のせいか、今朝より顔色が良い。ご飯をたくさん食べたからだろうか。



ヴィルヘルムは十九歳の青年らしく、よく食べる。

普段からかなり運動していることもあり、彼の胃袋は父や弟をも凌駕していた。



(今度大食い対決を申し込もうかな)



受け入れてくれるかはわからないが、ヴィルヘルムと大食い対決なんて何だか楽しそうである。

しばらく歩くと、庭の掃除をしていた一人の侍女と遭遇した。



彼女はヴィルヘルムを見るなり、その場に膝をついた。



「国王陛下、ご機嫌いかがでしょうか」

「……なぜ王妃には挨拶をしない?」



ヴィルヘルムの放つ冷気に気付いたのか、侍女がビクッと肩を震わせた。



「も、申し訳ございません……王妃陛下、ご機嫌いかがでしょうか……」

「……顔を上げなさい」



セヴェランス公爵家の使用人たちは、今までマデリーンを貴族令嬢として扱うことはなかった。

しかし、ヴィルヘルムが隣にいる今、いくら気に入らなかったとしてもきちんと礼を尽くさなければならなかった。

マデリーンが下がりなさいと言うと、彼女は逃げるように立ち去って行った。



彼はそんな侍女の走り去る後ろ姿を見ながら、呟いた。



「……ここにいる使用人たちは無礼だな。見ていて腹が立つ」



このとき、ヴィルヘルムは先代国王夫妻が生きていた頃の生活を無意識に思い出していた。

王宮の使用人たちは彼の血筋が気に入らないのか、父母の見ていないところで陰口を叩いたり、無視したりもした。



マデリーンが全く同じ目に遭っていたとは、彼も驚きだった。

同時に、いつもよりも強く湧き上がる罪悪感。元々傷を抱えていた彼女に、彼はさらなる傷を植え付けた。



彼は自身の過去の罪を思い知り、マデリーンに向かって口を開いた。



「……マデリーン、すまなかった」

「……」



初めて名前を呼ばれたことが衝撃だったのか、彼女は目を見開いた。

そのような反応をさせてしまうほどマデリーンを冷遇してきたのは、紛れもないヴィルヘルムだった。



「……いえ、お気になさらないでください」

「……」



マデリーンは微笑んだが、彼の罪の意識が消えることはなかった。



(私も人としていけないことをしたんだし……そんなふうに思わなくてもいいのに)



彼女はヴィルヘルムを真面目で誠実な人だと評していた。

その評価は今も変わっていない。元々優しい人だからこそ、幸せになってほしい――そんなどうでもいいことで悩まないでほしいと心から思っていた。



せめてもの贖罪として、彼が楽になれるようにしよう。



「そうだ、前に赤い薔薇の花束をくださいましたよね」

「ああ……それがどうかしたか?」



マデリーンは近くに咲いていたある花を一本手で折った。

それを背中に隠すと、ヴィルヘルムの前に立って彼を見上げた。



目を合わせると、彼女が笑った。

正面から笑顔を向けられるのはあまりないせいか、ヴィルヘルムの胸が高鳴った。

菫色の瞳が美しく輝いている。一体何をするつもりなのだろうか。



期待で胸を膨らませながら、彼は彼女の次の行動を待った。



「――はい、お返しのプレゼント!」

「…………これは」



マデリーンが背中から取り出したのは、一本の黄色い薔薇だった。

ピンと伸びた茎のてっぺんに咲いた、美しく黄色い花。



ふと彼女の背後に目を向けると、色とりどりの薔薇の花が咲き誇っていた。

赤、青、黄色――どれも鮮やかで美しい。



「……俺に、くれるのか?」

「ええ、もちろんです」



マデリーンはニッコリと笑った。

彼が彼女に気持ちを抱いてから、初めてのプレゼント。

当然、ヴィルヘルムは涙が出るほど嬉しかった。



「……」



しかし、彼はどうしても素直に喜ぶことができなかった。

マデリーンから贈られた黄色い薔薇の花を、受け取ることを躊躇してしまう自分がいた。



―――黄色い薔薇の花言葉は『愛情の薄らぎ』



赤い薔薇が隣にあるにもかかわらず、マデリーンは黄色を選んだ。



「ぜひ受け取ってください、陛下」

「……ありがとう、マデリーン」



ヴィルヘルムは震える手を動かし、彼女からのプレゼントを受け取った。

マデリーンの前で、情けない顔は見せたくなかった。



たとえ後ろ向きな意味の花言葉を持っていたとしても、彼女からもらった大切なものに変わりはない。

だけど、どうしてこんな気持ちになるんだろうな。



「私、先に部屋に戻っていますね。陛下もここにいる間はゆっくりなさってください」

「……あぁ、そうしよう」



マデリーンは薔薇を受け取ったヴィルヘルムに向かって笑うと、彼の前から立ち去って行った。

現実を突き付けられた彼は、一人呆然とその場に立ち尽くしていた。





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