47 仕返し
「あ、あなた……自分が何を言っているか理解していますの!?」
「王孫が生まれてくるというのに……あり得ないわ!」
ソフィア側の令嬢たちは、揃って彼女を非難した。
しかし、今さらそんな批判の言葉などマデリーンは気にも留めていない。
狼狽える周囲を前に、マデリーンはキッパリと言い放った。
「ですから、もう一度言わないとわからないでしょうか?興味がありません――陛下にも側妃様にも、その間に生まれてくる御子にも」
「……!」
王妃でなければ不敬罪にもなりうるその発言に、場は凍り付いた。
しかも、ソフィア本人が目の前にいる。この状況で興味がないなどと返せるのは、きっとマデリーンくらいだろう。
「ご令嬢こそ……そのような質問を私にするだなんて、ずいぶん意地悪ですね?」
「ッ……」
マデリーンは意地悪な質問をした彼女に対してニッコリと笑った。
いくら低位貴族の令嬢とはいえ、そこまでの無礼を見逃すマデリーンではなかった。
「令嬢が私に何と答えてほしかったのかは知りませんが……私から言えることはそれだけです」
「……」
きっと令嬢たちは、悔しさを滲ませて嫉妬に狂うマデリーンの姿を期待していたのだろう。
彼女たちの意図を知っていて、わざわざ醜い姿を見せるなんてこと、今世のマデリーンは絶対にしない。
重苦しい空気に包まれた中、一人の令嬢が毅然とした様子で口を開いた。
「ですが、先ほどの王妃陛下の発言はいくら何でも軽率ではありませんか?」
「……どういう意味でしょう」
よくこの状況で声を上げられるなと、マデリーンはむしろ感心した。
彼女はこの中で最も身分の高い伯爵令嬢だが、なかなかに肝が据わっている。
「王家の血を引く御子の誕生は、国民全員で祝うべき一大行事です。興味がないとは……いくら王妃陛下だろうと、到底許される発言ではないのでは?」
「……」
彼女はマデリーンを批判するような厳しい視線を向けた。
そんな目で見られたことは初めてではなかったため、別に何とも思わない。
(私は王妃だってのに……そっちのほうが失礼だわ)
彼女の発言を皮切りに、他の令嬢たちもマデリーンを非難し始めた。
「王妃陛下は御子の誕生を素直に祝えないんですね」
「仕方がありませんわ、王妃様は陛下の寵愛を得られなくて荒れているんですから」
「それより、正妻より先に側室が妊娠するとは……何と不憫な……」
一人だと怖くてできないことも、集団ならば平然とやってのける。結局のところ、彼らは臆病者だった。
「……」
その結果、マデリーンは軽蔑と憐憫の目に晒される羽目になった。
横にいたソフィアをチラと見ると―――彼女はこの状況を面白がるように口元に笑みを浮かべていた。
(……今ので確信したわ、ソフィアは私を嫌っている)
マデリーンはこのときになってようやくその事実を悟った。
たしかに、今までの彼女の言動行動を思えば好かれるはずがない。
しかし、彼女は既に二人の仲を応援すると言って身を引いたあとだった。
その状況で、わざわざマデリーンを敵対視する必要などないのではないか。
マデリーンは苛ついた様子で、口を開いた。
「――私がいつ、側妃様の懐妊を祝えないなんて言いました?」
彼女は手に持っていたティーカップをガシャンッと音を立ててソーサーに戻した。
その音で、令嬢たちはビクリと肩を上げた。
「きちんと言ったはずですわ、ただ興味がないだけだと。それを不快に思っていると誤解されるだなんて……心外ですね」
「きょ、興味がないという発言も問題ですわ……!」
一介の貴族令嬢であれば、たしかに問題になっていただろう。
しかし、マデリーンは王妃であり、ヴィルヘルムからの冷遇を受け続けていた。
そんな状況で素直に側妃の妊娠を喜べる人間がどこにいるのか。
「そうですね、言われてみればたしかに私の発言もいけなかったかもしれません」
マデリーンは事態を止めようとしないソフィアに、少しだけやり返すことにした。
彼女のほうを向くと、ニッコリと穏やかな笑顔を作った。
「側妃様、改めて言わせていただきますわ。ご懐妊、おめでとうございます」
「……ありがとうございます、王妃陛下」
ソフィアは眉をピクリと上げ、言葉を返した。
マデリーンが何を言うつもりか、警戒しているのだろう。こういうときに限って、やたらと勘が良い。
「それにしても、後宮に上がってからたったの三ヵ月で妊娠するだなんて驚きましたわ――まるで、側妃になる前から子供がいたみたい」
「……ッ!」
その一言で、ソフィアの顔色が変わった。
貴族社会では基本的に、結婚前の妊娠はご法度だ。ほとんど確定しているようなものだが、ヴィルヘルムの寵愛という盾があるからか、誰もその件については一切触れなかった。
(私という存在がいながら、彼と関係を持つなんてね……)
それもヴィルヘルムに本妻がいる状況での妊娠。
ソフィアがしていることは、売春婦とそう変わりはないのである。
「……王妃様ったら、とんでもないことをおっしゃるのですね。そんなこと、あるわけないではありませんか」
「冗談ですよ、冗談。私は側妃様と国王陛下の仲を心から応援しているのですから」
顔を真っ青にするソフィアに、マデリーンは余裕たっぷりな笑顔を返した。
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