46 側妃の茶会
孤児院への訪問から数日後、マデリーンはあれからロベルタ伯爵と手紙のやり取りを続けていた。
彼の事業に正式に協力することを約束したマデリーンは、ロベルタ伯爵の支援者となった。
伯爵の事業に触れることで、彼女自身多くの学びを得ることができている。
福祉にはちょうど興味を持ち始めていた頃だったし、伯爵から仕事の話を聞くのは楽しかった。
そして今、彼女は忙しい時間を縫ってある人物の茶会に参加していた。
「……お久しぶりです、側妃様」
「王妃陛下、来てくださったんですね!」
嬉しそうに駆け寄って彼女の手を握ったのは、ヴィルヘルムの側妃ソフィアだった。
前に見たときよりもお腹が膨らんでいる。既に妊娠してから四ヶ月が過ぎた頃だった。
今日、マデリーンは舞踏会でのお礼がしたいとソフィアから茶会の誘いを受けていた。
別に礼をされるほどのことでもなかったが、久々の茶会だしと、彼女は参加することを決めた。
茶会が開かれたのは、側妃の住む後宮にある庭だった。
マデリーンはこの場所に来たことが何度かある。主にヴィルヘルム関連でソフィアを詰るために。
(それより、気になるのは……)
マデリーンは後ろで座っている数人の令嬢に視線を向けた。
子爵家、男爵家、伯爵家……ソフィアが懇意にしている令嬢たちだ。
彼女たちは前世からソフィアを慕い、マデリーンを目の敵にしていた。
(王妃が来たっていうのに座ったまま……いくら何でも失礼だわ)
いくら改心したとはいえ、ここまでの無礼を見過ごすわけにはいかない。
「ところで……あそこにいる方々は一体どこの高貴な身分のお方でしょうか?」
「……陛下」
彼女は顎で座ったままの令嬢たちを指した。
そこでソフィアは、ようやく彼女たちの不敬な行動に気付いたようだった。
「……皆さん、王妃陛下にご挨拶を」
「……王妃陛下にご挨拶申し上げます」
令嬢たちは嫌々ながらも、カーテシーをした。
不快感を隠そうともしないその態度は、どう見てもマデリーンを見下していた。
(私が寵愛を得られない王妃だからって、馬鹿にしているのね?)
彼女たちは全面的にソフィアの味方だった。
そのため、ヴィルヘルムの正妻であるマデリーンを敵対視するのはごくごく自然なこと。
令嬢たちの失礼な態度に眉をひそめていると、彼女らを庇うようにソフィアが前に出た。
「――王妃陛下、不快に思われたのならすみません。私からきちんと言っておきますわ」
「……」
ソフィアは困ったように眉を下げ、マデリーンから彼女たちを守った。
以前のマデリーンなら、ここで声を荒らげていただろう。しかし、敵陣も同然のこんな場所で、みっともない真似をするわけにはいかない。
側妃のソフィアに警戒されるわけにもいかなかった。
「そうですね……側妃様の友人ですので、今回は大目に見ましょう」
「まぁ、王妃陛下はお優しいのですね」
マデリーンは参加者の令嬢たちに顔を上げるよう命じた。
「さぁ、陛下。どうぞ座ってください」
「ええ……」
ソフィアは自身のすぐ横の席を、マデリーンに薦めた。
そこは、主催者にとって最も親しくしている者を座らせる椅子だった。
「みんな、陛下がいらっしゃるのを待っていたんですよ」
「そうだったんですね、お待たせしてしまって申し訳ありません」
ソフィアの取り計らいにより、和やかな雰囲気でお茶会は始まった。
普段から仲良くしているメンバーの中で明らかに場違いなような気がするが、マデリーンは何とか耐えていた。
「側妃様、出産予定日はいつですの?」
「来年の二月です」
「側妃様と陛下の御子なら、きっととっても可愛らしいでしょうね!」
彼女は会話に入っていくこともできずに、ただ適当に相槌を打っていた。
(……そういえば、もうそんな時期か)
自分のことで手一杯だったマデリーンは、側妃の出産が迫っていることをすっかり忘れていた。
彼女の出産は、前世ではマデリーンに最大の屈辱を与えた一大事だった。
「―――ねぇ、王妃陛下もそう思いますわよね?」
「…………私?」
考え事をしていた彼女は、突然話を振られて顔を上げた。
正面に座っていた一人の令嬢と目が合うと、彼女の口元が醜く歪んだ。
「王妃陛下も……側妃様と国王陛下の御子はとっても可愛らしいと思いますよね?」
「……」
側妃の妊娠の話題を王妃に振るなど、彼女の言動はあまりにも行き過ぎていた。
答える必要もないと思ったマデリーンは、すぐ隣にいるソフィアを見た。
彼女も困惑しているだろうと思っていたマデリーンだったが――
「……な」
「……」
――ソフィアはただ、無表情でマデリーンを見つめていた。
それはまるで、マデリーンが答えるのを待っているようだった。
(どういうこと?彼女の言動を何とも思っていないわけ……?)
そこでマデリーンは、ようやく真実に気が付いた。
――最初から、この茶会は彼女を貶めるためのものだったということを。
しかし、ソフィアたちの真意がわかったところで、思い通りになるようなマデリーンではない。
彼女は視線を一身に浴びながら、ゆっくりと口を開いた。
「そうですわね―――だけど正直、興味がありませんわ」
「…………な、何ですって!?」
それは、王妃としてあるまじき発言だった。
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