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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

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42/100

42 忠告

ヴィルヘルムが王妃宮へ急いでいた頃、マデリーンは彼が来ることなど知る由もなく、フレデリックと話し続けていた。



「それで、最近は料理にハマっているんです」

「まぁ、騎士が料理だなんて珍しいわね。一体どんなものを作るの?」



同い年であるせいか、フレデリックとの話は弾んだ。

ヴィルヘルムにはない話しやすさや気軽さというものが、彼との間にはたしかに存在していたのだ。



「大したものではありませんよ。実は、王妃陛下が作ったサンドイッチがどうしてももう一度食べたくて……似たようなものを作ってみたんですけど、何かしっくりこないんです」

「そうだったのね……」



フレデリックがマデリーンのお手製サンドイッチを作っていたとは、驚きだ。

そんなに忘れられない味だったのだろうか。

自分の手料理を褒められると、やはり嬉しいものだ。



すっかり気分が良くなってしまったマデリーンは、鼻高々に言った。



「そうねぇ、そこまで食べたいって言うんだったら……特別にレシピを伝授してあげてもいいわよ」

「ほ、本当ですか……!?」



フレデリックは嬉しそうに目を輝かせた。

彼にとってマデリーンの作ったサンドイッチは、今までで食べた中でもトップ十に入るほどだったからだ。



「ぜひ、教えていただきたいです!王妃陛下!」

「いいわよ……まずはね……」



マデリーンは彼に近づき、耳元にそっと顔を寄せた。

―――彼女が口を開きかけたそのとき、突然低い声が二人の間に割って入った。



「………こんなところで、一体何をしている?」

「……?」



聞き覚えのある声に、マデリーンとフレデリックは同時に振り返った。

そこに立っていたのは――



「……………陛下?」



ヴィルヘルムが、額に青筋を立ててこちらを睨んでいた。

彼の姿を見たマデリーンは、慌ててフレデリックから距離を取った。



もしかして、今の姿を見ていたというのか。

マデリーンの顔色が青くなっていく。



「ど、どうしてここに……!」

「陛下……」



呆然と立ち尽くすフレデリックに、ヴィルヘルムは厳しい目を向けた。



「王である俺を前に、挨拶すらしないのか?」

「……!」



その言葉でフレデリックは我に返り、慌てて地面に膝をついた。

胸に手を当て、臣下の礼を執った。



「国王陛下にご挨拶申し上げます。ご機嫌いかがでしょうか」

「……お前、名前は何だ?」



フレデリックに向けられたヴィルヘルムの目は、氷のように冷たい。前世のマデリーンに注がれていたものとは比べ物にならないほどだ。

名前を尋ねられ、彼は何とか冷静を保って答えた。



「フレデリック・ノートンと申します」



ヴィルヘルムはフレデリックと名乗った彼を凝視した。



「……その顔、見覚えがあるな。近衛騎士団で修行をしていた従者か」

「……はい、陛下」



マデリーンはソワソワした気持ちで二人を眺めていた。

ヴィルヘルムのは今すぐにでも彼に手を出してしまいそうだった。



「……俺(・)の王妃と何を話していたかは知らないが、ずいぶん仲が良さそうだな」



そこで、ヴィルヘルムは近くにいたマデリーンに目を向けた。

彼の冷たい視線を浴び、彼女はビクリと肩を上げた。



(俺の王妃だなんて……陛下にはソフィアがいるはず……)



彼を深く愛する側妃のソフィアが今の発言を聞いたら、きっと悲しむだろう。

そんな彼女の気持ちなど気にも留めず、ヴィルヘルムは言い放った。



「ノートン卿、お前はしばらく謹慎だ。さっさと連れて行け」

「はい、陛下」



ヴィルヘルムは自身の護衛騎士に命じ、フレデリックは罪人のように両脇を抱えられて連れて行かれた。

少し親しくしていただけでやりすぎだと、マデリーンは彼に抗議しようとした。



「ちょ、ちょっと待ってください!陛下!」

「……王妃」



マデリーンは、そのまま去ろうとしたヴィルヘルムの前に、立ちはだかった。

彼の前に出るのは初めてのことではなかったが、どうして今はこんなにも胸が張り裂けそうになるのだろうか。

ヴィルヘルムの視線を受けながら、彼女は何とか言葉を紡いだ。



「謹慎なんて……いくら何でも重すぎるのではありませんか?」

「王妃……本気で言っているのか?」



彼女の発言が気に入らなかったのか、彼は眉をひそめた。

おそらく、マデリーンがフレデリックを庇ったのが不快だったのだろう。



「陛下……彼は叙任式を控えているんです。どうか、叙任式までには……」

「……叙任式があるだと?」



それを聞いたヴィルヘルムは、ニヤリと口角を上げた。



「――なら、アイツの叙任式を無しにしよう」

「陛下!」



マデリーンの脳裏に、騎士になれることを喜んでいたフレデリックの顔が浮かんだ。

彼女は懇願するように、ヴィルヘルムの服を掴んだ。



「陛下、お願いです……やめてください……ノートン卿には何の非もありませんから……」

「……」



彼女の身体が小刻みに震えていることに気付いたのか、ヴィルヘルムは徐々に正気を取り戻した。



「……俺も我を忘れていたようだ」

「……」



彼は彼女の手を振り払った。

以前のように荒い手つきではなく、そっと優しく。

ヴィルヘルムはマデリーンを見ることなく、彼女に告げた。



「王妃、俺の前で他の男を擁護しないでくれ」

「陛下……?」

「次……そういうことをされたら、俺も正気ではいられないだろう」



それはまるで、忠告のようだった。どうしてそんな悲しそうにしているのだろうか。

ヴィルヘルムはそれだけ言うと、振り返ることなく王妃宮を去って行った。



――その後ろ姿は、なぜかとても弱々しく感じられた。




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